Phase.87 『北上さんと大井さん その3』
アイスコーヒーをちびりと飲んだ。すると北上さんは、自分達は『異世界』を知っていると話し始めた。
「えっと、実は私と海は『異世界』には、何度も行っている転移者なの」
翔太は、物凄く平静を装っているがこめかみのあたりに浮き出た血管がピクピクしているので、相当に驚いているようだった。
「それは驚いた。北上さんが話してくれた以上、俺達も話すけど……お察しの通り、俺達も転移者だ」
「やっぱりそうだったんだ」
北上さんは大井さんと見つめ合うと、溜息を吐いた。そして更に突っ込んで聞いてきた。
「それで椎名さんは、他に仲間がいたりするの?」
そう言われて、未玖の顔が浮かんだ。俺達のクランメンバーにはなってもらっていないけれど、長野さんや佐竹さん達の顔も浮かぶ。少なくとも俺は、彼らの事を異世界仲間だと認識している。
でも北上さんの質問に、ペラペラと答えて良いものなのか……それを一瞬考えた。
「ねえ、教えて欲しい。椎名さんと秋山君には他に仲間がいるの?」
翔太の顔を見る。すると翔太は、俺が答えてもいいと思うならいいんじゃないかと頷いた。
「ああ、仲間はいる」
「そ、そうなんだ」
今度は、俺達に仲間がいる事を知って俯く北上さん。なんだ? いったい何がいいたんだろう?
「あの……」
「はい……」
「もし良かったら私と海も、椎名さんと秋山君の仲間に入れてもらえないかしら」
「え? 仲間に?」
「うん……ダメ……かな?」
仲間は探していた。もっと拠点に人手が欲しいと思っていた。それに北上さんも大井さんも凄く美人で可愛いし、ゲームやアニメも好きだと言う。
こんな子達が俺達の仲間に加わってくれたら、そりゃ嬉しいし楽しいと思う。それに他に女の子がいるのは、未玖にとってもいい事だ。
翔太が俺の代わりに聞いてくれた。
「ああ、それは嬉しい申し出だよなユキー。でも二人は、もしかしてたった二人であの『異世界』に転移しているんだろ? 危険な魔物だっているし、怖くないのか?」
今度は大井さんが答える。
「それは……私達にも他に仲間がいるから」
え!? どゆこと?
「実は私と美幸には、他に何人もの仲間がいるの。『幻想旅団』って言う名前のクランも作っていて……」
クラン!? 俺達と同じだ。っていうか、俺達の場合は佐竹さん達の『竜殺旅団』っていうクランに影響を受けて、真似させてもらってクランを結成しようってなったんだけど。
他に転移者がいるのは知っていたけど、他にもクランを結成していた者達がいるなんて――
でも考えてみれば当然かもしれない。俺はよくあるファンタジー物のテレビゲームで、一番の雑魚敵として現れるスライムにも殺されかけた。
ウルフやゴブリンだってそうだ。あの危険な異世界で、他の誰かと結束するというのは合理的で、当然な考えかもしれない。だからその中でも長野さんみたいな人は、特殊なタイプと言えるだろう。でも、彼には銃という強力な武器があった。
「だけど私達のいたクランのリーダーがちょっとね……それで今凄く何て言うのか、クラン内の空気も悪くて……でも『異世界』には、私も海も行きたいの。行ってあの夢のような世界をもっと見てみたい。だけど私達二人だけじゃとても……だし」
北上さんがそう言って、申し訳なさそうにまた俯いた。大井さんは、俺と翔太の目見ると申し訳なさそうにして言った。
「駄目……かな? 私達も椎名さん達の仲間に入れて欲しい」
うーーーん、どうしたものか。
一応未玖にも聞いてみたいかもだけど、翔太の時と同じく頷くだけだろう。それに今は、俺はクランのリーダーだ。仲間にすると決めても、翔太も未玖も決定権はリーダーにあるから、別にいいんじゃないかと言って承知はしてくれそうだ。
だけど気になる点が無いわけではない。
「実はね、俺達もクランを結成していて、一応現時点では俺がリーダーって事になっているんだ。だから北上さん達を仲間にする事は俺が判断していいと思っているし、嫌がる人もいないと思う。それに実際、今俺達は他にも仲間が欲しいと募集中でもあるんだけど」
「じゃあ!」
「でも気になる事がる。北上さんと大井さんは、その『幻想旅団』ってクランに在籍している訳だろ? 俺のやってたネトゲじゃ、掛け持ちNGのクランもあったからなー。うちはいいけど、そっちはいいのかどうか? 許してくれるのかな?」
そう言うと北上さんと大井さんは、嬉しそうな顔をして身を乗り出していった。
「それは大丈夫だから!! 椎名さん達には関係の無い事だし、『幻想旅団』の事はちゃんとする。それにもうあの空気の悪いクランに戻りたくないし……私も海もあのクランとは、きっぱりと手を切って辞めるつもりだから、椎名さん達のクランに入れて! 入れてくれたら、私達何でもするし必ず役に立つから!」
そこまで言うならーーって思った所で、翔太が俺の肩を叩いた。
「なんだよ」
「いいんでねーーの?」
「ええ?」
「だから、いいんでねーーの? な! こんな可愛い女の子二人も仲間になるんだぞ。いいんでねーーの? な?」
「お前はまたそんな事ばっかり……」
「未玖ちゃんもきっと喜ぶぜ」
翔太の口にした未玖の名に、北上さん達は首を傾げる。
「未玖ちゃん?」
「ああ、未玖は俺達の仲間なんだ。よし、じゃあ二人を俺達の仲間に受け入れよう。だけど仲間同士喧嘩はしない事と、困っていたらお互いに助け合うとか、そういう基本的なルールはあるからそれは守ってくれ」
北上さんも大井さんも、凄く喜んでくれた。今晩から早速同行したいという。だけど今日は、俺と翔太には予定がある。翔太の友人の鈴森孫一という人物と会うのだ。
その事を伝えると、北上さんと大井さんは俺が秋葉原から家に戻るタイミングを見計らって、俺のうちに来ると言った。
俺は北上さん達が家に来るのは嫌だと言ったが、二人の話を聞いてみると『異世界』で北上さん達がいた場所は、俺達の拠点とは遠そうな場所だった。
だから同じ場所に転移する為には、翔太の時と同じく一緒に転移しなければならなかった。
しかしまいった。もっと前にうちに女の子が来ると解っていたら、掃除をしていたのに……どうしよう。




