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Phase.86 『北上さんと大井さん その2』



 自分のデスクに座り仕事に取り掛かる事、数時間。待ちに待った昼休憩の時間がやってきた。


 未玖は、今頃きちんと昼食を食べているだろうか。山程、レトルト食品やカップ麺、缶詰など置いてきたから食べるものに困るという事はないとは思うけれど、やっぱり心配になる。


「ユキーー、飯にしようぜーー!!」

「おお、飯だな飯!」

「椎名さん、秋山君。お疲れ様――」


 北上さんと大井さん。今日は4人で昼食をする事になっていた。


 本当は、翔太と二人で食事しながら今晩合う鈴森孫一という友人の話や、『異世界(アストリア)』の話も色々と話をしておきたかったんだけど……北上さん達とは確かにランチの約束をしていた。だから仕方がない。


 いや、仕方がないというのは違うな。俺達みたいな、なんの取柄もないオタクにこんな可愛い女子二人がランチに誘ってくれているんだから。


 奇跡だと言ってもいいかもしれない。だけど俺達の頭の中は、今はあっちの世界の事でいっぱいなのだ。考えなくてはならないことも、山のようにある。


「ひゃーーー、北上さんと大井さんみたいな美女にランチに誘われるなんて、めっちゃ光栄だわ。ねーねー、これでもう俺達の仲、深まったし下の名前で呼んでいい? ねえねえ?」


 前言撤回!! 翔太は、女の事で頭がいっぱいだった。まったく、こいつは……


「別に下の名前で呼んでもいいけど、秋山君……私達の下の名前知らないしょ?」

「えーー? 教えてよ。そこは教えてよーー。ほら、もったえぶらずにー!」


 今まで業務上会話する事はあったけれど、これ程二人と喋る事はなかった。ってほとんど、北上さんと翔太で会話しているだけだけど。まあ、何と言うか新鮮な光景だった。


「そ、それじゃこのままデスクにいても時間がもったえないし、ランチに出ようか?」


 頷く3人。俺は結局他に何かいいランチ場所も思いつかず、俺と翔太のお気に入りのオムライス屋へ北上さんと大井さんを招待した。


 店内に入ると、いつもの4人掛けのテーブル席が目に入る。いつもはこのテーブルを翔太と二人で使ってオムライスと珈琲を楽しむんだけど……今日はなんか変な感じ。


 なんかこっ恥ずかしくて、翔太に隣に座る様に言った。でも会話をするなら、これで正しいフォーメーションだと思った。


 前の俺なら、こんな可愛い女の子達と相対して食事をするなんてできなかったが、これも『異世界(アストリア)』のお陰だと思った。


 ゴブリンやウルフと死闘を繰り広げた俺なら、こんなの造作もない事。少しだけど、度胸がついた。


 注文したオムライスと飲み物がテーブルに運ばれてきた。早速、がっつく。そんな俺と翔太を見て北上さん達はドン引くかなと思いきや、笑っている。


 食事中は、北上さん達の事を翔太がひたすら聞いていた。


 好きな食べ物は? 好きなテレビ番組は? もしかして彼氏とかっているのかな? そう言えば下の名前ってさ。こんなくだらない内容の話。


 それでも翔太がペチャクチャと、俺の代わりも務めて北上さん達と会話をして場を繋いでくれているので、素直にありがたいと思った。

 

 食事が終わり、珈琲を飲んで一息つくと、北上さんが俺の方を見つめて言った。


「あのーー、椎名さん達っていつも二人で楽しそうな会話してるから、前々から一緒に食事でもして仲良くなりたいなって思っていたんだけどさ」

「うっひょーー!! うそーー、まじでーー!! テンション昂るーーう」

 

 今にも身を乗り出しそうな翔太を、強引に押さえつける。そして北上さんに言った。


「楽しそうっちゃあ、楽しそうかもしれないけれど、俺達大概アニメかゲームの話しかしてないよ。オタクだからさ。きっと北上さん達、つまんないよ」

「それは解らないでしょ。現に私と(うみ)も、結構なアニメオタクにゲームオタクだし」

『え!?』


 北上さんのこの発言にはびっくりした。大井さん――大井海(おおいうみ)さんの顔を見ると、少し恥ずかしそうにしている表情が、北上さんの言った事が真実だとより裏付けていた。


「何となく会社でそうだと明かすのは恥ずかしくて隠していたんだけど、椎名さんや秋山君見てると凄く楽しそうにそういう話をしているから。それで会社じゃ同僚だけど、友達にもなれないかなって思って」


 翔太と顔を見合わせる。これは驚きの転回だけど、北上さんや大井さんと今まで以上に仲良くなれるのはいい事だと思った。北上さんは続けた。


「それでね。それで朝、二人が話しているのを偶然聞いちゃったんだけど……もしかして二人って転移者なの?」


 !!!!


 え? どういう事だ? もしかして北上さんは、オタク友達ができた喜びで、いきなり転移とか転生もののアニメかラノベなんかの話を……って訳はないよな。まさか……


「ずばり聞いちゃうけど、椎名さんと秋山君は『異世界(アストリア)』の事を知っているんじゃない? ううん、知っているだけじゃない。転移して向こうの世界を知っている?」


 翔太の方を見ると、凄い汗。このままほっとくと、目が泳ぎ出して口笛を吹き始めるぞ。こりゃもう、隠してられない。だが北上さんはなぜ、俺達がそうだとその事を知っているんだ?


 考えられるのは二つだと思った。


 俺たち以外の転移者は、未玖や長野さんや佐竹さん達に出会って存在を知っている。


 つまり、誰か他の転移者がネットとかSNSとかで『異世界(アストリア)』の情報を流していて、それを見た北上さんは、興味を持って知ってしまった。それで、今朝の俺達の会話から『異世界(アストリア)』というワードを聞いてしまって、気になりまくってしまっている。


 そして、もう一つ考えられること。


 実は北上さんも、俺達と同じく転移者だった。


 そのどちらかだろう。

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