Phase.83 『クラン その1』
――――どんよりとした曇り空。
昨日までの異世界生活は、昼間は晴れ渡っていて日中は暑い位だった。なのに今日は、朝からずっとどんよりとした天気。
朝、佐竹さん達を送り出すのにどうせなら快晴位の気持ちのいい天気なら良かったのになと思った。でも暑くて汗を掻いたり披露したりする事を考えると、曇り空というのもまったく悪い事ばかりではないかもしれないとも思う。
佐竹さん達、今頃は何処でどんな冒険をしているのか――まあ、いくら羨ましくても俺は、しっかりと地盤を固めながら前に出る。なにせ、心配症な性格だから。
「ユキーー、そっち引っ張ってくれ。未玖ちゃんも頼む」
「は、はい!」
「オッケー! じゃあ引っ張るぞ!」
『異世界』では、インターネットが使用できない。テレビも見れないので、天気予報も解らない。だから常に雨が降るかもと天候を考え、予想を立てて行動しなくてはいけない。
雨が降る中で焚火はできないので、まだ曇りのうちに翔太と未玖と3人でブルーシートをタープ代わりにして広く張った。
周囲には、ログアップの木やレッドベリーの木を植えて、それを柱代わりにしてシートで屋根を作る。しっかり紐で結び付けたので、これで台風でもこない限り、屋根代わりのシートが飛ばされる事はない。
「おお! いい感じじゃないか。それじゃ早速、この屋根の下で焚火を熾そうか」
「ユキー、それならちゃんとした焚火場所を作ろうぜ。石で囲っていい感じにさ。焚火の上にシートの屋根があれば、別に雨の日だけじゃなくて日差しの強い時でも日よけになっていいよな」
「言われてみればそうだな。よし、そうしよう」
たまに出る翔太の会心の一撃。翔太は稀にいい事をいう。
早速、シート屋根の下に焚火場所を作った。オマケで、調理台の代わりになる長方形の石と、椅子代わりの石も置く。座ってみると直に地面に座るより、遥かにいい。特に雨が降ったりして地面が濡れたりしたら、石でも座れる場所があるのはありがたいと思った。
小屋も佐竹さん達の助力のお陰で、丸太小屋を合わせて拠点内には今や4軒もある。でも一応用心して、バーナーやカセットコンロ以外の火は、小屋内での使用はしないでおこうと決めていた。
ふう……
俺自身はこの拠点を3人の拠点だと思っているけど、二人はここのリーダーは俺だと決めつけていた。だから何かルールを作ろうとすると、二人とも意見を言ったりはするが最終的には従ってくれる。
未玖がちょろちょろと忙しなく動いて、昼食の準備を進めていた。シート屋根の下での飯は、初めてになる。
翔太は、川で獲った魚を豪快に串刺しにすると、そのまま焚火の周囲に突き立てた。薪が燃えてパチパチと音を立て始めると、魚を焼くその横に未玖が網を乗せた。網の上にマキガイの入った鍋を置く。
金属製の鍋を吊りさげる三脚でもあればいいけど、何回か焚火で調理をしているうちに、網を置いてその上に鍋を乗せた方が、安定して安全だと気づいた。
鍋。マキガイの入ったスープが沸騰し始めると、おたまでアクを取る。もう少し、煮込んだら味噌を入れて溶くとマキガイ味噌汁の出来上がり。
魚が綺麗に焼きあがる頃には、味噌汁も出来上がっていた。翔太が一番乗りとばかりに「頂きます」と言って焼き魚に被りつく。
「うまーーい!! なんて美味い魚なんだよ、こいつは!! むかーし子供の頃に親と山に行って鮎の手掴み体験して、捕まえた奴をその場で焼いて食べるってのをしたけど、それとタメはる位に美味いわ!!」
「自分で獲ったからな。余計に美味さに補正がかかるよな」
俺と翔太で6匹。つまり3人で2匹ずつ食べた。マキガイの大量に入った味噌汁もあるので、昼食としては十分だった。
食べ終わるとその場でゴロンと転がる翔太。そんなだらしない姿を目の当たりにして溜息がでたが、未玖は笑っていた。翔太がおもむろに言った。
「ところでさ」
「は、はい」
「なんだ?」
「佐竹さん達の事なんだけどさ。めっちゃかっこいいグループ名つけてたじゃん」
「グループっていうか、クランな」
ファンタジーゲームとかで、冒険者が仲間と一緒に旅をする。それを、パーティーを組むと言うんだけれど、仲間が増えて集団とかになってくると、何々の一団とか旅団とか名乗ったりする。それをクランて言ったりするのだ。未玖も佐竹さんが、自分達4人でクランを結成していると言っていたのを聞いていた。
「た、たしか『竜殺旅団』とか言っていましたね」
翔太が笑い転げる。
「あはははは。中二病全開のネーミングセンスだよな」
「ああ、でも羨ましいと思う」
羨ましいと言う言葉で、翔太はキョトンとした顔をした。
「……だよな。だよなーーー!!」
「うるさいよ、うるさい!! ちゃんと聞こえているからもう少し、その声のボリューム落としてくれ」
「俺もそうだよなーーとか、佐竹さん達は異世界生活満喫しているなーーって思って羨ましく思ってた」
「そ、それでなんだ? も、もしかして俺達もクラン作ろうって言いだすつもりか?」
的中だったようだ。翔太は俺の言葉に目を見開いて、口をパクパクとさせながらも俺を指さした。そして絞り出すように言った。
「その通り!! その通りだよユキー!! きっと俺やユキーに未玖ちゃん以外にも、この先もっと仲間が増えるに違いない。既に明日、俺は孫いっちゃんにあってあいつを引き込むつもりだしな。だから俺達でクランを結成しようぜ」
まあ確かに、それはいいかもって思った。そういうのは、翔太と同じで俺も大好きだったりする。なんせ、オタクなもんで。
でもそうなると、俺達にふさわしくしっくりくるような名前を考えないといけないな。
「クラン結成はいいけども、名前は考えているのか? クラン名を」
翔太はニヤリと笑って見せた。




