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Phase.81 『魚 その1』



 朝食も終えた所で、未玖に明日からの事を伝えた。


 今日は日曜日で、明日から俺と翔太はまた会社に出勤しなければならない。だけど仕事が終わり帰宅すれば、毎日ここに戻って来るという事。あと明日は、ここへ戻って来る時間が少し遅くなるという事。


 理由は、翔太の友人と秋葉原で会う約束をしているから。


 鈴森孫一。翔太のネット友達で、性格には少し難があるみたいだけど、信頼できるという部分においては間違いないのと、とても頼りになる男らしい。しかもニートみたいで、一日家でネトゲしているような男らしい。


 つまり、彼が俺達の仲間になってこの拠点に来てくれれば、俺と翔太が会社に行っている間もここにいてくれる訳で、物凄くありがたい。


 この拠点で未玖が独りぼっちという事が無くなる。それが一番俺達にとって大きい。


「翔太、未玖、これから昼飯の調達に行かないか?」

「おお、いいぜ! 何処へ行くんだ?」


 拠点の外――俺は森の方を指さした。


「川で魚を獲ろうと思っている。つまり、昼飯は魚を焼いて食べようかなってな」

「おおーー、いいねえ!! 川が近くにあるのか。よし、いいぜ。行こう行こう」

「わ、わたしはここでお留守番してもいいですか?」

「え? それはいいけど……何かあった?」

「いえ、コケトリスの小屋を作ってあげようかなって思って」


 翔太と顔を見合わせる。未玖がコケトリスの小屋を……確かにそれはいい事だとは思うけど。なぜ、このタイミングなのかと思った。


 すると未玖は空を見上げた。


「今日は凄く空が曇って。もしかしたら雨が降るかもしれないから」

「なるほど、そういう事か。敷地内にはログアップやレッドベリーの木とか雨宿りできるような所もある。小屋の軒下とかもあるけどな。でも確かに、コケトリスの家を作ってやったら喜ぶだろうな。それに安心できる場所ができれば、卵をそこに産むかもしれないし」

「はい」


 未玖は色々な事に気づくし、賢い子だと思った。少なくとも、俺が未玖位の歳の頃はもっと何も考えてないような感じだった気がする。


「よし、じゃあ川には俺と翔太でいこう。未玖、沢山魚を獲ってくるからな。期待して待っていてくれよ」

「そうだぜ。こんなデカイ魚を釣り上げてくるぜ!!」

「おいおい、釣り上げるって……釣り竿が無いから、槍で突くか手掴みするんだぞ」

「えええーー!! そんなのどうやって魚を獲るんだよ、できるのか?」

「少なくとも未玖は、4匹も一気に捕まえた記録がある」

「は⁉ よ、4匹だと⁉ す、凄いな未玖ちゃん」

「は、はい。でも、別にそんな……」

「さあ、行くぞ。ザック背負って準備しろ。それと魔物が出るかもしれないから、武器もちゃんと装備しろよ」


 そう言えば佐竹さんからもらった剣が二振りあった。そのうちの一振りを翔太に渡した。翔太は喜んで直ぐにその剣を自分の腰に吊った。俺の剣に負けないような立派な剣。十分な武器だ。


「うほほー、これはいいな。戦士になった気分だ。剣があれば戦える」

「向こうに俺の作った木人があるから、暇な時間にそれで剣の稽古をすればいい。それとナイフも持ってこないと、魚を獲るのに剣じゃ扱いづらいぞ」

「解ってる解ってるって。さあ行こう、さあ行こう」


 翔太は剣を手に入れた事がよっぽど嬉しかったのか、浮かれている。


 実は俺も丸太小屋で、この今腰に吊っている剣を手に入れた時は、言うまでもなくテンションが急上昇した。やはり男だったら、剣を手にすれば興奮の一つもするもんだな。


「それじゃ未玖。川まで行ってくる。昼には戻るから」

「行ってきまーーす、未玖ちゃん」

「はい、いってらっしゃい。ゆきひろさん、翔太さん」


 未玖はコケトリスの家をこれから作ってやるのだという。ハハハハ、楽しいな。


 柵を抜けると、俺と翔太は森の方へ入りその中を歩いた。未玖の言うように、今日は空が曇っているせいか、若干森の中が薄暗く感じる。


「なんだか薄暗いなあ」

「なんだユキー、ビビってんのか?」

「ビビッてる程度が丁度いいんだよ。この森で俺は、何度か死ぬ思いをしたからな。佐竹さん達と伐採作業していた時もウルフの群れに襲われたしな」

「そういやそうだった。未玖ちゃんもこの森でゴブリンに襲われえて、追いかけられていたんだよな。孫いっちゃんが仲間に入れば3人で出歩けるし、もっと気楽にはなりそうだけどな」

「話したろ。サーベルタイガーとか、空を飛ぶワイバーンも俺は見たんだ。何人いても用心するに越したことはないよ」

「まったくお前は用心深い性格だなー」

「翔太、お前は用心が足りないんだよ」


 何気ない雑談をしていると、川についていた。渓流。翔太のテンションがあがる。


「うおーー!! 川!! 川っだああ!!」

「気を付けろ、走ると転ぶぞ」

「あいてっ!!」


 言っている傍から転ぶ翔太。まったく……


 川に降りると俺と翔太は早速川の魚がいるか目を凝らす。いるいる。何匹もいる。


「よ、よし。早速魚を獲るか」

「慌てるなって。その辺に槍になりそうな棒が転がっているから拾って、先端をナイフで削れ。それで魚を突いて獲るんだ」

「おーおー。ユキーはもうすっかりサバイバルマスターだな」

「茶化すな。はら、始めるぞ。魚を獲るのは、結構難しいんだぞ。のろのろしていると、あっという間に昼になるぞ」

「りょーかい。それじゃまずは槍を作ってっとーー」


 ズボンの裾をめくり上げてジャバジャバと川に入る翔太。あんなに水音を立てていると、魚は全部逃げてしまうぞ。


 俺は持ってきたバケツを水辺に置くと、川の中を覗き込んだ。

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