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Phase.80 『作物の種』(▼椎名 幸廣)



 ――――日曜日、8時。佐竹さん達が手伝って作りあげてくれた小屋で目を覚ました。


 佐竹さん達は、テントを畳み荷物を纏めて冒険の旅に出発した。長野さんもそうだけど、この『異世界(アストリア)』には危険な魔物が徘徊しているというのに皆勇気があると思う。


 佐竹さんのように心強くて強い仲間がもっとできたり、長野さんの持っている銃のように強力な武器を手に入れたら、俺達も『異世界(アストリア)』調査に乗り出せるのにな。


 まあ俺はかなり用心深い性格と自負しているから、この拠点の防衛もしっかりできていないととてもじゃないけど遠出なんてできないけれど。


 しかし未玖の彷徨っていたエリアや、長野さんの言っていた城や廃村や街に神殿、佐竹さんが武器防具を手に入れたという、この拠点から遥か南西にある古戦場跡も気になって仕方がない。正直行って見てみたい。


「ゆきひろさん、朝ご飯の支度できましたよ」

「おう、ありがとう未玖。今、そっちに行く」


 焚火場所に行くと、翔太が鍋を火にかけてかき混ぜていた。見ると鍋の中身はスープだった。肉がゴロゴロと入っている。俺が鍋を覗き込むと翔太が笑った。


「ヒャッヒャッヒャ。昨日、佐竹さん達と宴した時に焼いた肉、めっちゃ美味かったよな。それの残りを使ってスープ作ってみた。美味いぞーこれは」

「う、美味いぞうって、これ肉しか入ってないんじゃないか?」

「当たり前だろー。野菜なんて持ってきてないんだからな」


 うーーん。野菜か……


「それじゃ、飯にしようぜ。未玖ちゃん、器とスプーン……それと珈琲の準備してくれる?」

「はい!」


 珍しく翔太が、朝ご飯を乗り気になって作ってくれているので、早速焚火の前に座ると未玖と一緒にスープを頂いてみた。


 …………ゴクゴクゴク……モッグモッグモッグ…………


「ユキー、未玖ちゃん! どうだ、俺の特製スープは美味いか?」

「う、美味い……」

「美味しいです、翔太さん!」

「そうかそうか。ハハハハ、どうやら俺も料理スキルが高かったようだな」

「うーーん、しかしあれだな。美味い事は美味いけど、やっぱ肉だけってのもな」

「そうですね、野菜が欲しいですね。そしたらもっと美味しくなると思います」

「なんだよー未玖ちゃんまでーー!!」


 焚火を囲んで笑う。翔太が唸った。


「まあ、でも確かにあれだなー。野菜があればいいよなー。でも『異世界(アストリア)』には、冷蔵庫がないからなー。野菜を持ってきても、肉と同様にクーラーボックスに入れておかないとだし、かさばるよな」

「確かにそれはそうだな。酒やつまみ、お菓子なんかも、もっと持ってきたいし……この際女神像と拠点を往復すれば、持ってきたいもの全て持ってこれるけど……」

「あの草原地帯はウルフやスライムが生息しているんだよな。ああ、ちくしょー!! スライムの事を思い出したらムカついてきたぜ。スライム如き、今度会ったらあんなの俺がやっつけてやるがな。ハハハのハ」


 野菜を手に入れたい……その事で考えていると、未玖がポンと手を叩いた。


「どうした未玖?」

「あ、あの……ゆきひろさん、翔太さん。お願いがあります。次回でも、その次でもいつでもいいので、良ければもとの世界に戻った時に野菜の種を買ってきてもらえないでしょうか?」

「野菜の種? 未玖ちゃんそれここで育てるの?」


 翔太が複雑な表情をする。俺もその考えには疑問があったので未玖に言った。


「未玖、この拠点の敷地はかなり広くなったし、野菜を育てるなら畑も沢山作れるスペースがあると思う。だけど未玖は野菜を育てた事があるのか? 俺達だってそんな野菜を栽培する為の農家の人のような知識は無いしなー。仮に上手くいったとしても野菜を育てるのにも時間や手間暇がかかる」


 もっと人手があればいい考えかもしれない。俺や翔太も別にやる事があったりするし、だからといって畑仕事を全て未玖に任せる事もできない。


 未玖一人に任せたとしても、小規模の畑を3つ4つ位が限界だろう。そう考えると、『異世界(アストリア)』のこの拠点内で、いつでも野菜が手に入るというのは魅力的だけど、もとの世界で購入して持ってきた方が合理的だと思った。


 しかし未玖はニコリと笑った。


「最初にまず耕して畑を作る作業と、野菜が育ったらそれを収穫する為には、ゆきひろさんや翔太さんのお力が必要ですが、その他はわたし一人でもできると思います。しかもそれ程知識が無くても、短時間で野菜を育てて収穫できます」


 未玖は、夢のような事を言ってのけた。


「はあ? それはいくらなんでも無理だよ未玖ちゃん」


 自信満々の未玖の顔。これはもしかして……俺は気づいた。


「いや待て、翔太……未玖、もしかしてアルミラージの角を使うという事か」

「正解です、ゆきひろさん」


 なるほど、確かにその方法なら、この拠点でも畑を作って簡単に野菜を栽培する事ができる。しかし限りあるアルミラージの角の粉末。だからといって、使わないで後生大事に取っておくというのも、宝の持ち腐れだ。


「うん、それならいいな! その手でいこう」

「はい!」

「え? え? どういうことだ? 俺にも解る様に説明してくれよ」


 俺と未玖の顔を交互にみる翔太を見て笑うと、実際にアルミラージの角の粉末の効果を見せた方が早いと言って、まず拠点内にあるログアップの木とレッドベリーの木を指して説明した。そして実際に場所を決めて、ログアップの木とレッドベリーの木を翔太の目の前で生やして見せた。


 長野さんから教わった知識。翔太はそれを見ると跳びはねて驚いて喜んだ。


 今日は日曜日。次、もとの世界に戻るのは明日。その時に、作物の種を買ってこようと翔太と話した。

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