Phase.79 『竜殺旅団 その3』
須田が死んだ。
須田が死んだ。須田が死んだ。
「おい!! おい、佐竹!! どどど、どうするんだよ!!」
「ど、どど、どうするって言ったって、ここにいるしかないだろ!! 今、岩から下に降りたらブルボアに殺されるぞ!!」
ブルボアは、ずっと息巻いている。それに怒りに身を震わせ俺達を狙っている。いったいなんで……
すると、小貫が言った。
「お、俺達が仕留めて喜んでいたブルボアと、今俺達を殺そうとしているブルボアは全然デカさが違う……も、もも、もしかして俺達が仕留めたあのブルボアはまだ子供で、これが大人のブルボアなんじゃないか」
「お、大人のブルボアだと……?」
子供のブルボアに、大人のブルボア。小貫の言葉で、俺ははっとした。小貫が続ける。
「こ、こいつはいきなり草原地帯の向こうから現れて俺達に襲い掛かって来た。そんなのありえるか? ももも、もしかして俺、思うんだけど、今俺達の足の下にいるブルボアは俺達が殺して食った奴の親じゃないのか?」
小貫は俺が思った事と同じ事を口にした。戸村が震える。
「う、嘘だろ? じゃ、じゃあこいつは俺達に子供を殺されて喰われたから、復讐に追って来たって事か?」
グモオオオオオオオ!!
ブルボアの雄叫びが、子供を失い怒りに震えて泣き叫んでいるものに聞こえてきた。恐怖が俺の身体を貫く。
「どどっど、どうすんだよ佐竹!! こいつ、絶対諦めないんじゃないか⁉」
「でもなんでこいつ、俺達が自分の子供を殺して喰ったって解って追いかけてきたんだよ」
「そんなの解らん。俺達から自分の子供のニオイがするとか、そんなのかもしれん。なんせ、俺達は子供を食ったんだからな。と、兎に角今はそんな事よりも、ここから生き延びる事だけを考えるんだ。それが最優先だろ!!」
須田……岩の下で横たわる須田の身体は何度もブルボアに踏みつけられて、ぼろ雑巾のようになっていた。辺りは鮮血が飛び散り、ホラー映画で見るような光景になってしまっている。
「生き延びる事ができるとしたら、なんとかあの椎名さんに教えてもらった女神像まで行ってもとの世界へ戻るしかない! どうすればいいか、考えるんだ!!」
「か、考えるって……どうすればいいか……」
グモオオオオオ!!
ドスン、ドスーーン!!
刹那、ブルボアは岩に身体をぶつけ始めた。戸村と小貫がよじ登っている岩。
「うわあああ!! ゆ、揺れている!!」
「こ、このままじゃ岩を潰されて下に落下するぞ! 佐竹、助けてくれええ!!」
ドスン、ドスーーン!!
容赦なく何度も岩に身体をぶつけるブルボア。俺は叫んだ。
「跳べ!! こっちの岩へ飛べ!!」
「ふざけるな、この距離じゃとてもそっちまでジャンプできない!! うわああああ!!」
ブルボアの強烈な突進に、戸村と小貫が乗っている岩は、砕けて崩れた。二人共地面に落ちる。
グモオオオオ!!
「ひいいいいい!!」
ブルボアの大きな牙に、戸村は斬り裂かれ更に打ち上げられた。もう駄目だ、このままじゃ須田のように二人共殺される。
「うおおおお!!」
俺は剣を両手で握ると、大きく岩から跳んでブルボアの背に剣を突き立てた。
グモオオ!!
凄まじい肉厚。剣はブルボアの身体には、たいして刺さらずに俺は地面に転がった。慌てて起き上がると、盾と剣をブルボアの方へ向けて構える。
目の前では、ブルボアが横たわる戸村に噛みついて肉を引きちぎっていた。周囲に響きわたる戸村の悲鳴。血飛沫。
駄目だ、デッドエンド。逃げてもあっさりと追いつかれて殺される。このまま足掻いても、須田や戸村のように無残に二人共殺される。なら、もう残る手は一つしかない。
いや、残る手なんてもうないのかもしれない。だがこれしかないと思った。俺は小貫に向けて叫んだ。
「小貫!! 俺達はここで全滅する!! もう駄目だ!! どちらにしても全滅するのなら、俺はこのまま恐怖にすくんで絶望して死ぬよりも、『竜殺旅団』のリーダーとして最後の勤めをしたい!!」
「佐竹!! お前!!」
「小貫、全力で逃げろ!! 逃げて逃げてなんとか、女神像までたどり着け!!」
俺だって逃げ出したかった。死にたくない。だから振り絞る様に言った……だが小貫は、真っ青な顔で戸村を喰っているブルボアの方を指さした。足元。
「だ、駄目だ。岩から落とされて地面に転がった時に、スマホを落として……あそこにあるけど、ブルボアに踏み潰されて壊れている。もう俺はもとの世界へは戻れない」
な、なんて事だ……ちくしょー。
「そ、それなら椎名さんの拠点まで逃げろ!! それしか方法はない!!」
「佐竹はどうするんだよ!!」
「いいからいけ! あいつは俺達が今ここにいるから、戸村を喰うのに夢中になっているが俺達二人逃げて見ろ。きっと直ぐにこっちへ向かってくる! さあ、早く行けよ!!」
「でもそれじゃあ佐竹が行けばいいだろ? スマホ持っているし女神像から逃げれる」
「言い出しっぺが俺なのに、今更じゃあ俺が逃げるなんて言えねえだろ!! それに二人共助かる確率は無いに等しいんだ。最後位、リーダーとしてかっこつけさせろ!!」
「佐竹……すまん!!」
小貫が椎名さんの拠点がある方へ向かって走り出すとブルボアは、こちらを向いた。俺はブルボアの視線の先に移動すると盾と剣を向けて構えた。
「こいこらああ!! 猪野郎が!! 須田と戸村の仇だあああ!!」
こちらも恐怖を怒りで塗り潰した。そうする事でしか、恐怖に支配されないよう自分を保っていられなかった。
次の瞬間、俺はまるで交通事故にでもあったかのように、ブルボアに跳ね飛ばされた。意識がとび、吐血した。ブルボアの強烈な体当たりで、内臓が潰されたと思った。
『異世界』の事を知ってここへ来た時は、この夢のようなファンタジー世界に俺達は歓喜した。しかしこの世界は、俺達が思っているよりも過酷で、恐ろしい世界だった。
スライムやウルフを数匹倒せるからと言って、自分達の事を勇者か何かと勘違いしていた俺達は……
もうこれ以上、何も考えられなかった。




