Phase.78 『竜殺旅団 その2』
戸村も須田も小貫も、真っ青な顔をしていた。以前、死に物狂いで仕留めた猪の魔物――ブルボア。それよりも更にでかい軽自動車程の大きさの奴が、なぜか俺達の方を目指して突進してきているからだった。
「どういうことだ? そんなでかいブルボアがなぜ、いきなり俺達のいるここを目指して突進してきているんだ?」
戸村が声を震わせて言った。それに須田が答える。
「そ、そんな事はどうだっていい。兎に角、直ぐに逃げないとあんなデカさのブルボアなんて、とてもじゃないが逃げきれないし勝てないぞ!! どうするんだ、佐竹?」
「どうするもこうするもないだろ!! あんなのどうしようもない!!」
まずい!! どうすればいいんだ!! こんな事になるのなら、椎名さんの拠点を出るべきではなかった……いや、こんな事……今の今まで知る由もなかったのだ。今更そんな事を後悔しても仕方がない。
大型のブルボアは、こうしている間にもここに迫ってきている。もうそこまで来ている。動揺している仲間達。俺は周囲を見回して、この場を凌ぐためにはどうすればいいか、必死で考えた。
「戸村、須田、小貫!! ここには大きな岩がある。直ぐに俺のようによじ登れ!! とりあえず、それでやり過ごすしかない!!」
「ああ、解った!! だが荷物はどうする?」
「そんなの気にするな、ブルボアは直ぐそこまで迫ってきているぞ!! 武器だけ手に持って、急いで岩によじ登れ!!」
ブルボアは、本当にもうそこまで迫ってきていた。俺はよじ登った岩の上から仲間に叫んで急かした。
「来た来たーー!! ブルボアが来た!!」
別々の大きな岩。皆、必死になって岩をよじ登ろうとしたが、なかなか上がれない。そう言えば、俺の今登っている岩もそうだった。一番体格も良くて、力も強い須田に頼んで、よじ登れるところまで押し上げてもらったんだった。戸村もその事に気づく。
「す、須田!! 俺を押してくれ、押し上げてくれ!! このままじゃ全員やられる!!」
「くっそー、こうなったら仕方がない!!」
須田は、岩によじ登ろうとする戸村の身体を下からグイっと勢いよく押し上げた。
「いけーっ!!」
「うおおおおお!!」
戸村は、須田の助けを借りると瞬時に思い切り手を伸ばして、岩の上によじ登る。
「た、助かった。須田、小貫!! お前らも早く岩によじ登れ!!」
「よ、よじ登れって言っても……」
「うわああああ、ブルボアが来たぞおお!!」
戸惑う須田に、恐怖で悲鳴をあげる小貫。ま、まずいぞ、このままでは!! 俺の腕力で須田の巨体を引き上げる事はできるのだろうか? しかし考えている暇はない。俺は叫んだ。
「戸村、手を伸ばせ!! 俺とお前でそれぞれ須田と小貫を引き上げるんだ!! 須田と小貫は俺達の手を掴め、引っ張り上げる!!」
グモオオオオオ!!
ブルボアが物凄い勢いで突っ込んで来た。俺は須田の腕を掴もうとした。しかし間に合わない。須田もそれに気づくと、岩によじ登る事を諦め自分の盾と槍を拾い上げて、それをブルボアに向けて構えた。
「やめろ!! 須田!! 逃げろって!!」
「もう逃げられん!! うおおおおお!!」
グモオオオオオ!!
本当に軽自動車位の大きさのブルボアだった。俺達が以前仕留めたブルボアとは、一回りも二回りも大きさが違う。それに怒りに狂っている。
須田は先程までよじ登ろうとしていた岩を背に、盾と槍をブルボアの方へ向けて構えた。なるほど、須田め! 考えやがったな!!
槍の石突部分を背にしている岩に当てて、穂先をブルボアに向ける。ブルボアは逃げ遅れた須田に狙いを定めて猛烈な突進をした。
ブルボアの身体に槍が刺さった。穂先の逆の石突部分が後方の岩にガツンとあたり、槍はブルボアと大きな岩の間でつっかえ棒のようになった。
はははは!! やった!! ブルボアは自分の体重と突進力が仇となった。須田の持つ槍が深くブルボアの身体に入り込んだ。
グモオオオオオ!!
ベキィイイイイ!!
自分の身体に槍が深く突き刺さっても、ものともしないブルボア。全く怯まない。須田の持つ槍は、大きく折れ曲がって折れて弾け飛んだ。
「須田ああああ!!」
「うおおおおお!!」
須田はそれでも諦めなかった。突進してくる大型のブルボアに向かって、残った盾を両手でしっかりと持って構えると、それを力強く正面に構えて止めようとした。
ドスーーーーン!!
しかしブルボアの突進力は、異常。例えるならそ車そのもの。自動車で体当たりされるような衝撃。須田は、手に持っていた盾ごとブルボアと背にしていた岩の間に挟まれて潰された。
「須田ああああ!!」
戸村や小貫も叫んでいたので、はっとして二人の方を見る。すると小貫は、なんとか戸村に手を掴まれて岩の上まで引き上げられていた。
でも須田が……
くっそくっそくっそーーー!! 戸村と小貫は助かったが須田は……須田は……まさかこんな事になるだなんて……
グモオオオオオ!!
ブルボアは怒り続けていた。なぜそんなに怒っているのか、俺には解らなかった。いきなり遥か遠くから草原地帯を一直線に俺達のいる方までなりふり構わずに突進してきて襲いかかってきた。その訳が解らない。
グモウウ!! グモウウウ!!
ブルボアは、倒れて動けなくなった須田の身体を容赦なく踏み潰すと、俺達のよじ登っている岩の周りをグルグルと周り始めた。




