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Phase.77 『竜殺旅団 その1』(▼佐竹 茂)



 すっかり椎名さん達には、お世話になってしまったな。


 朝になると椎名さんや未玖ちゃんの手厚い手当のお蔭もあってか、小貫の足はすっかり良くなっていた。これなら、もう大丈夫だ。

 

 俺達4人は、椎名さん達3人に別れを告げると、彼らの拠点を後にした。


 椎名さん達の拠点を離れると、俺達は森を抜け草原地帯の方へと歩いて行く。すると目の前に、椎名さんから聞いていた女神像を見つけた。須田が指をさす。


「あそこ、女神像だ。あそこからもとの世界へ戻れるぞ」

「ああ、でもまだモバイルバッテリーの残量もあるしな。とりあえずこの場所を覚えておいて、もう少し旅をしてみよう。まあこれで何かあれば、ここまで引き返してもとの世界へ戻れるしな」


 戸村が草原地帯を眺める。


「それじゃ先を急ごうぜ。椎名さんが、この辺には狼の群れやスライムも出現するって言っていたしな」

「そうだな、じゃあ行こう」


 普段なら用心をして一度、もとの世界へ戻っていたかもしれない。


 しかし今回はそうしない訳があった。


 俺と戸村、須田、小貫のこの4人はこの『異世界(アストリア)』では、『竜殺旅団(りゅうさつりょだん)』というクランを結成しパーティーを組んでいる。もとの世界でも、同じ職場の工場で勤めている仲間なのだ。


 工場での仕事は二交代制。4人揃うっていうのは、あまりない。しかし今回は、無理をして4人で合わせて有給の希望を出した。他の職場の人間には嫌な顔をされもしたが、それで上手く全員揃って『異世界(アストリア)』に来る事ができたのだ。


 だから今回は4人で可能な限り冒険の旅を進めて、この世界を堪能したい。つまるところ、もう少し楽しみたいのだ。


 草原地帯を2時間程進んだ所で、スライムに遭遇した。


「戸村、須田、小貫!! スライムだ、戦闘態勢をとるぞ!!」

『おう!!』


 戸村と小貫が剣を抜いて構える。須田は、盾と槍を構えた。まずは、パーティーの盾役の俺と須田が前に出る。


「スライムは1匹だが、こちらに気づいている!」

「ああ、来るぞ!!」


 スライムが跳びかかってきた。俺は盾を目の前に突き出して、須田と一緒にその一撃を防ぐ。大きなゴムの塊を受け止めたみたいな衝撃。


「うわああっ!!」


 体勢を崩してしまったが、俺と須田の横をすり抜けて戸村と小貫が剣でスライムを攻撃。そのグミ状の身体に剣を突き立てた。


 ギュアアアア!!


 スライムの叫び――今だ!!


「怯んだぞ! 今だ、全員で畳め!! 俺達『竜殺旅団(りゅうさつりょだん)』の恐ろしさを魔物に刻み付けて思い知らせてやれえええ!!」

『うおおおおお!!』


 ギュアアアアー!!


 何度も剣で突き刺し、斬り裂いた。そして槍。俺達4人はまたしても、魔物に勝つ事ができた。


「はあ、はあ、はあ……やったなあ」

「ああ、やった。俺達4人が一丸となれば、恐れる魔物などいないな。ハハハハ」


 魔物が単体なら大抵は、この4人で四方から囲んでしまえば勝てる。それができなければ、今みたいに盾役の俺と須田が前に出て、敵の攻撃を受け止めて隙を作り、戸村と小貫が攻撃を加える。だいたいこの戦法で上手く行く。


 椎名さんと森へ木の伐採作業をしていた時に狼の群れに襲われた時のように、複数の敵に襲われるシチュエーションを徹底的に回避すれば俺達は無敵だ。


 倒したスライムの死体を蹴り飛ばすと、俺は皆に言った。


「よーし、ちょっとここらで休憩にしようか」

「そうだな、それがいい」


 戸村が言った。須田と小貫も同意見のよう。そして小貫がいい場所を見つけた。


「あそこを見てくれ。いくつも大きな岩があるぞ。あの辺りで休憩をとるのはどうだろう?」

「確かに開けている草原地帯のど真ん中で休息をとるよりは、ああいういくつもの岩に守られている場所の方がいいな。よし、あそこに移動しよう」


 大きな岩がいくつもある場所に移動すると、荷物を降ろす。椎名さん達から頂いた薪、それを使って焚火を熾した。お湯を沸かして珈琲を飲むためだ。


 煙草を取り出して火を点ける。すると、戸村や須田、小貫も同様に煙草とライターを取り出して一服を始めた。


 湯が沸くとそれぞれのマグカップを用意してインスタントコーヒーを入れる。それを片手に暫し、一服。空を見上げると昨日とは打って変わって曇り空だった。須田が心配そうな顔をする。


「昨日まではあんなに天気が良かったのに……これなら椎名さんに言って、もう一泊させてもらっても良かったかもしれんな」

「……まあ、それはそうだが……この4人揃って有給休暇ってのも、また暫くは取れないだろうしな。天気がもってくれればいいが、雨が降りだすようなら早めにテントを設営しよう」

「そうだな」


 戸村と小貫も頷いた。


 珈琲も飲み終わり、一服し終えると再び冒険の旅を再開しようと立ち上がる。すると草原の向こうから何かがこちらに向かってくるのが見えた。周囲の草を飛び散らせ、猛烈な勢いでこちらに向かってくる。


「な、なんだ⁉ 何かがこっちに向かってくるぞ!! ま、魔物か?」

「解らんが、警戒態勢だ。武器を持て。須田、ちょっとこっちへ来てくれ」

「ああ」


 須田の助けを借りて、周囲にある大きな岩の一つによじ登る。草原地帯をこちらに向かってくるものが、いったい何なのかそこから眺めて確認する。戸村と須田が岩によじ登る俺の方を見上げて言う。


「おい、佐竹! 見えるか? いったい何がこっちに向かってきているんだ?」

「あれは……」


 ぞっとした。あれは、猪だ。猪の魔物。しかも以前俺達が死に物狂いで仕留めたブルボアと同種だが、大きさが違う。


 軽自動車位の大きさのブルボアが俺達目掛けて一直線に、突進してきていた。

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