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Phase.74 『小屋してる』



「未玖! こんな所でいったい何をしているんだ?」

「あっ! ゆきひろさん!」


 コケーーッ


 声をかけるとコケトリスは、慌てて何処かへ走って行った。


 拠点からは逃げられないし、まあ逃げなくても中の方が安全な上に、餌になる草も豊富にあるから何処にも行かないとは思うけれど……未玖とは平気で一緒にいたのに、俺の顔を見ると逃げるってなんとなく嫌な感じだ。


 そんな事を考えている自分に笑ってしまった。いくら『異世界(アストリア)』が危険な世界でも、この場所があって、未玖や翔太がいれば笑っていられる。


「ゆ、ゆきひろさんに見せるのは、もう少し後にしようかと思っていたのですが……」

「え? なに、なに? 俺、見ない方がいい?」

「いえ、別にもういいです。ここ見てみてください」


 未玖が差したのは、大きな岩だった。大きな岩には大きな窪みがあり、そこには土が詰まっていた。しかも何か水色の蛍光色の何かが光っている。


「え!? これはまさか!!」

「はい。ゆきひろさんと一緒に行って採ってきた水キノコです。ここなら日陰ですし、なんとなくじめっとしてますし、井戸も近いですから水キノコを育てられるかもと思って」


 天才か! この子は天才なのかと思った!! なんてえらい子なのだろうと、未玖の頭を褒めたたえるつもりで優しく撫でた。


「え? え? ゆきひろさん?」

「うん、えらい。これで未玖の水キノコ養殖プロジェクトが成功したら、何時でも拠点内で水キノコが食べ放題だな」

「た、食べ放題にしたら全部なくなっちゃいそうですけど」

「ははは。それなら、食べきれない程の水キノコを増やせばいいよ。薬草畑もそうだけど、未玖は凄いな。俺なんかより、よっぽど優秀だな」


 褒めすぎたのか、気が付くと未玖は顔を赤らめて照れ臭そうに俯いていた。風呂に入った後のせいか、顔や身体についていた泥や汚れも落ちていて、未玖の肌は仄かにピンク色になっていた。


 暫く未玖と一緒に、未玖が植えて育てようとしている水キノコや薬草畑を見て楽しく話を続けていると、向こうで翔太達の声が聞こえてきた。かなり騒いでいるみたい。


「未玖、ちょっといってみようか」

「は、はい!」


 翔太のもとに行って見ると、なんと小屋が完成していた。森で伐採して集めた木を材料に組み立てているのでかなり不細工……っていうか、かなり味のある形の小屋になっているが、小屋である事には違いない。翔太と佐竹さんが自慢げな顔をしてこちらに手を振る。


「どうだ、ユキー!! 俺の城だ!! ちゃんと、小屋してるだろ?」

「小屋しているってなんだよ。でも、確かに小屋にはなっている」


 未玖も目を丸くして翔太達の作った小屋を見ている。


 佐竹さんは、小屋の入口――扉を開いた。


「一番の見世物はこれだ。ちゃんと扉がある。そして屋根も壁もあるから雨風も凌げる。窓だってある、1ルームだ。広さは……六畳位か」

「覗いてもいい?」

「ああ、出来上がったらまずユキーと未玖ちゃんに見せようと思っていたからよ。いいぞー、見てくれ」

「出来上がったらまずって、ここには俺達しかいないだろ!」


 いつもの感じで翔太に突っ込みをいれると、未玖と一緒に出来立てホヤホヤの小屋の中を覗き込んでみた。


「おおーー!! これはなかなかいいなあ! 確かに小屋だ! ちゃんと小屋だ!」


 佐竹さんが言った。


「木だけ並べて屋根にしても、雨が降れば雨水が中へ流れ込んでくるから、木材の他にブルーシートも敷いて利用している。またもとの世界へ帰った時にでも、有刺鉄線の他に、トタンも仕入れておいた方がいいな。トタンがあれば、柵にも利用できそうだしな」


 なるほど、トタンか。確かにそれもいい考えだと思った。トタンやベニヤ板があれば、強度は弱いけど簡単に小屋ももっと増やせそうだしな。また翔太と一緒にホームセンターにも行かなければならないな。


「それで翔太はこの小屋に住むのか?」

「おう! もちろん住むぞ! とりあえずテントの方が快適そうだから、そっちで寝泊まりしようと思っているけどな。だからここは、別荘だな。ユキー、良かったらここで寝泊まりしてもいいぞ」

「ああ、それなら使わせてもらおうかな。俺も次回はテントを買って持ってこようと思っていたけど、それまでは丸太小屋のリビング的な所で、椅子を並べて寝ているからな。こっちの方がゆっくりできるかもしれない」


 未玖が俺の腕を引っ張った。


「え? ゆきひろさん、丸太小屋の方で寝ないんですか? こっちの小屋で眠るんですか?」

「え? ああ。今日はとりあえず、そうしようかなって。面白そうだし。それに今日は佐竹さん達もいるし、翔太だっている。拠点内に居れば、大丈夫だよ」


 未玖は大きく唸ると、俺の目を見て言った。


「きょ、今日はわたしもこっちの翔太さん達が作った小屋で寝てもいいですか?」

「え? でも丸太小屋の方が安全だし寝室もあるのに……」


 って言った所で、翔太に肘を入れられた。


「おい、ユキー。未玖ちゃんと一緒に寝てやれ! 未玖ちゃんはお前と一緒にいるのが一番安心するんだよ」

「わ、わかった。解ったよ」


 この拠点内で一番強固で安全な丸太小屋。佐竹さん達を含めてここには、現在7人も人がいるのに、今晩は誰もがその丸太小屋で寝泊まりしない。


 そんな不思議な状況になるのも、また面白いなと思った。

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