表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/468

Phase.73 『有難い人手』



 大きな荷物を持ってきていた。一度、もとの世界に戻った時に、未玖が着る衣服と共に調達していた荷物の数々――有刺鉄線。


 ネット通販『jungle』を使って即日配送で届けてもらった有刺鉄線は、思っていた通りのとてもいいものだったけど、少し想定外だった事が二つほどあった。


 一つは値段だ。計画性乏しく、この驚く程広げてしまった敷地。その外側をぐるっと囲むとなると、かなりの費用になってしまう。有刺鉄線は、その長さと間々にある又釘の数、そして使われている素材でも金額が変わってくる。


 ステンレス製のいい奴にすれば、雨が降っても簡単には錆びないし劣化にも強そうだ。しかし金額が跳ね上がってしまうし、拠点の大きさから言ってそれを大量に購入しなければならないとなるとかなり厳しい。


 だから悩みに悩んだ挙句、スチール製の有刺鉄線を購入した。


 そしてもう一つの想定外だった事。もうお分かりだと思うが、これ程までに柵を拡張し拠点を広くしてしまったら、その周囲を囲む有刺鉄線の量もそれに従ってかなりの長さが必要だという事だった。


 でも始めてしまったからには、腹を括って結局買う事にして、買ってはみたもののスチール製の上に、この拠点に見合った量。転移してきた女神像からこの拠点まで運んでくるのも、手が千切れるかと思う程の重量だった。


 佐竹さんが近づいてくる。


「椎名さん、ちょっといいかー」

「ああ、今そっちに行く」


 佐竹さんに呼ばれて拠点を囲む柵の方へ行くと、柵は広く拡張されて、その外側には何本もの杭が打ち立てられ、それを経由して有刺鉄線が張り巡らされていた。辺りでまだ作業をしている戸村さんと須田さんもこちらに手を振っている。


 昼ご飯を終えてから、佐竹さん達はずっと俺達の拠点の改修作業等に勤しんでくれている。


「おおーー、これは凄い!! まさかここまで拠点作りを手伝ってくれるなんて、正直思っていなかったよ!」

「仕事が早いだろ? こう見えて俺達4人とも、工場勤めだからな。こういう職人作業は得意さ。ただ……」

「有刺鉄線が足りない」

「気づいていたか。これだけ広さがあるからな。またもとの世界へ戻った時にでも、追加しないととても周囲全てを守れない」

「それで、どのくらいまではできた?」

「うーーん、そうだな。見ての通り5分の1くらいかな。多めに言ってだがな」

「えええ!! それだけかー」

「それだけ。一つの場所に、有刺鉄線一本て訳にもいかんだろうからな。とりあえず5本ずつ並べて張り巡らせている。それくらいないと、ほとんど意味をなさないだろうし」


 確かに。佐竹さんの言っている事はもっともな話だった。有刺鉄線を張ると言っても、一本だけピンと張って、ぐるっと周囲を囲んでも簡単に突破されてしまう。


 当然そう思った佐竹さんは、とりあえず有刺鉄線を5本引いてくれているというが……もっとあってもいい位だと思った。でも、今はその材料が無い。また次回になるだろう。


「椎名さんが作って、柵の外側に配置してある馬防柵もいくつか作ってみた。簡単な作りだから、短時間で何個か作り上げられたから早速配置してある。あれでいいんだろ?」


 佐竹さんの指す方には新たな馬防柵がある。


 ここまでしてくれるなんて……ここには未玖もいるし、最初はちょっと戸惑ったけれど、佐竹さん達を俺達の拠点に招いて正解だったようだ。


「ありがとう、ここまでしてくれたらもう十分だ。後は自由にしてくれていい。井戸の水は勝手に使ってくれてかまわないが、小さな女の子もいるから小屋には勝手に入らないでくれ」

「解った。じゃあ、もういいのか? することはないのか? どうせやる事がないんじゃ、何か食べて酒飲んで煙草ふかしてる位だからな。何かあれば手伝うけども」


 出会った朝から働き詰めの佐竹さん達。でも確かにその顔には、あまり疲れというものは見られない。手伝ってくれると言っているのだから、もう少しそのご厚意に甘えてもいいかもしれない。


「それじゃ、もう一つ手伝ってくれ。俺の相棒なんだけど、翔太があっちで小屋を作るって言っててな。それを手伝ってもらえるとありがたい」

「よし解った。それじゃ手伝いに行くが……椎名さんは?」

「俺? 俺はちょっと一息がてら、拠点を囲む柵をぐるっと一周して異常が無いか見てくる。それから拠点内の巡回かな。この辺も魔物が……あっと、言うのを忘れていたけど、この拠点内にコケトリスが1羽いると思うんだけど、それは俺達のだから危害を加えないでくれ」

「コケトリスを飼っているのか? 益々この椎名さんの拠点は面白い所だな」

「ははは。面白いだけでなく、安全な所にもしていくつもりだよ」


 佐竹さんと一旦別れ、拠点を囲む柵を見て回る。何も異常が無い事が解ると、今度は拠点内をブラブラ歩いて何も問題がないか見て回った。


 翔太のいる辺りでは、佐竹さんに戸村さんと須田さんが集まって木材を運んでは、早速小屋を作ろうとしている。


 丸太小屋の裏手の方の薬草畑も異常が無いか、そっちの方も見に行く。すると、薬草畑のすぐ近くにある大きな岩の近くで、何やら未玖が蹲っているのが見えた。その横にはコケトリスもいる。いったい何をしているんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ