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Phase.72 『五右衛門風呂』



 そこには、見事なドラム缶風呂が出来上がっていた。


 丁度いい大きさの石を設置し、その上に安定してドラム缶が乗せられている。そしてもちろん風呂に入るのであれば裸にならなければならないので、その配慮もされている。


 周囲には杭が打たれていて、それにそってブルーシートで周囲を覆い、タープのようにブルーシートで頭上を覆って屋根も作っている。


 なるほど、確かに屋根がないと風呂に入っている最中――もしくは湯を沸かしている時に雨が降ったりしたら、それで火は消えてしまう。翔太め、ちゃんと考えているなと思った。


「どうだ? いいだろう!!」

「す、凄いです翔太さん!」

「やるなー翔太! これもう入れるのか」

「もちろんこのドラム缶に水を溜めてここで火を熾せば、もういつだって風呂に入れるぜ。水は向こうに井戸があるから、いくらでも運んでこられるしな。ただ、まずこの風呂に入ってもらうのは我らが未玖ちゃんからだけどな」

「わ、わたしからですか? そ、そんなの悪いですよ」

「そんなあ、未玖ちゃん先に入ってくれよー!! 俺はアレだぞー、風呂があったら未玖ちゃん喜ぶだろうなって思って作ったのによー」

「ははは、確かにそうだったな。未玖、そう言う事だ。誰にも覗かれないように見張っておいてやるから、早速入ってみたらどうだ? その方が、翔太も喜ぶ」


 何度も頷いて見せる翔太。すると、未玖も頷いた。


「じゃ、じゃあ入りたいと思います」

「おっしゃ! それじゃユキー、井戸から水汲んできてー」

「ちょ待てよ! ちょ待ーてーよ! こんなドラム缶一杯水張るってなったら、俺一人じゃ流石に大変だろ? 一緒にやってくれよ」

「ったくしょうがねえな、ユキーは! 俺様がいないとなんもできねーんなんなー!!」


 ゴンッ


「あいたっ! 暴力反対だぞ、コラ!!」

「あはははは」


 俺と翔太の30点位のズッコケミニコントに、声をあげて笑う未玖。やっぱり翔太をここへ連れてきて正解だ。こいつは面白くて暖かい奴だし、信頼もできる。そしてきっと俺と同じように、全身全霊をかけて未玖を守ってくれる男だ。それを今更ながら改めて確信した。


 とりあえずなんだか気が乗っているので、昼飯は後回しにして、翔太と二人で井戸からドラム缶に貯める水をせっせと運ぶ。


未玖が着替えを用意している間に、ドラム缶いっぱいの水を溜め込んで火を熾した。火の番は翔太がしてくれている。いつの間にか鉢巻も巻いていて、凄く風呂焚きの絵になっていて笑ってしまった。


「これ位でいいだろう。それじゃユキー、未玖ちゃん呼んで来てくれー」

「あの……ここにいます」

「おおーー! 未玖ちゃん、お風呂湧いたよー! それじゃお兄さん達あっち行ってるから、ゆっくり入ってくれていいよ」


 お兄さんって……もうおじさんだろうが。


 未玖は翔太にお礼を言うと、顔を少し赤くしてドラム缶風呂に近づく。すると翔太は、ドラム缶の大きさに合わせた丸形の手作りすのこを風呂の中に沈めると、ついでにお湯の温度を確かめた。


「うん、いい感じ。ちょい熱い感じもするけど、この位でいいだろ。入って熱かったら、ここに汲んだ水を置いておくから、薄めるのに使って」

「ありがとうございます、翔太さん」


 にっこりにこにこの翔太。ドラム缶に入りやすいように、未玖の為に台も置いてやると翔太は向こうへ行くぞと俺に合図を送ってきた。未玖にシートの直ぐ向こうにいるから安心してと言って、風呂場から外へ出た。


「あっ、そうそう。ユキーに言っとくけど、未玖ちゃんの後は俺が入るから」

「この変態め」

「なんとでも言うがいいわ。あのドラム缶は俺が作ったんだから、次は俺が入る権利あるだろー!! まあ未玖ちゃんからっていうのは、未玖ちゃんの為に作ろうと思ったから一番って決めていたけど」

「はいはい。じゃあ俺も翔太の後に入ろうかな。こんな森のど真ん中で風呂に入るなんて、きっと物凄い気持ちいいだろうな」

「この変態め」

「普通だろーが!!」

「ひゃひゃひゃ!!」


 翔太と喋ってふざけていると、未玖の声が聞こえてきた。


「ゆ、ゆきひろさん! いますかー」

「おお! ちゃんといるぞ。どうした?」

「あ、あの。お風呂から出られないんですけど……助けてもらえないでしょうか」


 翔太と顔を見合わせる。そして、翔太に背中を押された。


「とりあえずおっさん二人にってのも嫌だろ? ユキーが助けに行ってやれよ。それでも助けが必要なら言ってくれ」

「解った、じゃあ一応ここで待機していてくれ」


 見に行くと、未玖はドラム缶風呂に入ったまま出れずに真っ赤っ赤になっていた。完全に茹だっている。


 入るときは翔太の作った台があったからすんなりと入れたけど、そう言えば出る時が問題だった。すのこを沈めているから、俺達位の背丈なら問題無く出れただろうが、背の低い未玖には至難だったようだ。


 まあでも大丈夫だろ。


「た、助けてもらえますか?」

「解った。今、未玖の後ろ側に回るから。それで、身体を持ち上げてやる」


 小さくても女の子だ。俺は未玖が嫌がらないように、できるだけ未玖の身体を見ないようにして彼女を引き上げた。そしてバスタオルを渡すと、逃げる様に翔太の方へ駆けて行った。


 翔太のもとに戻ると、今度は翔太が自分の着替えとタオルを取りに自分のテントへ走って行った。


 ハハハ。異世界スローライフ。こうしたのんびりした日も悪くないな――なんて思ってはみたものの、『異世界(アストリア)』へ来てから毎日がまるでキャンプにでも来ているような感覚だった。

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