Phase.71 『4人組 その3』
「ぎゃああ!!」
「小貫さん!!」
小貫さんは、片足をウルフに噛みつかれて大きく転んだ。仰向けになった所にウルフが飛び掛かった所で、俺は小貫さんを救おうと剣を突き出してウルフの横腹を突いた。
ギャアン!!
「大丈夫か小貫!!」
「佐竹、俺に構わずに戦え!!」
額からは脂汗、足首からは血を流している小貫さんを俺は守った。
守りに徹して、襲い掛かってくるウルフにだけ剣を振り回して対処していると、やがて佐竹さん達が更に3匹のウルフを倒した所で、ウルフの群れは俺達を食べる事を諦めて森の奥へと逃げ帰って行った。
「いって……いてててて……」
「大丈夫か、小貫」
「ああ、でもちょっと痛いかもしれん……あいたたたた、やっぱ痛いわ」
「そうか、手当てをしないとな」
佐竹さんが小貫さんの足の傷を見る。結構、血が出ている。それを見て、俺もそう言えばウルフに同じような所を噛まれて、痛い目にあったなと苦い記憶を思い出した。そして佐竹さんに言った。
「良かったら小貫さんは、俺が拠点へ連れ帰って手当する。それでもいいかな」
「本当か、それは助かる。それじゃ椎名さん、小貫を頼む。俺達はここでもう少し伐採作業を続けて、それから柵の強化に取り掛かる」
「で、でもウルフに襲われたばかりなのに……」
「もう、襲ってはこないだろう。なんにしても勝った。俺達『竜殺旅団』は負けた事がないからな。大丈夫だ。こっちは心配ないし、作業もきちんと終わらせるから椎名さんは小貫を頼む」
いくら負けた事がないと言っても、佐竹さん達はあの大空を飛んでいたワイバーンや、森にいたサーベルタイガーと戦った事があるのか? なんとなく、危ういような気がした。
「よし、それじゃ拠点に戻って傷の治療をしよう。小屋にはエイドキットもあるし、拠点には薬草もある」
「ああ、すまんな。よろしく頼む」
小貫さんを肩に抱えると、俺は森から出て拠点に戻った。
柵を抜けて内側に入ると、すぐに未玖が気づいて駆けつけてきてくれたので、二人で小貫さんを彼のテントへと運んだ。彼がテントへと言ったのと、小屋よりテントの方が近かったのでそれでいいと思った。
未玖に小貫さんを見ててもらうと、俺は小屋へエイドキットを取りに走り、小屋の裏手にある薬草畑から少し薬草を拝借し、井戸で水を汲んで小貫さんのテントへ戻って来た。
「いたた!!」
「我慢してくれ。まずは、傷口を水で洗わないと。それから消毒して薬を塗る。未玖、この薬草をすり潰してペースト状にしてくれ」
「は、はい!」
小貫さんの足の傷を洗うと、彼は悲鳴をあげた。傷を見ると俺がウルフにやられた時よりも軽度に見える。
あの時、俺は小貫さんよりももっとひどい怪我をしても、ウルフに抗って朝まで独りで小屋で過ごした。そして、自力でもとの世界まで戻って来た。だからこの位なら大したことないと思った。
「いたたたた!!」
「ちょっと、暴れないでくれ」
「も、もう少し優しくやってくれないか」
「無理言わないでくれ。俺も前に同じようにやられたけど、もっと酷かった。これなら大丈夫だ。だけど早く手当するに越したことはない。それに『竜殺旅団』なんだろ? これ位、我慢してくれ」
「そう言ったって……いたたた!!」
傷口を綺麗に洗った後、エイドキットから消毒薬とガーゼと包帯を取り出した。そして消毒を終えると、未玖が磨り潰してくれた薬草、キュアハーブを傷口にたっぷりと塗ってガーゼをあてて包帯を巻いた。
「これでよし」
「す、すまない。しかし、椎名さんは手際がいいな。もしかして、医療系とか……福祉系の仕事か?」
「データ入力の仕事をしている単なるオタクだよ。でも『異世界』に来てからはどんどん逞しくなっていると思っているよ」
「そ、そうか。凄いなあ」
「とりあえず、これで処置完了だ。小貫さんはこのままここで休んでいてくれ」
「いや、俺も何か手伝うよ」
「そんな事を言われてもなあ。明日また佐竹さん達と冒険に旅立つんだろ? それならちょっとでも休んで置いたほうがいい」
「でもなにかできる事があるだろ? 俺もこの場所を使わせてもらっているお礼を、ちゃんとしたいんだよ」
「……怪我してなければな。だから気持ちだけ受け取っておくよ。それじゃ未玖、小貫さんを見てやってくれ。あっ、そうだ! それで大丈夫そうなら、焚火を熾してその火の番を小貫さんにしてもらおうかな。それならいいだろ」
「ああ、それなら俺にもできる。ありがとう」
俺は森で作業中の時にウルフに襲われた事を未玖に言っていなかったので説明すると、小貫さんの事を頼んだ。そして再び、佐竹さん達のいる森の方へ戻って作業を続けた。
昼を少し回った所で、作業を終えた。大量の木材が拠点に手に入った。これなら、柵の拡張と強化だけでなく自分達でもう一つ小屋とか作れるなと思った。勿論これまでに小屋なんて作った事もないし、どうやって作るのかも解らないけど色々と考えて作ってみるのも面白い。
翔太が何か大声をあげながら駆けてくる。
「おーーい、ユキー―!! 未玖ちゃーん!! ついにドラム缶風呂が完成したぜ、見に来てくれ」
時計の針は、12時を過ぎていたので昼飯にしたかったけれど翔太が興奮しているので、佐竹さん達には先に食事をとっておいてもらって俺と未玖は、翔太の自信作を見に小屋の裏手へと向かった。




