Phase.67 『翔太の住みか』
翔太の友人の話を未玖に話すと、未玖もこの拠点に翔太の友人を連れてきてもいいと承知してくれた。
まあまずは、俺も会ってみてからじゃないとなんとも言えないけれど……だけど、翔太の事は信頼している。翔太がここへ連れてきたいという者なら、きっと頼りになる者に違いないと思う。
焚火を囲い、珈琲を飲んで翔太がやってくるのを未玖と待っていた。すると小屋の近くに、動く何かを見つけた。鶏? いやあれは……コケトリス。俺は未玖に言った。
「そう言えばコケトリス、ずっとここにいるんだな」
「はい。柵の内側に入れてから、ずっとその辺にいます。餌も、その辺に生えている草を食べているみたいです」
「そうなんだ。そう言えば卵は? 卵は産んだかな?」
「一応注意してみてますけど……今の所、卵は見てないです」
「そうか。まあ雄か雌かも解らないしな。でももう少し観察してみよう」
「はい」
コケトリスの事で、他愛もない話を続けていると、遠くの方から「おおーーーい」っという声が聞こえてきた。見ると柵の向こうに、翔太の姿があった。
やっと来たようだ。しかもとんでもない量の荷物を持っている。目の前にあるのは、台車か? ドラム缶が乗っているがまさかあいつ……
俺は未玖と顔を見合わせると、翔太のいる方へ急いで駆けて行った。そして柵を動かすと翔太を中へ入れ、大量の荷物を丸太小屋の方へ運ぶのを手伝った。
「やーやーお待たせしました! あっ! 未玖ちゃん、服いいのに着替えたんだね。似合っているぜ」
「あ、ありがとうございます」
翔太の言葉にあからさまに照れている未玖。俺は翔太がもとの世界から、台車に乗せて持ってきたドラム缶にまず最初に喰いついた。
「これ、何処で見つけてきたんだ? なんに使うんだ? だいたいの予想はつくけどな」
「大体の予想がついているなら、その通りだって言ってやる。因みにこのドラム缶は、俺の住んでいる近くの工場にあった奴を欲しいっつって買い取ってきた。決して盗んで来た訳じゃねーからな」
「盗んで来たとは思わねーけど、こんなものよく台車に乗せて草原地帯の女神像から、森を通ってここまで持ってこれたなあって思ったわ」
そう言うと翔太は無邪気に笑った。そして今度は持ってきた大量の荷物を小屋の入口にあるウッドデッキの辺りに積み上げると、その荷物の山の中から早速何を取り出した。
「これから飯にしようと思って、未玖とお前を待っていたんだけど、何かするつもりか?」
「ああ。するつもりだから、ちょっと待ってくれよ。これをちょっと立ててみようと思ってな」
翔太が手に持っていたものを広げる。それはかなり大きめのテントだった。
「テ、テント⁉ おいおい、別に一緒に小屋で寝泊まりしてもいいんだぞ」
「いいんだよ。俺だって自分のテリトリーが欲しいからよ。そのうち、手作りの小屋を作ってやろうかなって思っているけど、まずはテントからでいいかなって思ってな。でも立派なテントだろ? これいい奴なんだぜ」
「ああ、かなりでかいな」
「テント立てるの手伝ってくれたら、一緒に使ってもいいぜ」
「なるほど、それじゃ翔太の手伝いをしてやるか。なあ、未玖」
「はい」
俺と未玖はそう言って早速、翔太が持ってきた大型テントの設営を手伝った。
場所はもちろん当たり前だけど柵の内側の拠点敷地内。だけど丸太小屋から少し離れた辺りに設置した。
近くには、アルミタージの角の粉末を使用して生やしたログアップの木と、レッドベリーの木がある場所。とてもいい感じの場所だと思った。
翔太のテントはかなり大型の物で、しかもそれに比例した大きなタープ付きテントだった。これならもしも雨が降ったりしても、テントの正面などタープのある場所の下で焚火やなんかしら作業もできる。
「いいじゃないか、テント」
「へっへーん。いいだろう。結構値段したんだけどよ、暫く自分が住む所だから奮発して買ったんだよ」
翔太は、小屋の前のウッドデッキに積んだ自分の荷物を、自分の設営したテントの中へと運び込みだした。俺と未玖も、いそいそと手伝う。あっという間に運び終える。
すると翔太は、今度は自分のテントのタープ下に石と薪を運んで、焚火場所を作った。なんだか見ていると、俺も翔太のようにテントを張って自分の居心地のいい住処を作りたくなってきた。
「できたできたーー。マットレスと寝袋と毛布、そしてクッションもある。ここが俺の住処だぜー。未玖ちゃんも入ってみな。なかなかいいぞ」
翔太が手招きすると、未玖が恐る恐るテントの中へと入った。すると羨ましそうな表情をしてみせる。
うーーん、これは俺と未玖も、自分専用のテントを張りたくなってくるな。耐久度が気にはなるけど、何かあったら小屋へ逃げ込む事はできる。一応、柵に囲まれている範囲でもあるし。
「あと、そうそう。俺もちゃんと武器を持ってきたぜ。ジャジャーーン」
翔太はそう言って大きな鉈を二本取り出して、腰に金槌と一緒にぶら下げた。
「あと、小屋の外になんか斧が何本も立てかけてあったけど、どれかあれ使ってもいいか?」
「ああ、いいよ。相当劣化しているけど、使える奴があったら自由に使ってもらっていい」
「やったー、ありがとうユキー」
翔太はそう言って、前に小屋の物置から外へ出した斧を何本も立てかけている所へ行って、早速一番使えそうな斧を探して選んでいた。
その間、俺と未玖は翔太のテントの中をひとしきり転がったりして快適度を確かめた後、オムライスを取りに小屋の方へと戻った。
……しかし……こいつ、本当に小屋の外……テントで寝泊まりする気か……
本当にその気なら、結構危険じゃないかとも思ったが、反面羨ましくも思った。だって、こういうのはなんだか凄く楽しそうだ。




