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Phase.63 『焚火の前で』



 日付が変わり、金曜日になった。今日一日、仕事を頑張ればまた今日の夜から土日を挟んで、月曜の朝まで『異世界(アストリア)』にいれる。


 椅子等を使用せず、焚火の周りで俺も翔太も未玖も転がってくつろいでいた。翔太は、バリバリとスナック菓子を貪りながら酒を飲み続けている。俺も、豆系のつまみで酒を楽しんでいた。


 未玖は……未玖は、翔太にも折角慣れ始めてきていたが、同時にうつらうつらとし始めていた。


「未玖?」

「え? あ、はい」

「眠いなら、もう休んだらどうだ?」

「え? でもゆきひろさん達は……」


 まだ寝ないのか? って事ではないと思う。未玖は翔太の寝床の事を気にしている。


「俺は、もう少し起きてようかな。翔太は?」

「俺ももうちょい起きておく。っていうか、興奮して眠れねーんだけども!」

「因みに何処で寝る気なんだ? 一応もう一枚毛布は持ってきているけど」

「ユキー達は、どうやって寝てるんだ?」


 未玖と顔を見合わせた後、俺達がどうやって寝ているか翔太に説明した。丸太小屋の奥には寝室があって、そこには寝台があって、その上に寝袋を置いて未玖は寝ている。


 俺は小屋の入った所で、椅子を3脚一列に並べてその上で寝ていると。


「じゃあ今日は、翔太と仲良く床の上でごろ寝するか。一応、あっちの世界から除菌洗剤なんかもってきて、しつこい位に清掃しているから床にそのまま転がっても衛生的には大丈夫だぞ」

「ふーーむ。なるほどなーー」


 何を考えているのか、腕を組んで唸る翔太。


「お前の話で登場した長野さんって銃持ったおじさんは、小屋の外でテント張って寝てたんだよな」

「ああ、まあ外って言っても柵の内側でだけどな。でもあの人は、『異世界(アストリア)』をずっと旅しているって言っていたから、色々な場所でテントを張っているし慣れているんだと思う」

「よし、決めた。折角だしなんかワクワクするから今日は俺、この焚火の前で転がって眠るわ」


 またこの男は、驚く事を言いだした。未玖も信じられないという顔をしている。


 だけど、正直俺はこういう無謀ともアホとも思えるような翔太の考え方が好きだ。なんていうのか、落ち込んでいたり不安に圧し潰されそうになっている時でも、こいつのこの思いもしない変な発言で救われる時が多々ある。


「言ったろ? この間、俺と未玖はゴブリンに襲われたんだぞ。柵を通り抜けてこの小屋の外までやってきたんだ。外で寝るなんて、危険だぞ」

「でもさ、そのゴブリンをユキー一人でやっつけたんだろ?」

「未玖も手伝ってくれた」

「あーそうだった。そうだったにしても、乗り切った訳だ。しかも今度は、更にこのスーパーヒーローの俺がいる! ゴブリンなんて、屁みたいなもんでがしょ!」

「っぷ!」


 翔太のアホな発言に、未玖が吹き出した。つられて俺も笑う。やっぱりこいつといると楽しい。


 未玖の為にも、こいつをここへ連れてきて大正解だった。でも、なんかあった場合に俺は責任をもてない。それだけが心残りだ。


「あーー、未玖ちゃん笑った。未玖ちゃん、めっちゃ可愛いんだからさ、そうして笑っていた方がいいよ。うんうん」


 翔太にそう言われた未玖は、真っ赤になって丸太小屋の中へ隠れた。


「それにさ。俺が外でいる事によって、またゴブリンが襲って来てもすぐ対処できるだろ? 今度は小屋まで近づかせないぜ」

「うーーん、解った。じゃあ、今日は俺もお前に付き合って焚火の周りで眠るよ。二人なら、更に安全だろ?」

「それいいねー。でも未玖ちゃんは、折角小屋の中に寝室があるんだから、そこで眠った方がいいよ。心配しなくても俺達は小屋の外にいるからさ」

「……はい、解りました。それじゃあ……お先に眠ります。おやすみなさい」

「お休み」

「お休みなさーーい」


 もう少し一緒にいるっていうのかと思ったけれど、そうしなかったって事は、結構眠気が来ているんだと思った。


 未玖が小屋に入っていくのを見送ると、焚火に薪を足した。そのついでに缶ビールを二本手に取り、一本を翔太に手渡した。


「それで、これからどうするんだ? 折角の異世界だもんな。冒険か? 冒険をするのか? なあなあ」

「翔太もそのうち嫌でも知ることになると思うけど、この異世界は、兎に角そこらじゅうに魔物が徘徊していて危険だ。最終目標はこの『異世界(アストリア)』がどんな世界なのかって知る事と、異世界人に会ってみたいって思いもあるけれどな」

「異世界人か、いいねー。綺麗な美人の女剣士とか、エルフとかだろ? 会いてーー! 美人のエルフちゃんに会いてーよー!!」


 翔太の話を聞いていると、なんとなく俺と思考回路が似ている所があるなと思って、ちょっと恥ずかしくなった。


「と、兎に角だ。兎に角、まずはこの場所を安全な場所にしたいっていうのが当面の目的なんだ」

「未玖ちゃんの為にも、それは必要な事だしな」


 そう。未玖はスマホを持っていない。つまり――もとの世界へ転移ができないって事だ。


 加えて何があったのかは解らないけれど、本人はもとの世界へは戻りたくないとも言っている。どちらにしても、この『異世界(アストリア)』から転移できない未玖は、この世界が危険だとしても俺達みたいに逃げ出す事もできないのだ。


 だから未玖の為にもだし、俺達がこの『異世界(アストリア)』を冒険する為の、要となる拠点を作り上げ、安全な場所にする為にも色々と考えて防衛力を上げなければならない。


「まあそうは言っても、まずはできる事からだけどな」

「それじゃ、俺はもとの世界へ戻ったらテントやらなんやら必要な物を買い揃えるわ。ユキーだって買い揃えたんだろ?」

「ああ、買い揃えた」

「狼やゴブリンが襲ってくるっていうんじゃ、この金槌と包丁だけじゃ心もとないからな」


 とりあえず、翔太がここに加わってくれた事は大きい。俺達の戦力があがるってだけでなく、労働力も増える訳だからもっとできる事が増える。


 これからの事を考えると、ワクワクしてくるのはいいが、同時にもう一日仕事に行かなければ土日はこないのだと思うと溜息が出た。あーーずっと、こっちにいたいな。

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