Phase.62 『翔太と未玖』
「うおおおおおお!!」
「こら待て、翔太!!」
金槌を振り上げて、スライムに突っ込んでいく翔太。止める俺の方を向いてニヤリと笑いやがった。
あいつ、俺が最初この『異世界』に来て、まず初めにゲームとかじゃ雑魚敵のスライムに遭遇してボコボコにされたってエピソードを話したら、大笑いしていた。それで、この俺の前でスライムを倒してみせようとしている。なんて迂闊な……
ドボオォォ!!
「ぐわはああ!!」
俺の時と全く同じ。スライムの強烈な体当たりを喰らわされた翔太は、アクション漫画かギャグ漫画みたいに大きく吹き飛ばされた。
「おい、大丈夫か!!」
「ぐ、ぐぞう!! スライムの分際で!!」
「やめろ、逃げるぞ!!」
ドボボォ!!
「ぎゃはーーっ!!」
スライムは更に翔太を攻撃した。また大きく弧を描いて吹っ飛ぶ翔太。なんとか立ち上ろうとしているけど、もう足が産まれたての子鹿のようにガクガクしている。駄目だ、このままじゃ殺されるぞ!
足元が定まらない翔太に向かって、ブルブルとグミみたいな身体を揺らしながら接近するスライム。俺はスライムの後ろに回ると、思いきりスライム目掛けて槍を突き刺した。
ギュワアアアア!!
スライムの悲鳴! よし、ダメージを与えた。でも、今は相手している時じゃない。
スライムが今度は標的を俺に変えて襲い掛かってくる前に、俺は翔太の方に駆けて彼の腕を掴み走った。森の方へとひたすらに走る。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ! あ、あんな強いのか、スライム!」
「ああ、言ったろ。強いんだよ! 考え無しに戦うな、殺されっぞ!!」
森に入ると、懐中電灯で辺りを照らしだしながら進んだ。
「はあ、はあ、はあ。この森か?」
「なにがー」
「ユキーが話していた所!」
「そうだ! ほら、ついたぞ!」
森の中にある拓けた土地。そこに丸太小屋があり、その周囲を大きくぐるーっと柵が張り巡らしている。俺が作り始めて、未玖や長野さんの協力も得て完成した自慢の柵。
「うおおおー!! すげーー!! ここが、ユキーのアジトか!! 本当に本当なんだなー! すげー!!」
「だろ? 全身傷だらけになって筋肉痛にもなったけど、頑張って作り上げたんだ。とりあえず、危険だから柵の中へ入ろう」
「うおっす!」
翔太と二人で柵を動かして、中へ入った。
すると丸太小屋の扉が唐突に開いた。俺達が騒いでいる声が聞こえて。未玖が姿を現したんだ。良かった、未玖の元気な姿を見て、留守中に何事もなかったんだと悟った俺は、安心して肩から力が抜けてしまった。
「うおーーい!! みっくちゅあああーーーん!! 俺だよ、俺!! 初めまして、秋山翔太だよー!!」
いきなりの翔太の自己紹介と出現で、未玖は怯えて小屋の中へ逃げ込んでしまった。
「え? あれ?」
「シャイな子なんだ。もうちょっとデリカシーを使ってやってくれ」
「あっ。そういう事ね。なるほど、照れ屋さんか。理解した」
ぜってー理解してないと思った。
丸太小屋の前まで来ると、扉をまず叩いた。
「俺だ、椎名だ。未玖、無事だったか」
ガチャッ
そう言うと未玖は物凄い勢いで扉から飛び出してくると俺に抱き付いた。
「おいおい、どうした? 心細かった?」
何度も頷く未玖。頭を撫でてやる。すると翔太の視線が気になったので、未玖の肩を軽くポンポンと叩くと離れた。
「問題は何かあった?」
「ううん、ずっと小屋に隠れていました」
「そうか」
未玖の事を、にこにこと見ている翔太。それを不審に思ったのか、未玖は少し後ずさりした。
「そうそう、未玖に紹介する。こいつは、秋山翔太。俺の友達だ」
「どーもー。未玖ちゃんだろ? ユキーから話は聞いているぜ。俺は秋山翔太、これから一緒にここを盛り立てようぜ」
「も、盛り立てる?」
「翔太も『異世界』へ来たいって言ったから連れてきた。ここが危険な事も知っているし、既にその事はさっき体験済みだ。ちょっと変な奴だけど、いい奴だし頼りにもなる。だから、未玖も仲間として迎え入れてやてくれ」
「って事だから、これからよろしくね、未玖ちゃん」
また隠れようとしたので、言った。
「信用してくれ。こいつは、俺の味方であって未玖の味方でもある奴だ」
「……か、菅野未玖です。よろしくお願いします」
もじもじしながら、未玖も自己紹介をした。翔太はその未玖の愛らしさに、メロメロになっていた。だけど、このアホな感じで賑やかな性格は、きっと未玖に元気を与えるに違いない。良い言い方をすれば、ムードメーカーとも言える存在って言えばいいのかな。
「よーーし、それじゃ早速3人で仲良く晩御飯にしよーぜ!! 未玖ちゃんもなんも食ってないだろー?」
頷く未玖。
「俺は焚火を熾すから、未玖は水を汲んできて湯を沸かしてくれ。翔太は、買ってきた弁当の準備。あと、酒とつまみもな」
「おおー。って、今未玖ちゃんに水汲んでこいって……まさか川にまで行かせるつもりか?」
「昼間でも一人では、行かせないよ。小屋の裏手に井戸があるんだ。後で、見てみろ」
「はーー、すげえな!! 後で見てみるわーーって、未玖ちゃん危なくない?」
「一応柵は、ぐるっと一周囲んであるから大丈夫だろ。後々、更に外側に有刺鉄線を張り巡らせて更に防衛力を上げるつもりだけどな」
「なるほど、有刺鉄線か。いいねえ」
翔太とそんな会話をしていると、未玖が井戸の水を汲んで戻ってきた。俺もさっさと焚火を熾さないと。




