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Phase.60 『再登録』



「それでは、これで手続き完了でございます。椎名様、秋山様のスマホにアプリを入れさせて頂きました」

「ありゃーっす!!」

「まったくお前は、調子いいな」


 お試し期間は、終了していた。二年前に『異世界(アストリア)』への転移アプリのサービスを始めて、現在ではそれなりの人数に達したので、先週一杯でお試しプランは終了したらしい。


 ……二年前からっていう事は、『異世界(アストリア)』で出会った長野さんは初期の転移者って事か。


 そんな訳で翔太は、俺と同じく今ここで10万円支払ってアプリを入れてもらった訳だけど、そんな大金が財布に入っている訳もなく、俺が立て替えてやった。


「ほっほー、これで今日から俺も異世界生活デビューか。ユキーの事を信じるとは決めたから勿論信じているけど、夢のような話だな。ワクワクするぜ」


 これで『異世界(アストリア)』に戻れる。未玖が待っているもとへ戻れる。だけど、マドカさんに確認しておきたい事があった。


「それでは引き続き、『異世界(アストリア)』での冒険をお楽しみください」

「ちょっと待って、まだ聞いてない事がある」

「はい、なんでしょう?」

「『異世界(アストリア)』は、この世界と同じくとても広い世界じゃないのか?」

「さて、どうでしょうか?」


 知っているのか、知らないのか。どちらにしても、マドカさんは答える気はないみたいだ。


「翔太とは、仲間だ。向こうに行っても一緒に行動したい。それぞれで転移しても、別々の場所に転移してしまう可能性があるんじゃないのか? 俺の転移した場所の女神像に、二人一緒に転移する事は可能なのか? 可能ならどうすればいいか教えて欲しい?」


 大事な事だった。未玖が転移した女神像は、丸太小屋から物凄く離れた遠い場所だ。もしもそこに翔太が転移してしまったら、向こうで出会うだけでも大変だ。


 それに他にも女神像はあるだろう。そんな知らない場所に翔太がもしも飛ばされたら……


 だから、一緒に同じ場所に転移できるならその方法を確認しておきたかった。


「それでしたら、問題はありません。椎名様の半径2メートルの位置に秋山様がいれば、一緒に同じ場所へ転移する事は可能です」

「ほ、ほんとか?」

「はい、本当でございます。椎名様の半径2メートル以内の距離に秋山様にいて頂く状態で、二人同時にアプリを起動して頂きます。そうしますと、椎名様の転移の項目に【他者と共に転移】という表示が現れますのでそちらをタッチして頂きます。秋山様のスマホ画面には、それを了承するかどうかの選択が表示されますのでyesを選んで頂ければ一緒に問題なく転移できます。その場合ですと、椎名様が前回ご使用になられました女神像に転移する事になります」

「そ、そうか、なるほど。それなら良かった」

「嘘だろー、本当にワクワクしてきた!! じゃあ、俺もユキーが言っていた丸太小屋に行けるんだな!! 楽しみだよー」


 翔太が丸太小屋という言葉を発すると、一瞬ゾワっとした。店にいる他の客達が一斉に、俺達の方を見ている気がしたのだ。すると、マドカさんが言った。


「ここではあまりそういう話題はしない方がよろしいかと思われます」

「え? どういうこと?」


 訳が解っていない翔太の肩を肘で突いた。そして「後で説明するから喋るな」と言った。


 恐らく……この店内にいる客達は、俺と同じく転移者なのだろう。だから、翔太の言った丸太小屋の言葉にも喰いついた。どんな人かも解らない者達……マドカさんは、無暗に自分達の情報を明かさない方がいいと教えてくれたのだ。


「もう一つ、いいかな」

「はい、どうぞ」

「鑑定ってアプリ機能あるよね」


 【鑑定】。その言葉を聞いて、マドカさんの顔つきが一瞬変わった。未玖から聞いていたアプリ機能の一つ。そんなものがあるなら、是非使えるようにしておきたかった。


「【鑑定】は、ありますが有料でございます。それでもお使いになられるのでしょうか?」

「ち、因みに……い、いくら?」

「10万円になります」


 うっ!! そ、そんなに!! でも30万下ろしたから、幸か不幸か今、この場に持っている。


「ま、まさかそれも月額じゃないよね?」

「いえ、月額ではありません。10万円お支払い頂ければ、その代金だけで継続してお使いになれます」

「じゃあ、お願いします! 俺のスマホに【鑑定】を入れてもらえますか」

「……はい、承知致しました。【鑑定】のご購入、ありがとうございます」


 今日一日で、20万の出費。だけど、これで俺は【鑑定】のアプリ機能を手に入れられた。見た事もないものや、魔物が徘徊する『異世界(アストリア)』では、この能力はきっと物凄く役に立つはずだ。


「またのご来店お待ちしております。いってらっしゃいませ、ご主人様」

「またねーー、マドカちゃん」


 鼻の下を伸ばす翔太。まったく、こいつは……


 マドカさんの「いってらっしゃいませ」という言葉。メイド喫茶では定番なセリフだけど、俺には異世界へいってらっしゃいって意味に聞こえた。


 店を出ると、俺は早速翔太に向かって行った。


「昼飯の時に話をしたけど、俺は今日これから『異世界(アストリア)』へ行く。待たせている人がいるからな」


「確か向こうで会った……未玖ちゃんだっけ?」

「そうだ。翔太も行くか?」

「行くに決まってんだろ!!」

「よし、じゃあ行こう!! でもその前に――」


 翔太と一緒に転移する。そして戻って来る時は、転移した場所に戻って来る。今日はまだ木曜日で明日は金曜だ。まだ一日仕事がある。


 だから翔太は、今日はうちに泊まって明日はうちから一緒に出勤する予定になった。……もっと正確に言うと、翔太が泊まる場所は練馬区の築60年オンボロ木造アパートではなく、丸太小屋なんだけどな。

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