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Phase.59 『お支払い』



「今、持ち合わせが無いです……」

「はい。それでは、どうなさいますか?」

「ちょっと近くのコンビニに行ってお金を下ろしてきます。だからちょっとだけ待って欲しい。『異世界(アストリア)』へ再び行くための10万円は必ず直ぐに払うから」


 メイドさんは、「では、お待ちしております」と言ってにこりと微笑んだ。俺は店を出ると直ぐに近くのコンビニへと駆け込んだ。店に行く時に見かけた店。


「っしゃ、せーーい」


 コンビニに入ると、早速ATMと向かい合ってお金を下ろす。


 ……果たして10万円でいいのか? 考えを巡らす。確か……


「ありゃーーっさっしたーー!!」


 コンビニを出る。結局、ATMで30万下ろした。ちょっと思う所があったのと、一応念の為にだった。


 『アストリア』の看板のある雑居ビルに戻ると、再び階段を駆け上がり店の扉の前へ――入店しようとドアノブを握ると、誰かが俺の肩を掴んだ。俺はビクリとして振り返る。すると、そこには想像もしなかった者がいた。


「しょ、翔太!! お、お前なんで……」


 そんな訳はないと思った。もしもそんな訳があるとすれば、俺のあとをつけてきた。それしかない。


「お、お前もしかして俺の後をつけてきたのか?」


 すると翔太は、俺に向かって物凄い勢いで頭を下げた。


「すまん、ユキー!! 許してくれ!!」

「え? え? 何を?」

「お前を疑った事だよ!! 俺は、お前が俺をおちょくっているって思った。ここの所、お前付き合いが悪いし理由も言ってくれなかったから、なんだか変な感じに思ってしまっていたんだ」

「そ、そうか……でも、なんで後をつけてきた」

「そんなの謝る為に決まっているだろう! あれから直ぐに引き返してお前に謝る為に、後を追った。するとお前は、家に帰らずに電車に乗って秋葉原に向かった。お前が話してくれたメイドのいる店の事を思い出したよ、俺に証明しようとしてアプリを起動したけど、できなかった。それで原因を突き止めに店に向かったんだって思ったよ」

「それならなぜすぐに声をかけない」

「そんなの……仕方ないだろ! 俺はお前が真剣になって真面目に異世界へ転移した話をしてくれたのに、俺は誤解していた訳だからな。なかなか話しかけづらくて、秋葉原まで来ちまったんだ。それでその後、お前をストーカーしていつ謝ろうかタイミングを見計らっていたら途中で見失って……それであちらこちら探して回っていたら、お前がこの雑居ビルに入っていくのを見かけた訳だ」


 なるほど、そうだったのか。


「でも異世界なんて本当にあると思うか? 俺の嘘かもしれないぞ」

「お前は本当だと俺の目を見て言ったぞ。異世界があるだなんて普通は誰も信じない。だけど、俺は違う。お前が本気で言っているのなら、もし転移する事ができなくても、そういった証拠がなくても信じる事にしたぜ。だから、仲直りしねーか」


 フッ……思わず笑ってしまった。


「もう気にしてないよ。それにお前にその覚悟があるんだったら、直ぐにでも異世界へ連れていける」

「え? 嘘だろ、本当かよ。でも覚悟ってなんだよ」

「金だよ、金。アストリアに転移できるアプリの使用条件は、月額で10万支払わなくちゃならないらしい」

「えええええ!! じゅ、10万だと!!」

「今日お前の前でアプリが起動しなかったのは、お試し期間が終了したからだった。今日、俺は正式にアプリを購入するつもりだ。それで、今は手続きしている途中だったんだ。兎に角、店の中へ入ろう」


 10万円という大金を、しかも月額で支払わなくてはならない。でも、それができれば異世界へ転移する事も可能。その事を伝えると、翔太は口をパクパクさせて動揺を隠せないでいた。


 俺は翔太と一緒に、『異世界(アストリア)』へ行きたい。だけど、それは強制ではない。選ぶのは翔太自身だ。


 ガチャッ


 店の中へ戻ると、俺は翔太を連れて先程話をしていたメイドさんのもとへ向かった。


「おいおいおい、ユキー!! 誰、このメイドさん誰だよ!! 物凄くキュートな人じゃねえか!! 初めまして、俺はこの椎名君のお友達の秋山翔太です」


 おいおい、なんて奴だと思った。


「初めまして、私はこのお店アストリアのメイド、マドカと申します」

「うはーー、マドカさんかー。これからよろしくお願いしまーす!」


 図らずしてメイドさんの名前が翔太のお陰で判明してしまった。会うのは今日で二回目だけど、初めてその名前を聞いた。マドカさんというのか。


 俺は翔太と共にカウンターの椅子に腰かけると、財布から10万円を取り出すとそれを見せて先程の話の続きをした。


「10万円は用意できました。それじゃ早速アプリを使用できるようにしてもらえますか?」

「ええ、かしこまりました」

「それじゃ、今その金額をお支払いします」


 俺はマドカさんに10万円を支払った。すると、翔太が身を乗り出して言った。


「俺もだ! 俺も異世界へ行きたい!! 俺のスマホにもその転移アプリを入れてくれ!!」


「翔太、本当にいいのか? 『異世界(アストリア)』は危険な所だ。魔物だっているし、俺は何度か死ぬ思いもした」


 心では、言っている事と矛盾して翔太にも一緒に来て欲しいと思っている。そうすればどれ程心強いか。『異世界(アストリア)』にいる時にも何度もそう思った。だけど、しつこい位言っておかないと後悔するかもしれない。


「いや、いい! 例えそれで何かなってもお前を恨んだりはしないぜ。自己責任って奴だ。俺は俺の希望でそのアストリアって世界に行きたい」

「承知致しました。それでは秋山様のスマホにもアプリをダウンロードさせて頂きます」


 翔太は、やったーっとどさくさに紛れてマドカさんの手を両手で握って喜んだ。

 

 まったく……本当にこんな調子で大丈夫なのだろうか。そんな気持ちと裏腹に、翔太の言葉に俺も嬉しくなってニヤついてしまっていた。

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