Phase.56 『オムライス専門店にて』
課長の山根の視線が気になっていた。翔太と喋っていると、また何か言ってきそうな感じ。
「ユキー」
「な、なんだ?」
「5連休、何してたんだよ。ゲームもぜんぜんログインしてねーじゃねーかよ。いったいどうして、そんなに付き合いが悪くなっちまったんだよ。俺、何か悪い事でもしたか?」
「お前は何もしてねーよ」
「じゃあ、なんなんだよ」
「そ、それは……」
「おい!! 椎名、秋山!! いい加減にしろよ。やる気がなかったら、帰っていいんだぞ」
課長の山根……有給を取るのがそんなに悪い事なのか? 今までろくにとらしてももらえなかったのに……
どちらにしても、今は無理だ。目の仇にされている。
「翔太、後で話をしよう」
「解った、それじゃあ昼、一緒に食いにいこうぜ」
「ああ、解った」
仕事中、ずっと翔太と話す内容の事や『異世界』に残してきた未玖の事を考えていた。気が付くと昼休みになっていた。
「ユキ―、昼行こうぜ」
「ああ」
「椎名さん、私達と一緒にお昼しませんか?」
唐突に呼び止められる。
北上さんと大井さん。きょ、今日はどうしたんだ? 北上さんと大井さんが俺達を昼飯に誘てくれるなんて。まったく『異世界』に行ってから驚く事が続く。
……でも今日は駄目だ。翔太と話をしないと。翔太を見ると、北上さん達の誘いを聞いて、物凄く行きたそうな顔をしていた。だけど俺は、「話をするんだろ!」と言って、翔太の背中を叩いた後に北上さん達の折角のお誘いを断った。
「えーー、残念です。でも用事があるならしょうがないですね。じゃあ今度は、また一緒にお昼できる時に椎名さんから声をかけて誘ってください」
「ああ、わかった」
「え? 俺も俺も!」
翔太もアピールしたが、北上さんと大井さんの視線は翔太には向いてなかった。本当に、これはいったいどうしてしまったんだ。前から挨拶をしてくれる事はあったけど、まさか食事を一緒にしようなんてな。
同僚の女の子とランチだなんて、ドラマとかアニメとかそういうのでしかないと思っていたぞ。
千載一遇のチャンスを棒にふってしまったのかもしれないと、下唇を噛みながらも翔太と会社を出ると、たまに行くオムライス専門店に向かった。
ここは、色々な種類のオムライスがあって珈琲などの飲物も本格使用で美味しい。内装も、どちらかというと喫茶店みたいな感じで落ち着く。話をするなら最適な場所だと思った。
店に入ると、アイスコーヒーとオムライスを注文した。腹が減っていたというのもあるけれど、話をする事が目的だったので、俺と翔太はがっつくように食事を済ませて早々に会話に入った。
「それで……まず聞きたいんだけどよ」
「ああ、解っている」
「ユキ―、お前ぜんっぜん一緒にやっているオンラインゲームもやらねーし、犬に噛まれて大怪我した日だって、飲みに誘おうとしても直ぐに帰っちまうし、どうしたんだよ。俺はその理由が知りてーよ」
「……ああ、そうだよな。でも、お前に話していい事なのかどうかまだ悩んでいる」
「なんだよ、それ。話してくれよ。俺達友達だろ? もしかして両親のどちらかが病気とかそんなんか? それで有給取って実家へ帰っていたとか」
首を横に振る。
「教えてくれよ。お前がどんな事をしていても、俺は友達だからよ」
「……人を……殺したと言ってもか?」
「え?」
「俺が殺人を犯したと言ってもお前は、俺の友人でいられるか? それは無理だろ?」
驚いて仰け反る翔太。でも直ぐに前のめりになるとアイスコーヒーを一口飲んで言った。
「例えお前が殺人鬼でも、俺がお前の親友である事には違いはない。自首しろーーとか言うかもしれんけど、俺は最後までお前の味方だ……いや、理由にもよるな。お前が殺した相手がドクサレ野郎だったら俺は間違っていると思っても協力……いや、少なくとも何か力にはなるだろうな。誓って言うが、法律より友情を俺は信じるぜ」
こ、こいつ……公然の場でなんて恥ずかしい事をいう奴だと思った。だけど、正直感動して涙が出そうだとも思った。
……こいつ……翔太なら信頼しても大丈夫だ。
「じゃ、じゃあ、何があったか話すよ……」
「おう、話してくれ」
「でも、一つ約束をしてくれ」
「ああ、なんだよ。言ってくれ」
「これからする話を絶対に他の人に言わないでくれ。それでもいいなら話をし……」
「できる! 話したくてたまらなくなったら、ユキーに了解をとってから話す。勝手には絶対話さないし、ユキーが駄目だって言ったらもう話さん。それでいいだろ」
「……ああ、解った。それと話をする前に先に言っておきたいこともあるんだけどな、とても信じられない話だと思う。ありえないけど、本当の話だ。とても信じられないと思う。それでも、いいか?」
「な、なんだよ。なんかそんな事言い出すと、緊張してくるな。まさか、お化けに遭遇したとかって話じゃねーだろうな。それで、そのお化けを除霊する為に連休中に伊豆半島とか行っていたとかよ。そんな話じゃねえだろうな」
「な、なんで伊豆半島なんだよ。でも、お化け……っていうのは、あながち……遠くはないかもしれない」
一昔前にそういうホラー映画が流行った。その舞台が伊豆半島だったので、それでそういうイメージが翔太にあったんだと思った。俺の言葉に翔太が唾を呑み込むのが解った。
俺は、自分を落ち着かせ、頭の中で話を整理しながら秋葉原でメイドから『異世界』への切符でもあるビラをもらった所からの話をした。
翔太は、じっと俺の話を聞きに徹していた。




