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Phase.54 『読書』



 カレーを食べ終わった後、俺は焚火の前でそのまま地べたに座り込んで、ナッツ系のお菓子をつまみに酒を楽しんでいた。


 今日は大変な1日になった。ゴブリンの襲撃から始まって色々な事があった。だから疲れているだろうと思い、未玖には先に眠っていいと伝えた。だけど未玖は、「はい」と返事をしただけで俺と一緒に焚火の前にいる。


 あの未玖が寝泊まりしていた洞窟から持ってきた宝石のような綺麗な黒い石と、アルミラージの角を手に取って眺めている。それと、銅貨。


 銅貨とは、俺達のこの拠点を襲撃してきた不届き物のゴブリンから手に入れた戦利品。成敗した後、奴らの屍を森に埋める際に、奴らの持ち物をチェックしたら出てきた。


 裏と表それぞれに、偉そうな人の顔と宮殿か神殿だか解らないが建築物がデザインされている硬貨。まあゴブリンが買い物をするのかどうかはさておいて、この『異世界(アストリア)』で使用されている通貨である事には間違いないだろう。


 だが今のところ、俺に関しては未玖や長野さんに会った程度で異世界人には一度もあっていない。だから折角この『異世界(アストリア)』のお金を手に入れたとしても、直ぐに使える物でもないしと入手したもの全てを、興味があると銅貨を欲しがった未玖に預けた。


 どれ位の価値があるかは解らないけど……って言っても銅貨だからな。それ程でもないと思う。だけど、未玖は宝物でも手に入れたように喜んでいた。


 パチパチパチパチ……


 焚火の音と、薪の焼けるニオイ、そして火の暖かさが心地いい。


「おい、そろそろ眠ったらどうだ?」

「はい。ゆきひろさんは、まだ眠らないのですか?」

「俺はもう少し起きている。またゴブリンが襲撃してくるかもしれないし、もう少し見張ってみて大丈夫そうなら寝るよ」

「そうですか。じゃあ、わたしももう少しここで見張っています」


 そう言って地面を転がる未玖。もう拠点の外は、暗闇に包まれてる。小屋の中へ入った方が絶対に安全なのに、なぜか俺と一緒に外にいる。まあ、柵で囲んでいる内側にいる分にはまだいいけど。


 あっ! そうだ!


 俺はおもむろに立ち上がると、小屋へ入った。そして荷物の中からゴソゴソと何冊かの本を取り出すと、それを持ってまた小屋の外に出て、焚火の前で転がる未玖の隣にそれを置いた。


「な、なんでしょうか? 本?」

「ああ、一応な。小説に漫画――読むこともできるし、いざとなれば何かを包んだりするのに使用できたり、火種にもできるなと思って持ってきた。内容は、異世界物とかバトルものとか完全に俺の趣味なんだけど……読むか?」

「よ、読みます!! 読みたいです!!」


 さっきまで転がっていた未玖は、慌てて起き上がるとその場に正座して、目の前に積んでいる本に手を伸ばした。良かった、いいものを思い出して本当に良かった。


「これがあれば、俺がいない間の暇潰しにもなるだろう」


 本を読んでいた未玖の手が止まる。


「す、すぐ戻ってきてくれますか?」

「言ったろ? 仕事があるから直ぐには無理だ。だけど終わったら絶対に戻ってくる」

「ほ、本当ですか? 約束してくれますか?」

「約束する。絶対に俺はここへ戻ってきます!」


 未玖に笑顔が戻り、再びパラパラと本を読み始めた。


「その代わり、俺からも一つ未玖に絶対に守って欲しい約束がある」

「な、なんでしょうか?」

「嫌だろうけど、俺のいない間は緊急時を除いて絶対に柵から外へは出ないでくれ。できれば丸太小屋の中に籠っていて欲しい。解るだろ? いつまた何が襲って来るかも解らないからな」


 頷く未玖。長野さんはここに残ってはくれなかったけれど――これから先、他にも仲間ができればと思う。そうすれば俺がいない時でも、未玖は一人にはならない。誰か他にいるだけでも安心感が違う。


 未玖を見ると、うつ伏せになって夢中になって本を読んでいた。


「そろそろ小屋へ入ったらどうだ?」

「え? あ、はい」

「中でも読めるだろ? ランタンを使っていいぞ」

「は、はい」


 駄目だ。完全に夢中になってしまっている。でも、それも最もな話だと思った。未玖は11歳だという。


 11歳と言えば小学校5年生。普通に考えれば遊びたい盛りだろう。俺なんか、31歳になってもずっと遊びたい盛りだ。職場でも暇さえあればネトゲの事を考えたりしている。


 これはまた未玖の為に、何か持ってきて娯楽を増やしていく必要があるなと思った。だったら尚更、なんとかもとの世界の仕事と、この『異世界(アストリア)』の生活を両立させなければならないと思った。


 酒をちびりちびりと飲んでつまみを貪り、読書に夢中になっている未玖の横顔を見て過ごしていると、いつの間にか日付が変わっていた。


 流石に寝なければ。俺は未玖を連れて小屋に入ると、眠る事にした。


 未玖に「おやすみ」というと、寝室に入っていったので俺もお馴染みの椅子を並べた寝台で横になった。


 そして目覚まし時計をセットすると、毛布をかぶる。この『異世界(アストリア)』の夜は結構、冷える。もう少し、何か準備をした方がいいかもしれないな。


 目を閉じると、有給を取って気合を入れて過ごした5日間の出来事を鮮明に思い出した。俺にとっては大冒険の毎日だったが、思い返してみれば小屋の周辺がメインだったな。


 唯一遠出したのは、未玖が寝泊まりしていたという洞窟。……サーベルタイガーは、凄く迫力があって恐ろしかった。


 溜息――そろそろ眠れそう。そう思った所で、翔太の事を思い出してまた睡眠時間が短くなってしまった。

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