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Phase.51 『養生』



 目が覚めてからの未玖の喜びようは、大層なものだった。抱き付かれて、泣いてくれた。そんな未玖を見て俺も嬉しかったのと、改めて助かったんだなって実感した。


 そして丸太小屋の物置にあった回復ポーションは、本物だった。まだ痛みやダメージはあるけど、既に血も止まっているし身体が楽になった。眠りから覚めてから意識もしっかりとしている。


 回復ポーションは、残り4本。これはまた絶対何かあった時の御守りになる。大事にしないといけない。だから未玖に行って回復ポーションを木箱に戻し、物置に再びしまっておいてもらった。


 ――時計を見る。14時24分。


 昼食は、未玖が準備してくれた。って言っても缶詰とカップ麺。だけどそれで充分。食べた後は、小屋の外に椅子を二脚並べて、そこにそれぞれ未玖と腰かけてゆっくりとしていた。


 明日はもう、もとの世界へ戻らなくてはならない。本心を言うと、嫌だ。こんな恐ろしい思いをして死にかけたというのに、もとの世界へ本気で戻りたくないと思っている。この『異世界(アストリア)』は毎日がワクワクする。未玖といつまでもこの異世界で生活や冒険を続けたい。


 ……だけど、一度戻らねばならない。嫌だなーー。


「未玖」

「え? は、はい」


 椅子に腰かけて太陽の下、ゆったりと時を過ごしていたので未玖はうつらうつらしていたようだった。無理もない。先程まで必死になって俺を死の淵から掬い上げてくれたのだから。


「俺は明日の朝、もとの世界へ戻らなければならない」

「……はい。知っています」

「でも夜になればまた戻ってくる。その翌日も平日だから同じような感じになるが、いいかな? そこを越えればまた土日だ。金曜日の夜からは、またこっちにいるし」


 未玖は一瞬沈んだ表情を見せたが、直ぐににこりと笑って明るく顔を見せた。


「はい、大丈夫です。ここでゆきひろさんが戻ってくるのを待っています」

「お、おう。なるだけ早く帰る……って言っても最速でも定時あがりなんだけどな……」


 ゴブリンの襲撃に加えて死闘の後、日中とはいえ未玖を一人にするのはどうしても不安で仕方なかった。


 ああ……言っても仕方が無い事かもしれないが、長野さんがここへ残ってくれていたらどれ程心強かっただろうか。あの人は二年もこの『異世界(アストリア)』に入り浸っていて、それに比例する知識と力を持っている。それに散弾銃など強力な武器も所持していた。その事を考えると、ここに留まってくれていたらと悔やまれる。


 でも先は解らない。また現れると言っていたし、明日か明後日か一か月後か一年後かは解らないけど、またこの場所にやっくるかもしれない。そしてそのままここで一緒に住もうって言ってくれる可能性だってゼロではない訳だ。


 …………仲間か。


 信頼できる仲間がもう何人かいれば、もっと心強いしこの俺達の拠点だってもっと大きいものに発展させていけるに違いない。


 …………翔太の顔が浮かぶ。馬鹿面……っていうか、課長の山根に変顔しておちょくっている時の顏がなぜだか浮かんだ。


「未玖」

「はい」

「ちょっと聞きたいんだけど」

「はい、なんですか?」

「ここに俺の友達を連れてきたら嫌か?」

「え?」


 固まる未玖。やっぱり誰だか知らない奴を連れてくるっていうのは、嫌なのかな。俺の友達っていうんだから当然おっさんだし。


「……そ、それは女の人ですか?」

「え? 違う違う!! 女なんて俺、ぜんぜんもてねーし相手にされない奴だから、男しか友達いないんだよ! だからおっさんなんだけど、もし連れてくる事になったらだけど……いいかな? お調子者でムカつく時もあるけど根はいい奴なんだ……あと、人として信頼できる」


 翔太の事だった。未玖の質問に答えると、未玖はなぜだか顔に笑みを浮かべ、もじもじとしだした。


「い、いいと思いますよ」

「え? そうか? 未玖もいいと思うか?」

「はい。ゆきひろさんがそんなに信頼できる人だと言う人でしたら、そんな人がここに来てわたし達の仲間に加わってくれたら物凄く心強いです」

「そ、そうか。そうかそうか。うん……ありがとう」


 やっぱり、俺もこの場所へ翔太を呼んでやりたいと思った。翔太がいれば心強いし、更に楽しい異世界ライフをおくれるはず。あいつは馬鹿だけど、時に驚く事をしたりして周囲を驚かす。翔太が望むなら『異世界(アストリア)』の事を俺は話そうと決めた。


「さてと、動くか! いててて、まだ身体が痛むな! 特に脇腹の貫かれた所が最悪だ」


 椅子から立ちあがると痛みが走った。少しよろめいたので、隣で座ってゆっくりしていた未玖が慌てて立ち上がり、俺の身体を支えてくれる。


「大丈夫、もう大丈夫だから」

「でもまだ痛みが……もう少しゆっくりした方がいいんじゃないでしょうか?」

「いや、そうしたいのは山々だけどさ。今の陽が昇っている間にやっておきたい事があるから」


 そう言って、小屋の周囲で転がっているゴブリンの死体を指さした。これをこのまま放置していると、そのうち肉は腐り始め大変な事になる。何よりここは異世界なのだ。屍をそのままにしていると、何か良からぬものを引き付けているのではないだろうかというような事も考えてしまう。


「それならわたしがやります」

「未玖一人じゃ無理だ。だからと言って今の負傷している俺も一人じゃ無理だ。だから手伝ってくれ」

「は、はい!」


 ちょっと長めの休憩は終了。俺と未玖は、倒したゴブリン2匹の屍を片付ける為、森に埋めにいく事にした。埋める前に、ゴブリンが何かいいものを所持していないかと持ち物を探ってみた。

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