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Phase.48 『夜中の物音』



「……さん」

「……ん?」

「……さん……ゆきひろさん……」

「……ん? ……え?」

「起きてください、ゆきひろさん」

「え? あっ……ど、どうした未玖?」


 目を開けると、暗闇が広がっていた。だが目の前で俺の顔を覗き込んできている未玖の顔は見えた。


「ど、どうしたんだ未玖?」


 まだ真っ暗なのにと思って腕時計を見る。するとまだ夜中、2時を回った所だった。こんな時間に何事かと思った。


 もしかして、未玖は急に寂しくなって俺を起こしたのか? 未玖の歳は、まだ僅か11歳だという。それなら無理もないか。


 ガサガサッ! ドンッ!


 !!!!


「え? な、なんの音だ!!」

「何か小屋の外から物音がして……それで起きたんですけど、怖くなって……」


 俺は慌てて起きると、サバイバルナイフや剣を吊っているベルトを腰に装着した。そしてお手製の槍を手に持つとそれを未玖に渡して、俺は剣を抜いた。


 ザッザッザッザッ


「な、なんの音でしょうか? 誰か小屋の外にいるんじゃないでしょうか?」

「だ、誰か小屋の外にいるって……もしかして、コケトリスか」

「違うと思います。足音みたいな音が聞こえましたし、ドンって音はさっきもしてましたが小屋を叩いている……そんな感じでした」

「こ、小屋を叩くって……そんなの」


 長野さん? いや、それもありえない。あの人はこんな事をしない。拠点の周りには柵だって並べているし……まさか、他の転移者?


 それなら「何をしているんだ?」って言って出て行ってもいいなと思ったが、何か嫌な予感もする。第六感っていうのだろうか。昔から俺は運がいい方じゃなかったけど、それはよく当たる方だった。


 ザザッ


「未玖、もしもの時は思い切り槍を突き出して攻撃しろ。いいな、腰を入れてしっかり狙って体重をかけて突き出すんだ。解ったな」

「え? は、はい」


 俺は剣を強く握りつつも、窓の方へ近寄って行った。普段は窓は板で塞いでいるが、それだと小屋の中が真っ暗になって灯りが無いと何も見えなくなってしまうので、僅かに板を持ち上げて外の光が中へ差し込むようにしていた。


 そこから外を覗いて、様子を見る。


「うっ!!」


 刹那、俺の目に飛び込んで来たのは顔だった。俺と同じく僅かに開いた窓から小屋の中を覗き見ようとする顔。邪悪な鬼の顔。動けない。恐怖で鳥肌が立つ――


 ギャギャーー!!


「うわああっ!!」


 ゴブリンだった。ゴブリンは、俺を目で捉えると咄嗟に短剣を窓からこっちの方へと突っ込んで来た。それが俺の右胸に突き刺さる。血。


「ゆ、ゆきひろさん!!」

「くるなああ!! 未玖、槍を構えて部屋の隅にいろおお!! ってええーー、ちくしょー!!」


 ギャッギャッギャ!


 窓を塞いでいた板が持ち上げられる。小屋の中へ入り込もうとするゴブリン。俺は、短剣で突き刺された痛みを我慢して、中へ侵入してこようとするゴブリン目掛けて剣を振った。


「この野郎!! 勝手に人の(うち)に入ってきやがって!! 絶対、させねえ!!」


 小屋の中に入れてはダメだと思った。決死の攻撃。だが俺の剣を、ゴブリンは辛うじて受け止める。衝撃で後ろへ転がるゴブリン。


 やったと思った。しかし、次の瞬間、その転がったゴブリンの横から更に別のゴブリンが顔を出し、思い切り槍を俺の方へ突き出してきた。


 ブシュッ!


「うぐっ!!」

「ゆきひろさん!!」

「く、くるなって!! そっちの隅にいろ!! 未玖の事が絶対に俺が守ってやるから、頼むからそこにいてくれ!!」

「で、でも!!」

「いいから、後ろに!!」


 槍を持ったゴブリンが今度は中に入ってこようとしたので、俺は再び叫びながら剣を前に突き出して中へ侵入しようとしてくるゴブリンを阻止した。激痛。見ると、最初にやられた右胸の傷の下の方、脇腹からも大量に出血していた。


 これは駄目だ……これだけ出血していたら、俺はもう死ぬかもしれない。


「ゆきひろさん……」


 だけど……だけど、それはもう少し後だ。こんなゲーム以外のなんの取り柄もない毎日を、ただただしょうがなくと言った感じで惰性で生きていたような俺がなぜ……なぜこんな気持ちになってしまっているかも解らない。


 だがそんな疑問も後でいい。とりあえず、今この小屋の外にいるゴブリンを返り討ちにしてやる。未玖は――未玖だけは俺が守ってみせる。今、未玖を守れるのはこの場に俺しかいないのだから。


「うおおおおお!!」


 気が狂いそうになる位に痛みがあった。また懲りずに、窓から中で入ってこようとしたゴブリンに向けて剣を振る。


 今まで生きてきて、剣を振った事なんて無い。無様な攻撃。こんな事なら、剣道でも習っておけば良かったかな。しかし、無我夢中で振った剣がゴブリンの鼻の上をかすった。悲鳴。


 ギャギャーーッ!!


 追い打ちをかけて仕留めてしまわないと、出血している俺には、ゴブリン2匹といつまでもやり合っている時はないと思った。


 窓に近づいて乗り越えようとした時、そう言えばもう1匹槍を持った奴がいたと思い出して壁側に身を寄せた。その刹那、窓の外からもう一匹が顔を出して先程と同じく槍を突き出して来た。


 ギャーーー!!


「はっ! やっぱりな、マヌケめ! そう来ると思った!!」


 壁側に身を避けていたので、ゴブリンの槍は俺に当たらなかった。そのまま剣を握る手と逆の手で、ゴブリンが突き出した槍を握る。そのまま、ぐっと引き込んで前のめりになったゴブリンの首に、至近距離から剣を突き刺した。血飛沫。


 ゴブリンはふらふらとふらついて、後ろに倒れ込んだ。窓の外を見ると、短剣を構えているゴブリンがもう1匹いる。どうやら、ここを襲ってきたのは2匹だけか。


 ……もしかして、この2匹は俺が森で見かけたゴブリンかもしれない。そうだとすれば、今後の為にもこのままこいつらをここで仕留めておいた方がいい。


 俺は、出血しながらも窓から外へ飛び出すと、残る1匹のゴブリンに向けて剣を向けた。

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