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Phase.461 『小屋とやっかいごと その9』



 隣の寝室へ移動する。振り返ると、通過してきた壁にある、ダクトのような穴が目に入る。棚を動かして、その穴を塞いだ。


「ぶ、無事だったのか⁉ どうなっている? 長木は?」


 寝室に入るなり、恩田が色々と聞いてきた。俺は面倒くさそうに返した。


「今、俺のいたキッチンには、梟の頭をした狂暴な熊の魔物がいる。ドアを破壊すると、突っ込んできて暴れ回ってやがんだ。長木は、その魔物に襲われて死んだ」


「ええ!! な、長木が⁉」

「あいつは、お前を見捨てて1人でトイレに籠ったんだ。だからそんな奴の事なんて、もう忘れろ。それに今、余計な事を考えていると自分が死ぬハメになるぞ。死にたくねーってんなら、生き延びる事だけを考ろ」

「ぐ……」


 こんな奴に構ってられない。今はそんな場合じゃない。考えろ、どうやってあんな化物をぶっ殺すかを……


 折角作った槍、あいつを突き刺してそのまま置いてきちまったし……やっぱりやりあうなら銃がいいのか。あれこれ考えていると、ジジイが言った。


「銃を使うしかないと考えているんじゃろ。しかし、弾は高価だし弾数にも限りがあると。目的地にもまだ到着しておらんし、早々にその全てを使い切る訳にもいかん」

「なんだよ、そりゃ」

「鈴森君の、今の心境を代弁してみただけじゃ。だから言っておこう。今は弾をケチっている場合ではないとな」

「言われなくても解ってるよ」

「そうか、なら良かった」


 なんてことだ。ジジイに後押ししてもらう形になってしまった。でもそうだ。あの梟熊を相手に、力の出し惜しみなんてしている余裕はねえ。やらなければ、やられる。


 ゴソゴソゴソゴソ!!


 キッチンから、寝室に抜けて来た穴から音がした。奴しかいない。奴が迫ってきている。俺は銃を抜くと、さっき自分が出て来た穴に近づいた。するとジジイも散弾銃を手に構える。恩田。


「おい!! ヤバいんじゃないか!! ここへ入ってくるぞ!!」

「うるさい、黙れ!! ビビってるだけなら、そっちの部屋の隅へ行ってろ!!」

「いや、ここへ奴が入ってくるなら俺も戦う。でないと、どっちみち喰われるんだ。それなら俺だって、腹をくくるしかないからな!」

「いらん!! てめえは銃を持ってないだろーが! そっちで避難していろ!!」


 この部屋で見つけた、角材のようなもの。恩田はそれを拾うと、武器にしようと手に持って構える。手も足も震えているじゃねーか。もう一度、止めとけと言ってやろうと目をやった瞬間だった。ジジイが叫んだ。


「鈴森君!!」


 穴を塞いでいた棚が倒れる。そこには、梟の顔。穴の中が暗かったからか、もう陽が落ちかけているからかは解らないが、奴の両目が大きくなっている。そしてその丸い不気味な目で俺を見てやがる。


「撃て、鈴森君!!」

「うあああああ!!」


 ダンダンダンダン!!

 

 ダーーン!! ダーーン!!


 ジジイが先に散弾銃を発砲すると、俺も穴に向けてハンドガンを連射した。メキメキという音と共に、穴の周りが盛り上がり木造の壁が弾け飛んだ。大きな毛むくじゃらの塊が飛び出してきたかと思うと、丁度正面にいた恩田に衝突した。


「ぎゃあああ!!」


 恩田の悲鳴。俺は何度もアウルベアーの身体、背に向けて銃を撃った。ジジイは弾を撃ち尽くして、散弾銃に新しい弾を装填している。


 お、落ち着け、俺!! 俺はアウルベアーの頭を狙って撃った。


 ダーーン!!


 僅かに外れて、首辺りに命中。アウルベアーはこっちに振り返り、大きな腕を振ってきやがった。刹那、奴に押し倒された恩田の顔が見えた。奴に身体を潰されて、即死しているように見えた。


 俺は咄嗟に後ろへ飛んで、アウルベア―の攻撃を運よく避ける事ができた。


「ジジイ!!」


 叫ぶと、ジジイは装填し終わった散弾銃をアウルベアーに向けて撃った。散弾銃の弾は飛び散って、奴の身体にめり込む。よく見ると、奴の身体は夥しい量の血に汚れていて、満身創痍のようだった。これなら……


 決着をつけようと思った瞬間に、ジジイがアウルベアーの脇を駆け抜けてこっちに走ってきた。そして俺の腕を掴むと、寝室のドアのノブを掴んで、勢いよく開けて外へ出た。そのまま勢いよく転ったジジイは、倒れながらもドアに蹴りを入れて閉めた。


「お、おい!! 中にまだあいつが!!」

「恩田君は残念じゃった。儂らは生きのびなければならない」

「ならここで、奴を仕留めるべきじゃないのか。そうじゃないと、あいつは何処までも追ってくるんだろ?」

「そうじゃな。だから倒すしかない」


 ジジイはそう言って煙草を一本取り出して口に咥えた。火を点ける。


「お、おい!! こんな時に何をやってんだよ!!」

「鈴森君、急いで外へ出るんじゃ。そこの、最初に儂らが入って来た窓からな。アウルベアーがいる寝室からは反対側になるし、そこが一番いいんじゃ」

「おい、なんか考えがあんのかよ?」


 ジジイはニヤリと笑った。俺は舌打ちして、言われたように窓から外へ出る。ほとんど同時に、さっきジジイが蹴って閉めた寝室のドアが、ドーンという音と共に壊される。飛散する木片。でもドアは、完全には破壊されてはおらず、もう一度か二度突進しないとアウルベアーはこっち側へはこれなかった。


「何してんだ、ジジイ!! 早くこっちにこい!!」

「だから、ちょっと待ってくれ!!」


 ジジイはそう言って自分のザックから、瓶を取り出した。それを見て、はっとする。瓶には何か透明の液体が入っていて、口には布が突っ込まれていた。それを見て直ぐに気づく。


「お、おい! それもしかして」

「ああ、火炎瓶じゃ。しかも儂のお手製で、よく燃えあがるぞ」


 ジジイはそう言って瓶に突っ込んである布に、口に咥えた煙草の先を当てた。火が点くと、それをアウルベアーのいる寝室の扉に向かって投げた。硝子の割れる音。あっという間に広がる火。小屋は炎に包まれる。


「ジジイ!!」

「鈴森君、いい加減そのジジイっていうのをやめてくれんか。自分がジジイっていうのは理解しておるが、それは良くないいい方じゃろ?」


 ジジイはそう言って、窓から這い出してきた。俺はそんなジジイの服を掴むとこっちへ引き入れる。そして起き上がらせると、2人並んで慌てて小屋から走って離れた。


 振り返ると、さっきまでいた小屋はモクモクと煙と炎をあげて、燃え上がっていた。

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