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Phase.459 『小屋とやっかいごと その7』



 キッチンに入ると、ドアをバタンと勢いよく閉める。そして辺りを見ると、前にこの小屋で住んでいた奴が使っていたんだろう食器やら、料理道具やらがそこらに散乱していた。


 俺は、おもむろにそれに手を伸ばした。


「包丁か」


 すっかり痛んで刃がかけている包丁。手に取り、顔を近づけて見つめる。これは、この異世界のものなのか……それとも、俺達がやってきたもとの世界にあったものなのか。誰か転移者が、この小屋で暮らしていたっていうのなら、十分に考えられる。


「……異世界の金属で、作った包丁……かもしれねーな。ってそれでも、刃が欠けていたりするから、ミスリルとかオリハルコンとか伝説的な金属じゃないと思うけどな。いいところで、普通の鉄だろう。既に剣やら槍やら見たし、この世界には鉄鋼技術は備わっている」


 ガシャッ!! ドスーーン!!


 大きな音がして、驚いた。さっき俺達がいた部屋からだ。


「あの女を喰い終えて、食べ残しを平らげにきやがったか……窓から入ってきやがったな」


 実際に山で、ヒグマなどの猛獣に遭遇した経験なんてない。でも動物園位になら、行った事はある。子供の時にだけどな。だからなんとなくそう思うが……あれは熊だ。ヒグマ位の大きさをした熊だった。腕力もそれ位か、それ以上はあるだろう。そして頭部は梟。これから夜になれば、きっとその力も更に本領発揮するっていった感じか。


 ゴソゴソゴソゴソ……


 スン! スンスンスンスン!! フガ!!


 部屋の中を歩き回っているな。それにあの音。ドアの向こうで、俺達のニオイを嗅いでいる。しかも自分の身体を壁や、扉に擦り付けてニオイを嗅いでやがる。


 ……いや、違うな。さっき解っていたはずだろ。あいつの頭は梟だ。つまり、鳥か。鳥ってのは、嗅覚なんてそんなに無いんじゃないのか?


 なら擦り付けてきているのは、鼻じゃないな。そもそも梟に鼻なんてあったか……


 ドドーーーン!!


 扉を叩かれた。衝撃。俺は思わず後退すると、手に持っていた包丁を調理台の上に置いて銃を取り出して構えた。


 くそ!! もしこのままあいつがドアを突き破って中へ入ってきたら、こんなハンドガンだけで倒せるのだろうか。ダメージは与えられるだろうが、何発撃ち込めば倒す事ができるのか解らないし、突っ込んでこられたらせいぜい3発か4発目で、俺は奴に身体をえぐられているだろう。


 ドンドン!!


 更に扉を叩いている。俺は息を殺して、持っていた銃を再び腰にさした。そして足元にあった手頃な棒を拾い上げて、ザックからテープを取り出すと、それを使ってさっき調理台に置いた刃の欠けた包丁を巻き付けた。


「へっ! 入ってくるなら、入ってきやがれ! 入って来たならとりあえず、まずこれをお見舞いしてやるぜ。パワーもスピードもタフさも負けているってなりゃあ、他で勝つしかないからな。リーチと不意打ちで勝負だ」


 額からは冷汗、背中にも。でもなぜか俺は、笑っていた。もしかしてこのスリルを、楽しんでいるのか、俺は? 解らない。自分でも解らない。でも闘志は消え去っていない。死ぬ気だって全くない。


 壁に張り付く。ドアがついている方のだ。これで奴が扉をぶち破って中へ入ってきたら、背後から不意打ちでこれを突き刺してやる。もちろん、狙いは頭……いや、首か。背中じゃ、倒れなさそうだしな。


 ドカッ!!


 また扉を一発。来るぞ!! 身構えると、その一発の衝撃があった後、急に外が静かになった。ん? なんだ、どういう事だ?


 …………


 …………


 ………………


 じっとしている。冷たい汗が額から顎の方へと伝わって、下に落ちた。俺は壁に耳を当てて、ドアの向こうの部屋に奴がいるのか探った。


「なんだ、どういう事だ? なぜ急に、音がしなくなった? さっきまであんなにこのキッチンの扉を叩いていたはずなのに……まさか、勝手に死んで……って事はないだろう……じゃあ、あれか。食事をしたから、唐突に眠くなって寝てしまったとかか」


 それとも諦めて、窓から外へ出て行ったか。いや、それはない。窓はそれなりの高さの位置に設置されているし、その周りは破壊されて飛び散った木片や硝子の破片が散乱している。そこを通ったなら、何か音がするはずだ。もし、奴に高い知能があって、俺達に気づかれないように気をつけて小屋の外へ出たとしても、俺達に興味を無くしたのならそこまでする理由もないはずだ。


 っていう事は……


 再び、息を殺して様子を見る。


「ジジイは無事だな。椎名と同じく、かなりの心配性だからな。まだ寝室で暫く様子を見ているだろう。でも奴がもうここにいなければ、こうしている時間も無駄だし馬鹿らしい……」


 そっとドアノブに手をかけてみた。身体は壁に貼り付けたままで、もう片方の手には包丁で作った槍を持っている。手に力を込めた。そーーっと、ドアを開いて外を覗き込んでみようとした……その時。


 ドガアアッ!! ドンドン!!


「ひいいやあああああ!! ぎゃああああ!!」


 ホーーー!!


 ズシャアアア!! ドガン!! ゴロゴロ……


「なんだ、今のは⁉」


 扉を少しだけ開けて覗き込もうとした刹那、悲鳴となにかの鳴き声、そして大きな音がした。心を落ち着かせて状況を確認しようとする。


 そうだ、さっきの悲鳴は長木って奴の声だ。そして鳴き声の方は、なんというか梟みたいな鳴き声だった。もしかして……


 俺は深呼吸するように、息をゆっくりと吐いて吸い込んだ。それを3度繰り返すと、ノブを捻って少しだけドアを開いた。すると隣の部屋の状況が、目に飛び込んでくる。


 長木が1人で籠っていたトイレのドアは全開になっていて、その前には奴と倒れた長木がいた。長木はピクリとも動かずに血だらけになっている。しかも奴は、倒れた長木に覆いかぶさるようにして、肉をついばんでいた。

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