Phase.454 『小屋とやっかい事 その2』
慌ててジジイを小屋の中へ引き入れた。俺が入った箇所と同じく、窓から。
「な、なんじゃ、なんじゃ。なにがあった! ん? 人が……怪我をしておるのか?」
ジジイはそう言って、床とソファーで横になっている男女2人に視線を向ける。そして近づき、様子を見た。
「怪我をしておるな。肉をえぐられて、出血しておるようじゃが……」
「魔物にやられたらしい。4人いたが、ここには3人だ。いねー奴は、もうその襲ってきた奴の腹の中だろうな。だろ?」
そう言って男を睨んだ。俺の言い方が気に入らなかったのか、そういう目で返して来た。だが俺は、睨みつけたまま視線を外さない。すると男は、俺から目を落とした。
言い方がまずかったか? ジジイもそういう俺を責めている目で見ている。だがな、こいつは俺達を巻き込んだんだ。魔物に襲われているって、はっきりしているんだろ。しかもさっきこいつは、この小屋の外に自分達を襲った魔物がうろついているかもしれねーみたいな事を言いやがった。
なら、こっちに来るな! とか、逃げろ、危険な魔物がいるぞ! って言ってやる方が、正解だろ。こいつは、俺に助けてと言ってこの小屋に引き込んだんだ。危険というリスクを俺にも背負わせた。ならちょっとくらい、イラついて嫌味を言ってやってもいいじゃないか。なあ、そうだろ?
思った事は溢れる程あったが、敢えてそこまでは言ってやらなかった。別に言ったからって、どうなるもんでもねーし、俺の仲間じゃねーから。
小屋にいた男は、今度はジジイに向かって手を差し出した。
「恩田といいます」
「儂は、長野。そしてこっちのが鈴森君じゃ」
「勝手に人の名前をバラすなよ」
「バラす? ああ、それはすまないな」
悪びれもせずにジジイはそう言って、恩田という男の手を握った。
「それで恩田君。君らが魔物に襲われているというのは解ったが、そいつはなにものじゃ? 姿はとうぜん見ておるんだろ?」
「え、えっと……」
恩田はそう言って仲間を見た。もちろん話すが、先に仲間の手当をしろ。そう言っているようだった。ジジイもそれに気づくと、自分のザックを置いて中を漁った。薬と包帯、ガーゼなどを取り出す。
ははは、救急セット。さっきジジイは自分にも使ったばかりだ。大活躍。もってきて正解だったな。そう言ってやりたいが、面倒くさくてまた何も言わなかった。
「とりあえず傷の治療をしよう。それで、君らを襲った相手とは?」
「あれ、なんて言ったからな。梟の頭をした大きな熊だ」
梟の頭に熊? なんだそりゃ? いや、まてよ。そんな魔物がゲームとかで、登場していたような気もするが……喉までその魔物の名前があがってきていて、言葉にならない。するとジジイが答えた。
「アウルベアーだな、それは」
「そうだ! アウルベアーだ! 梟の頭をした熊……って俺も今、言おうとしたところだ」
「そ、そうか」
思い出そうとしていただけに、思わず言ってしまった。そして後悔する。俺は気を取り直して、ジジイに聞いた。
「あんたは、アウルベアーを知っているのか?」
「知っているかとは、会った事があるかという事かの? それなら会った。遭遇した事はある」
「それで」
「死に物狂いで戦った……と言いたいが、逃げたわい。アウルベアーっという魔物は、簡単に説明すると熊のようなパワーがあって狂暴。それに物凄く、タフな魔物じゃ。その時、儂は銃を見舞ってやったが、結果は逆上させるだけじゃった」
「あなた達は、銃を持っているのか⁉」
俺達の会話を聞いて、恩田が驚いた顔をして言った。そして外を徘徊しているかもしれないアウルベアーと、仲間の傷の事でぜんぜん目に入っていなかった、ジジイが背負っている散弾銃に目を向ける。腰に差しているハンドガンにもだった。
「銃を持っているからなんだ?」
「いや、別に」
「奪うなら、殺し合いになるぞ」
「いや、そんなつもりある訳ないだろ。それより、銃があるならあいつを追い払えるかなと思って」
「聞いてなかったのか。アウルベアーは、銃をものともしねーんだってよ」
恩田との会話。ジジイは溜息を漏らす。
「まあ、それでも銃っていうのは、パワーはもちろん殺傷能力に優れておるからな。もっと何十発と食らわせれば倒せるかもしれん。じゃが向こうも抵抗してくるからの。倒す前に、こっちがやられてしまうかもしれんな」
「なら、どうする?」
俺とジジイは、横になっている恩田の仲間に目をやった。恩田は、はっとして叫ぶ。
「ま、ままっま、待ってくれ!! 置いていかないでくれ!!」
「言ったろ、俺達は用事があるんだよ。ここだって、たまたま通りかかっただけだ。傷の手当だってしてやったろ」
「そ、それなら、あんたらについていく!!」
「はあ? 馬鹿いうな。仮についてくるって言っても、面倒なんて見れねーぞ。俺達は、自分の事で手一杯だ」
「じゃ、邪魔にならないようにするよ。何かあっても、それはこっちの責任だ」
「お前の仲間は、どうするんだ? ここへ置いていくのか?」
恩田は、自分の仲間を見た。じっと見て、またこちらを振り返る。
「頼む。こいつらは仲間なんだ。置いていけない」
「1人置いてったろ?」
「そ、それは……もう既にアウルベアーに殺されていて……俺達にはどうにもできず、逃げるだけで必死になって」
ちゃんと死んだって、確めたのか? また言ってやろうとした所で、ジジイが俺の肩を触った。
「なんだよ」
「傷の手当はした。深い傷だが、女性は背中……ソファーにいる男性は、肩と腕をやられていた。気が付けば、歩く事位はできると思う。少しすれば目を開くかもしれん。じゃから少しここで休憩していこう」
「ッチ! 早く目的地に到着して用を済ませて、拠点に戻りたいのによ!! まったく!!」
「まあまあ。確かに拠点にいる椎名君や秋山君、未玖ちゃん達の事は心配だが、もしも彼等がここにいたらどう行動するかの?」
ジジイはそう言って、ニヤリと笑った。
くっそ、ちくしょ!! そんなの、椎名や翔太なら、助けるだろうな! でももう、どうでもいい。そんな事よりも、本当にこの小屋の外にアウルベアーはいるのか? さっき外を歩いている時は、気づかなかったが……
窓に近寄り、外の様子を見てみた。




