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Phase.452 『闇と霧 その3』



 霧と夜露で湿った森の中を歩く。


 もとの世界でも、こういう場所はあるのだろうかと考える。だが直ぐにそんな事はどうだっていい事だって思った。なぜなら俺達は、ビバークをしていた所をデカい鼠に襲われたからだ。殺されて、喰われるかもしれなかった。


 その後、直ぐにこの場から移動するとジジイが言ったので、ひとまず従った。その理由については、歩きながらに話すという。


「あの鼠は、ベアラットという魔物じゃ」

「ベアラット……なるほど、道理でデカい熊みたいな鼠だと思ったぜ。でもあんなに急いで、あの場から逃げるように先を急ぐ必要はあったのか? 腹に銃弾をお見舞いしてやったし、慌てて逃げてったろ。これに懲りて、もう襲ってこないんじゃないのか?」

「ふむ。普通の動物ならそうかもしれんが、あれは儂らの常識を超えとるバケモンじゃ」

「魔物と言ったり、バケモンと言ったり」

「どっちもあっとるだろ?」

「そうだな、それで――」

「あいつらは、一見熊のようなシルエットをしているが、その実やはり鼠の魔物なんじゃ」

「は? 解るように言え」

「つまりあれ1匹と考えるのは、あさはかという事じゃ」

「群れでいるって事か」

「通常はそうじゃな。儂が以前に襲われた時、起きたら既に何匹ものベアラットに囲まれておった。しかし儂は、散弾銃を撃ちまくった。弾切れになったら、ハンドガンじゃ。そしてビバークした近くに、もとの世界へ転移できる女神像がたまたまあったのも運がついておった。だがもしあの時、死に物狂いで銃を乱射しておらず、近くに女神像がなかったら完全に儂は、奴らベアラットの餌になっていただろうな」


 ベアラットの群れ。確かに鼠算とか言ったりするし、鼠は1匹見たら10匹はいるとかいう言葉もある。あれを何十匹も相手にするとなると、無謀極まりないだろう。生き延びるなら、逃げるしかない。


「なるほど。だからあのベアラットを追い払った後に、直ぐにその場からこうして移動したのか」

「そうじゃな。あいつはハグレ者かもしれん。1匹でいて、たまたま儂らを見つけた。儂らは、干し肉など持っていたからそういうののニオイにつられてきたのかもしれん」

「干し肉は、ニオイもあるし解る。だが缶詰は、ニオイなどしないぞ。密封されている。なのに、なぜやられた?」

「それを言うなら、現実世界だって未開封のジャガチップスを鼠が食い破って貪っていたのを見た事がある。あやつらは、これが食い物だって本能で解るんじゃろ」

「凄まじいな」


 木々の感覚が、次第に広くなってきた。森というよりは、林に近い景色に変わる。このまま行けば、森の向こう……外側の世界に出るかもしれない。


「ジジイ、まだ距離はあるんだよな」

「ある。だから気合を入れていけよ、鈴森君」

「道はどうなんだ? この霧だし、ちゃんと解ってあるいているんだろうな」

「大丈夫。霧も晴れる」


 何処からそんな自信が出てくるんだ。その根拠は? だがこのジジイは、椎名と出会うまでは、ずっとこの異世界を歩き回って冒険していたんだ。もしかしたら、それが自信の根拠かもしれない。そう考えると、妙に納得してしまった。


 デカい鼠に襲われて、ビバークした時点からまた移動を始めて3時間程が経っていた。辺りにある木々の感覚も遠くなり、草の茂みも少なくなって逆に岩などが目立つようになってきた。でも山岳地帯にあるような岩ではない。苔むしていて、じめっとしている。


「頑張れ、鈴森君。もう間もなくの所に池があったはずじゃ。そこでまた一旦休憩を入れよう」

「池……その池は大丈夫なんだろうな」

「それは解らん。でもその池の辺りで、儂は何度か休憩した事はある」

「なるほど。その周辺は、危険な魔物はいないのか」

「それも解らん。おそらくいるじゃろな」

「いるのかよ!!」


 うっかりと突っ込んでしまった。ジジイは、そんなうっかりしてしまった俺に笑顔を向ける。なんとなくそれが、ジジイにしてやられた気分になった。なぜなら、考えてみればおかしな質問をしてしまっていたと気づいたからだ。この異世界に、完璧な安全が約束された場所などあるはずがない。


「まあ、過去の経験から言うと、そこで何かに遭遇した記憶はない。じゃから、まあ大丈夫かのって話じゃ。いずれにしても、拠点から出れば何処も危険地帯には変わりないからの」

「まあ、そりゃそうだ」


 会話をしつつも、目だけはきょろきょろと辺りをくまなく見回していた。何か獰猛な魔物と遭遇した場合、相手よりも先に発見できるかどうかでその後の展開がかなり違ってくる。生死が関わっている状況なら、尚更だ。


 あれだけ真っ白に包まれていたのに、完全に霧が晴れてきた。木々の合間から、大きな池が見えた。俺は指をさした。


「おい、池だ!! 池田だぞ、ジジイ。あれじゃねーのか?」

「ふむ、そうじゃな。どうやら、着いたようだ」


 ジジイが先頭になって、池の方に向かう。その時にジジイの右足を見た。その辺で拾った棒を杖代わりにして歩いてはいるが……大丈夫そうだ。応急処置もしているし、出血しているようにも見えない。もしあのデカい鼠の魔物に骨まで齧られていたら、今頃激痛で歩く事だってできなかっただろうしな。


 池まで行くと、ジジイは「どっこらせ」と言ってその近くにあった石の上に腰を下ろした。俺は池の中を覗き込む。鰐みたいなのとか、何かおっかねえものが出てこないだろうか警戒を強める。


「それじゃ、少しここで休もう」

「具体的には?」

「そうじゃな。15分位か」

「解った」


 ジジイは、胸ポケットから煙草を取り出すと、それを咥えて火を点けた。煙草の箱を俺の方へ差し出してきたので、俺も1本もらって咥える。するとジジイが火を点けてくれた。


 少し、ここで休憩だな。


 ふう……それにしても、拠点の外に出たらもっと余裕みたいなのが無くなると思っていたんだが……意外と普通だな。なぜだ?


 そんな疑問を頭に浮かべながらも、もらった煙草を吹かす。


…………そうか、なるほどな。もしかしたら、ベテランが一緒にいるから、思ったよりも余裕なのかもしれねーな。

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