Phase.450 『闇と霧 その1』
ガサガサ……
ガサガサガサ……
ガサ……
ガサガサガサ……
なんだよ、なんだ? 何かの音で目覚めた。
寒い!! とんでもなく寒い!! 体感的に俺がそう感じているだけで、それ程じゃないかもしれねーが、寒冷地にいるみたいに全身に寒気を感じた。こんなにも寒くなるなんて……身体は起こさずに目だけ動かして確認すると、焚火はすっかりと消えてしまっていた。
「ジジイは……」
少し離れた所に、こんもりした影が見える。何しろ辺りはまだ暗いし、霧が発生しまくっていて状況がよく解らない。でもあのこんもりした横長の奴は、ジジイで間違えないはずだ。
寒すぎるし、小便もしたい。このままもう一度眠るのは、無理だ。とりあえず身体を起こそうとした。するとまた何処かで音がした。
ガサガサガサ……
「な、なんだよ。なんか、嫌がるな」
バっと身を起こした途端、何かに襲い掛かられる可能性もある。俺は近くで不気味な音を出している何かを確認する為に、そのまま横になった体勢のままキョロキョロと忙しく目玉を動かして、それがなんなのか突き止めようとした。
闇と霧が濃い中で、何かがいるのは間違いがない。
ゆっくりと腕を動かして、とりあえず肌身離さず持っていた銃を握った。
「ちくしょー。何かいるが、なんなんだ? 今まだ襲われてねーって事は、人間を襲うような奴じゃねーのか? いや、魔物かどうかもこの霧じゃ解らねーぞ。くそっ」
ジジイに再び目をやる。寝ているようには見えるが……さっきからまったく動いてないようにも見える。
ま、まさか、もう何かに襲われて殺されちまっているんじゃねーだろーな。くそっ、もしそーなっちまっていたら、どうする? ジジイを慕っている椎名や未玖に、俺はなんて説明すればいい。あいつらは、俺みたいな奴を信じてジジイの護衛を任せてくれたってのに……
いや、ジジイだけでなく俺だって、このまま拠点に帰れるか解らねー。もし今ゴソゴソなんかしている理由が、ジジイの脳みそとかそんなんを食ってるからだとか……食い終わったら間違いなく次は、俺を食糧にしようとしてくるはずだ。
いや、まて考えろ。ジジイがもし既に殺されていたとしたら、きっとジジイも抵抗しただろうし、そうなったらいくらなんでも俺だって起きたはず。
…………
ガサガサガサ……
ちくしょー! なんなんだ、いったい! 襲ってくる奴なのか? 襲ってくる奴だったとして、勝つ事ができる奴なのか。
確認しようとしても、このまま横になっていたらシルエットすら見えねー。やっぱり、起き上がるしかない。
「ちきしょー、こなったら仕方ない。こっちは銃があるんだ。その気になったら、ぶっ殺せる相手だと信じて動くしかねーな。よし、やっと覚悟ができたぜ」
囁くような声で自分に言い聞かす。今、自分の口で言ったように、迷いを捨てて覚悟をする為に。
やるかやられるかって時に、恐怖や動揺で身体がすくんでいたら、助かるものもそうでなくなってしまうかもしれない。だから尚更だ。
ゆっくりと身体を傾けて、そのまま上体を起こす。片手には、銃を握ったままだ。
ガサガサガサ……
確かに音はする。向こうだ。暗さと霧で何も見えないが、向こうから音はしている。
「いや、待てよ……そうだ」
懐中電灯を手に取ろうとした。何かいるなら、それをバッと点けてやればシルエット位見えるかもしれないし、その近くにいる何かもライトを浴びせれば怯むか逃げるかするかもしれない。
「ここだ、ここに懐中電灯が……」
それが入っている俺のザック。近くに置いてあったはずだが、手を伸ばしてもそこには無かった。なんだ? 何処へ行った。
近くに見える。ザックが置いてあった場所から、そう離れていない場所。缶詰?
目立たないように、ゆっくり中腰で立ち上がると音をできるだけ立てないように、地面に転がっているそれが何かを確認しに近づく。
「なっ、缶詰? しかもこれは、俺がザックに入れていた缶詰だ。見覚えがある。しかも潰されて中身が飛び出している……」
ガサガサ……ガ!
目を覚ましてからずっと、何処かから聞こえてきていた不可解な音。その音が急にピタリと止まった。もしかして俺に気づいたのかもしれない。手に取った缶詰をそっと地面に置き、両手で銃をしっかりと握った。
「くっ……」
キーーーーーッ!!!!
つんざくような何かの鳴き声に、耳を塞ぎそうになった。でもしっかりと銃を握って、霧の中へと向ける。間違えない。何かやばい奴が近くにいやがる。しかも俺に気づいたから、直ぐにでも襲い掛かってくるぞ!! 鳴き声からしても、大きい奴だと察した。
「な、なんじゃ!! どうした? 鈴森君、大丈夫か!! うわああああ!!」
「ジジイ!!!!」
ジジイは寝ていただけで、無事だった。そう思った瞬間、何かがジジイを襲った。霧の中に見えるシルエットを見て、驚愕する。熊!? 熊のようにデカイ奴が、目を覚まして叫んだジジイに襲い掛かっていた。
ズドーーーン!!
銃声。ジジイは散弾銃を発砲した。だが襲われていて、しっかりと狙えない。俺は同士討ちを恐れて銃を再び腰に差すと、焚火の近くに置いていた鉈を手に取り、その熊みたいな奴に向かって行った。
「うおおおおお!!」
キキーーーー!!!!
「ぐわあああっ!! 足を噛まれたあああ!!」
「ジジイ、耐えろ!! 今助けてやるからなあああ!! このバケモノめ、こっちを向きやがれ!!」
ザクウウッ!!




