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Phase.45 『鶏? その1』



 午後――未玖にログアップの実の種とレッドベリー、それに加えて長野さんから頂いたアルミラージの角の粉末を渡して、拠点内の何処かいい場所にそれらの木を生やしてきて欲しいと頼んだ。未玖は大役だと目を丸くした。


 フフフ、これで危険な森にわさわざ出歩かなくても、いつでもログアップの実とレッドベリーを食べる事ができるという訳だ。


 一歩一歩、この場所が俺達の為の理想の楽園になっていく。それを考えると楽しみで仕方がない。


 俺の方は、お手製の槍を手にして拠点を囲む柵の周りを歩いて見て回っていた。


 柵は長野さんと一緒に拡大させると共に、更に魔物が侵入できないように強固にした。だが絶対はない。ちょいちょい見て回らないと、何か異常があった場合に取り返しのつかない事になるかもしれない。俺は、子供の頃から他の子達に比べて用心深い性格の方だった。


 柵を見て回るついでに森の方へも目を向ける。当然、異常がないかの確認だ。できる事なら早めに有刺鉄線も柵の外側に張り巡らせたい。そうすれば、更に安全になるのは間違いがない。


 そんな事を一人で考えて歩いて見て回っていると、森の方で何かが動いているのを見つけた。栗鼠や兎じゃない。もう少し大きい。


 !!


「あれは……あのシルエット、もしかして……」


 外に出るべきか悩んだが、好奇心が打ち勝ってしまった。俺は柵を抜けて拠点から外に出ると、その生物のいる森へ向かってそろりそろりと歩き出した。


「そろり、そろり……そろり、そろり……」


 小さく呟きながら近づいていく。周りを見回してみたが、他に危険な何かはいないようだ。身を屈めて5メートル位の距離まで近づくとやっぱりそれが、俺の知っている生物に非常によく似ているものだったと確信した。


 ――(にわとり)!! 野生の鶏⁉


 別にそういう知識なんてないし、詳しくないので定かではないけれど、鶏って豚と同じく家畜として人間に作られた動物だった気がする。つまり、野生の鶏なんて存在しないはず。


 しかしそれは、あくまでももとの世界での話だ。異世界では、野生の鶏がいるのかもしれない。もしくは、野生化した鶏。何処かで家畜だった鶏が逃げ出したかなんかで野生化したもの。そのどちらかだって考えられる。


 森に足を踏み入れて、草場からそのまま身を低くして2メートルの距離まで近づく。なのに鶏はまだ俺には気づいていない様子。いや、もしかしたら気づいているけど気づいていないというふりをしている可能性もある……


 あれ?


 この距離まで近づいてある事に気づく。足が……鶏の足が鶏のものではない。異様。蜥蜴のような足……しかし本来の鶏のもののように細い。そして、尻の方には蜥蜴の尻尾もついている。


 …………待て待て待て、待てよ! これはもしかして、あれじゃないのか!! 異世界系のゲームやアニメなんかでも登場する、あの途轍もなく危険な魔物!! 


 ――コカトリス!! 


 だとすれば、これは大変だぞ!! 


 コカトリスの特徴は、ゲームやアニメなんかではそれぞれだ。しかし共通する特徴の中に、鶏のフォルムにドラゴンや蛇なんかの身体の一部が備わっている。見れば見る程コカトリスなのだと確信してきた。コカトリスの恐ろしいその特性は、石化攻撃。メデューサのように敵を石にする。


 ガサッ!


 コケッ⁉


 しまった、気づかれた!! 石になりたくない!! 嫌だ、こんな所で!! 

 

「う、うわああああ!!」


 コカトリスに気づかれた瞬間、俺は思い切り振り返り全速力で走って逃げた。無我夢中で森から出て草場を走り拠点の中へと逃げ込む。


「ぜえ……ぜえ……ぜえ……はあ、はあ、はあ。た、助かったのか……?」


 柵の内側に避難すると、へたり込む。慌てて石化してしまっている部分が無いか、自分の身体を確認して見て回った。


 うん、大丈夫だ。どうやら石化はしていない。コカトリスとも一瞬目があった。つまり『異世界(アストリア)』のコカトリスは、メデューサのようにその瞳を見るだけで石化すると言った能力はないようだ。


 すると考えられるのは、口から石化ガスを吐くとか嘴や爪で攻撃されると石化する――そんな感じか。どちらにせよ、直ぐに走って逃げて良かった。


 もしも石化していたらと思うとゾッとする。こんな所で石化するというのは即死するという事と同じだ。


「ゆきひろさん!」


 俺の悲鳴が聞こえたのか、こっちへ未玖が駈けてきた。


「未玖!」

「い、今、ゆきひろさんの悲鳴が……何かあったのですか?」

「魔物だ!! 直ぐ近く、森にコカトリスが出現したんだ!! まさか、こんな俺達の拠点の近くにあんなおっかい魔物が出没するなんて思いもしなかったよ。かなり、危険だ。あのままにしていてもいいのかどうか」


 すると未玖は、何か思い出したのか続けて言った。


「コカトリス?」

「ああ、コカトリス。ゲームとかで登場する、割と有名な魔物なんだけどな。未玖は知らないか?」

「い、いえ。コカトリスは知っていますが……ゆきひろさんが今、森で見たっていうコカトリスはどんな感じでした?」

「ど、どんな感じって……」


 俺は先程見たコカトリスの特徴を、未玖に話して聞かせた。それは必要な事。この周囲にコカトリスがいるとすれば、未玖にも十分に警戒して欲しいからだ。もしも石化させられたら、取り返しがつかない。


 しかし俺の見たコカトリスの特徴を未玖に伝えると、未玖は片手で口元を抑えて身体を揺らし始めた。


 え? 笑っている? なんで?


「な、なにが面白い? コカトリスは危険なんだぞ! ちゃんと真剣に……」

「いえ、すいません。コカトリスは危険なんだと思います」

「え? それじゃなんで笑って……」

「だって、ゆきひろさんが見たそれは、コカトリスじゃなくて……フフフフ……コケトリスですから」

「へ? なんだって? ……コケ……コケトリス?」


 その言葉で俺は一瞬、何が何だか解らなくなった。だじゃれ? え?


 ……つまり、コケトリスはコケトリスであって、コカトリスではないと? そういうこと? 


 未玖が笑った事から考えても、もしかしてそれ程脅威ではない魔物なのでは……それに気づいた俺は膝から崩れ落ちると共に内心ホッとした。


 それにしても、コケトリスって……

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