Phase.449 『ニートと老兵 その6』
「儂もベテランと呼ばれたりはしているが、この世界に初めて来た以前の話じゃ。それを噂で聞いたんじゃ。本当かどうかは定かではないので、言うべきか判断に困っていたんじゃがな」
「これから会いに行く奴と会ったら、その話をするだろうから話した訳か」
ジジイは、こくりと頷いた。
「誰一人も生き残りはいないのか?」
「そうらしいという話じゃよ。誰も解らんのじゃ」
「ならその話が本当だとして、未玖とかもとの世界に戻れねー奴らはどうなるんだ?」
「それも解らん。じゃが、儂はこの世界に残る事にした。そうすれば、今は解らんでもこれから真相を確かめる事はできるという訳じゃ。もちろん何かあったとしても、儂も椎名君達と共に戦う。未玖ちゃんだって、守ってみせる」
「そんなのは、決まってんだよ。未玖はまだガキンチョだからな。誰かが守ってやらねーとだし。まあ、あんたの考えが解ったよ。だから備えとして、その武器商人をうちの拠点に連れ帰りたいって訳か。ここまでして、そいつに会いたい理由がようやく納得できた感じだ」
「まあ、それもあるし、奴から何か有益な情報を手に入れる事ができるかもしれないからの。儂らの拠点に来てくれれば、強い味方になってくれるじゃろーし、それを考えれば会いに行く意味はあると思う訳じゃ」
「なるほどな」
そんな会話をしつつも食事をとり終える。するとジジイは、焚火に薪をこれでもかと足して火を絶やさないようにすると、ウロウロとその周りを徘徊して、自分の寝場所を決めた。
「それじゃ、寝ようか。この世界の夜は危険じゃから、夜間行動はなるだけせん方がいい。朝早く起きて、行動開始しよう」
「ああ」
チラリと見ると、ジジイは自分のザックからレジャーシートみたいなのを取り出すと、ゴソゴソと何か始める。なんだ、タープか? タープなら屋根にするつもりだろう。そう思ったが、違った。やはりそれはタープではなく、大きめのレジャーシート。それを身体に巻き付けて、横になったのだ。もしかして、寝袋の代わりか。
見ていると、ジジイが俺の目に気づいた。
「なんじゃ? もしかして鈴森君は、こういうものを持っておらんのか? 前にサバイバルがどうこう言っておったような気もするが……」
「うるせーな、クソジジイ!! 別に俺はそのまま横になれば寝れんだよ!! あんたなんかよりも適応能力って奴があるんだ!! そうだ、俺はこういう世界に憧れていたんだからな!! 夢にまで見た異世界なら、何処でだって安眠できるぜ!」
その場でゴロンと横になる。するとジジイは起き上がってまた自分のザックを漁った。そして新たに取り出したレジャーシートを俺に差し出してきた。
「いらねーよ!」
「おい、まあ待て! ここは意地を張る所じゃない。今は焚火もあるし、いいかもしれんが朝になるとかなり冷えるぞ」
「どうしてわかる? 汗ばむ朝だってあったはずだろ」
「それはそうじゃが、はっきり言って経験と感かの。なんとなく今の感じの空気とか、そういうので明日の朝は、きっと冷えるんじゃないかって思ったんじゃ。ほら、悪い事はいわんからこれを身体に巻いて寝なさい」
「……解ったよ。別にこんなもん無くたって寝れはするが、そこまで言うなら試しに使ってやるよ」
ジジイからレジャーシートを奪い取ると、それを身体に巻き付けて横になった。確かにこれがあるとないとじゃ、随分違うな。
「そうそう、鈴森君。銃は、直ぐに手の届く場所にな。寝ている間に魔物に喰われている。そんな事もあるからの」
「もしかしてあったのか?」
「あまり思い出したくないがの。強烈な痛みで目を覚ますと、儂の足に巨大な鼠が噛みついとったわい」
「…………」
俺は慌ててジジイから、顔を背けた。あぶねえ!! 思わず、ジジイがでかい鼠に噛みつかれている映像を思い浮かべて、笑ってしまいそうになった。
「……おい、もしかして今、笑ったのか?」
「うるせーよ。もう寝るんだろ?」
「そうじゃな。それでさっきの返事はどうなんじゃ?」
まったくいちいち小うるさいジジイだ。死んだ俺の爺さんも、こんな感じだった気がする。
俺は寝転がったまま、腰に差していた銃を手に取り、それをジジイに見せた。ジジイはそれを見て納得した。
「それじゃ、鈴森君。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
静かな夜だった。とても狂暴な魔物がいる世界には思えないような、穏やかなしっとりとした夜。目を閉じると、パチパチと焚火の音がしていた。それが心地良くて、眠気を誘う。
何かあったら、眠っていても直ぐに飛び起きて対応しなければならない。そう思いつつも、どんどん意識は遠くなっていく。気が付けば俺は、深い眠りについていた。
拠点の外の世界。そこで俺は、ぐっすりと眠っている。ほら見ろ。俺はこんな危険な場所でも眠る事ができるんだ。余裕だよ。余裕で、ジジイの目的を達成させて翔太や椎名が待つ拠点へ戻る。
ジジイの面倒を見ろと言ってきたのは、椎名だった。でもあいつの顔。確かに俺の事を心配してくれていた。翔太や未玖もだ。ははは、まさかこの俺に何かあると思っているのか。
何もない。あったとしても、俺には銃がある。銃があれば大抵の事はできるんだ。まあ、待っていろ。直ぐに……戻ってく……る……




