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Phase.443 『戻ってこい』



 南エリアから草原エリアに戻ると、それぞれ皆のいるエリアを回った。


 いよいよ、明後日だ。もとの世界に戻れる者には、今日明日のうちに準備をしておくことと言って回った。


 翔太が、「準備ってなんだよ」って言ってきたので、もとの世界で住んでいるなら、家の家賃とか色々あんだろと言ってやった。翔太は、はっとして「そうだった!」と言っていた。まったく、あいつ解ってんのかと不安になる。


 佐竹兄と岩城さんのもとにも行った。2人は草原エリアでテントを張って、いい感じの自分達の居場所を作っていた。


「よっ」

「お! 椎名君か!」

「我らがリーダーのご登場じゃないか!」


 岩城さんの言葉に苦笑い。だってご登場も何も、ここは俺達の拠点なんだから登場して当たり前だろって。


「いよいよ明後日だけど……佐竹さんも岩城さんも、この世界に残るのか?」


 2人は、揃って頷いた。その表情には一遍の曇りもない。クランの全員には、転移サービスの休止が始ったら予定通りには終わらないし、過去にこっちの世界に残った者は皆消息不明になっているという話もしている。だけど誰も、もとの世界に残りたいという者はいなかった。この2人も、とうに覚悟はできている。そういう顔だった。


「もちろん、俺も岩城もこっちに残るぜ」

「暫くは、もとの世界へ戻れないぞ」

「へへ、そんなのアレだよな、アレ。望むところだよ。俺は弟の仇を討たなくちゃならねーんだ。あの豚野郎を見つけ出して、ぶっ殺してやる。なあ、岩城」

「もちろんだ。お前の弟の仇は、小貫も含めて俺達で必ずとるんだよ」

「そうか。でも佐竹さんも岩城さんも、これで小貫さん同様に俺達のクランの一員になったんだからな。弟さんの仇を目の前にしても、絶対に自分達だけでやろうとはしないでくれ。俺だって佐竹さんの仇は討ちたいんだ」

「心配しなくたって、解ってるって」

「ならいいけど」


 岩城さんは兎も角、どーも佐竹兄は信頼できない。いや、人間としては、弟の佐竹さん同様に信頼できる人だと思っている。だけど見るからに頭に血が昇ったら周りが見えなくなりそうな人だし、あの佐竹さん、戸村さん、須田さんの命を奪った大型のブルボアを見つけたら、自分達だけで突っ込んで行きそうな気がした。


 草原エリアで佐竹さん、岩城さんと会話をし終えると、俺はそのままエリアの北側に向かった。そとの世界との境界線、バリケードの設置してある辺りまで行き、俺は遠くを見渡した。以前、かなりデカいウルフ系の魔物が出現した方。


 今は誰も……何もいない……


 いよいよ明後日、来るべき日を迎えるにあたって俺はもう一つ気がかりな事があった。


 そう……旅立ったまま、もう何日も戻ってこない鈴森と長野さんの事だった。


 長野さんは、知り合いに会うと言って出て行った。その人が頼りになる人なのかどうかは、俺は解らない。でも長野さんは、頼りになると判断したのだろう。それにその人は、この『異世界(アストリア)』で銃など武器を売っている人だとも言っていた。


 長野さんは、俺達が来たるべき日がやってきたら、この世界に残ると早々から解っていたみたいだった。それもそうだった。この世界には、未玖がいる。最初は俺だけで、その次に未玖と出会い長野さんと出会った。だから長野さんは、俺が未玖をこの世界に残して自分だけもとの世界で、再び転移サービスの復旧が終わるまで待つなんて思ってもいなかったのだろう。


「ふう……今日も人影はなし……いよいよ、明後日なんだぞ。鈴森も長野さんも、そろそろいい加減に帰ってきてくれよな。転移できなくなる前に、もとの世界でやっとかなくっちゃならない事だってあるだろーが」


 独り言だった。


 翔太も明るくは振る舞っているけれど、鈴森を心配している。未玖だってそうだった。長野さんが未だに帰ってこないから、心配をしている。


 …………最初、長野さんは一人でその知り合いに会いに行くと言った。だけどそれじゃ心配だからって、俺が鈴森について行かせたんだ。


 この世界は、とても危険なのに……行かせてしまった。もしも2人に何かあったら……


「いやっ!! 違う!! あの鈴森と長野さんだぞ!! 絶対ここへ帰ってくるに決まっている!! 大丈夫だ!」


 転移できなくなるまで、後2日。お願いだから早く帰ってきて、俺や翔太や未玖を安心させてくれ。心から願う。祈る。


 無性にあの2人に会いたくなって、どうしようもなくなった。その時、草原エリアを誰かがこっちに向かって駆けてくるのが見えた。


 誰だ? 誰がこっちに駆けてきているんだ?


「おおーーーい!! ユキーーー!! 大変だああああ!! ちょっと、こっちに来てくれえええ!!」

 

 あれ? 翔太だった。翔太はかなり焦っている様子で、片手を振りながらもこっちへ迫ってくる。


「どうした!! 何かあったのか⁉」

「はあ、はあ、はあ……いや、あのなーー!! 大事件だ!! 直ぐに羊の住処エリアに来てくれ!!」

「だから、何があったんだよ!!」

「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ!! いや、そのなんだ?」

「だからなんなんだよ!!」

「そうだ!! 聞いてくれ、戻ってきたんだよ!!」

「はあ? 戻って来たって誰が戻って来たんだよ……」


 自分でそう言って、はっとした。戻ってきた? 戻ってくるって誰が戻ってくるんだ? そんなの決まっている。戻ってくるのなんて――まさか!!!!


 俺は翔太と共に、全力で羊の住処エリアへ向けて走った。

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