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Phase.439 『松戸店 その2』



 来るべき日の事……それについてミケさんに聞いてみたけれど……


「あーー、そっかーー。気になるよねーー。だってその期間中って、転移が一切できなくなるもんね。でも美幸や良継君は、メンテナンスが終わるまで暫く我慢しているんでしょ。でもそれが一番オヌヌメだよ。ミケさんのおぬぬめー。だって一応予定では、3週間から1カ月って話ではあるけど、ぶっちゃけ過去にもっとかかったって話もあるし」

「え? 1カ月で終わらないなんてこともあるの?」

「そりゃそうだよ。予定は未定だからね。しかも運営からは、その期間中とメンテ明け直後の月は、会費も一切無料って公言しているしね。文句は言えないよねー。でもいいじゃない。その間ちょっと我慢すれば、またあっちの世界には、入り浸れるんだしねー。うんうん」


 僕は美幸さんを見た。美幸さんも同じタイミングで僕を見たので、目が合う。そのまま暫く見つめ合ってしまった。そう、ミケさんが勘違いしている事について、お互いに考えていたから。僕達のリアクションを見て、ミケさんも何かを感じ取ったようだった。


「あれ? 嘘!! 嘘だよね。まさかだけど……まさか、美幸も良継君もあっちの世界に残ったりはしないよね。もしあっちの世界に残ったりなんかしたら……」

「したら?」


 僕達がまさかと思う事を決断したからなのか、ミケさんが信じられないというような、予想以上に驚いた顔をした。美幸さんは、そこに突っ込んだ。


「えっと……私は解らない。だって、以前メンテがあったのって随分前の話だし、その頃はほら……ミケさん、まだこの会社に就職していなかったから」


 就職? ミケさんは、アルバイトではないのか。でも考えてみれば、異世界へ行ける転移アプリを売っている仕事。確かにこんな内容の仕事、アルバイトにはとても任せられないだろう。美幸さんは、更にミケさんに聞いた。


「ミケさんの知っている事で、何かない?」

「解んないよー! ミケさんだって、美幸や良継君に運営からメールで送られてきたお知らせ程度の内容しか、聞かされてないんだもん」


 ミケさんは、本当に困った顔でそう言った。できればミケさんを困らせたくない。色々と情報を聞き出さなくちゃいけないのに、僕はもうこの話を終わらせて引き返してもいいんじゃないかなって思い始めていた。女の子って、どう接していいのか解らないし……


 美幸さんは、頑張ってそれでもミケさんから何か有益な情報を引き出せないかと頑張っていた。


 だけど、やっぱり駄目だった。僕と美幸さんは、ミケさんに突っ込んだ事を聞いてごめんなさいと謝ると、また来ると言ってお店を出た。その時のミケさんの顔には、元気な笑顔が戻っていた。そして「まったきってニャーーン!」って、言っていたけれど……僕にはミケさんが、無理をしてそういう元気のある感じに振る舞っているようにも見えた。


「それじゃ、ヨッシー。戻ろうよ。情報は何も手に入らなかったけど、こないとそれすら解らないもんね。一度家に帰ってから、あっちの世界へ戻ろうよ」

「はい、そうですね」


 美幸さんと仲良く駅に向かって歩いていた。


 駅近くまで来ると、後ろから誰かに呼び止められた。


「ま、待ってーーー!! はあ、やーーっと追いついた」


 振り返ると、なんとそこにはミケさんがいた。お店のメイド服の上に、上着を羽織っている。僕と美幸さんは、彼女が僕達の後を汗だくになって急いで追いかけてきたことに驚いた。


『ミケさん!!』

「エッヘッヘー。追いかけてきちゃったー。それはそうと、2人共まだ時間あるかな?」


 どう答えればいいんだろう。美幸さんの顔を見た。すると僕の代わりに美幸さんが答えてくれた。


「それはもちろん大丈夫だけど……でも、どうして?」

「そりゃあれだよ。ミケさんは、美幸の事も良継君の事もみーんなの事を心配しているからだよ」

「……え? それって……」

「お店じゃ、他の子もいるから、ああ言うしかなかったの。でも私が末端にいる事も本当の事だから、運営内部の人間じゃないし、ほとんどの事は知らない。知りたいと思っても知れないし、知ろうとすればよくてクビかな。だから、答えられないことだらけだと思う。でも私なりに気になっている事はあるから、それは伝えておきたくて……」

「ミケさん……」

「だってメンテの期間中、どうやったってあなた達は、向こうの世界に留まるんでしょ? だったらそれは日曜日からだから、まだ考えなおしてって説得したら間に合う……と言っても、もう決めちゃったんでしょ?」

「うん。ミケさんが、私達を心配してくれているのは嬉しい。だけど海もそうだし、私達の仲間は皆向こうの世界に残るの。私やここにいるヨッシーもそうだし、結果がどうなろうと、皆と一緒にあっちの世界に残りたい」

「うみゅーーん。やっぱり決意は本物だったかー。じゃあこれ以上、引き留めても無駄無駄無駄って事でしょー。だったら、そうだね」


 ミケさんは、駅前近くの喫茶店を指さした。


「あそこ。あの喫茶店で、ミケさんともう少しお話しない?」

「ミケさんは、大丈夫なの? お仕事中だったみたいだし」

「気にしない気にしない。丁度、食事休憩だったしー。それじゃ、お店に入ろうか」


 まさか、ミケさんと一緒に喫茶店に入るなんて思いもしなかった。この展開を知ったら、小早川なんかは狂ったように怒り狂うんじゃないかと思った。だってあいつは、大のミケさんファンだし。


 でもそうじゃない。やましい事なんて、何もない。僕は今、美幸さんと来るべき日の為に、少しでも情報を集めておこうと思ってこうしてミケさんに会いに来たんだ。


 ミケさんは、いい人だと思った。それを解っているだけに、運営側の彼女にあれこれ聞いたりなんかして、迷惑をかけてしまうような事にならないだろうかと、一瞬不安になった。

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