Phase.438 『松戸店 その1』(▼大谷良継)
千葉県松戸市。千葉県だけど、東京寄りにあって、東京からは簡単に行ける場所にある。その松戸駅に、僕は美幸さんと2人でやってきていた。
って言っても、僕の暮らしている街はこの松戸駅だった。美幸さんは、東京都民だけど最初にこの街にある『アストリア』カフェを知って、ここへ来て転移アプリを手に入れたらしい。
その時に担当してくれたのが、メイドカフェ『アストリア』で働いているメイドさんのミケさんだった。小早川やカイは、ミケさんの大ファンだった。とても可愛い人で、僕は彼女に会った時にも、恥ずかしくてまともに目を合わせる事もままならなかった。そんなミケさんの事を、美幸さんと海さんも知っていると聞いた時は驚いた。同じ人を通じて、『異世界』の存在を知ったのだから。
松戸駅で待ち合わせる。待ち合わせ時間の30分前には、僕は来てしまっていた。だけど美幸さんも15分前には僕の目の前に現れた。いつもあっちの世界では、動きやすい服を着ているけれど、今日はスカートをはいているし、とても女の子らしい姿だった。
美幸さんはとても綺麗な人だから、一緒にいてドキドキしてしまう。
「おーーっすう」
「お、お疲れ様です」
「なにそれ、ヨッシー、めっちゃウケる。それにしてもめちゃくちゃ早くない? 待たせたら悪いかなって早く来たつもりだったんだけど、ヨッシーもう来てるし」
「あ、僕も今来た所ですから」
「ふーん、そうなんだ。それじゃ、早速ミケさんのお店に行こうか」
「え? あ、はい。よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ」
美幸さんは、海さんと一緒なのはとうぜん解っているけれど、椎名さんや翔太さんとも同じ職場の同僚らしい。だからかもしれないけれど、あの4人は特に何か僕達とは別の更に固い絆のようなものがある感じもした。例えるなら、僕と小早川とカイみたいな関係なのだろうか。
美幸さんも海さんも、椎名さんも翔太さんもとてもいい人だった。クランのトップがこういう人達で、僕達はとても運が良かったと思う。十河君、小田君、門田君、蟻群君に茂山君。そして陣内君と成子君。皆とだって仲良くなれたのだって、椎名さん達が僕達を受け入れてくれたお陰だ。小早川やカイも、そう思っている。
「ヨッシーは、さあ」
「え? あ、はい!」
「ヨッシーって、松戸に住んでいるの?」
「は、はい! そうです! 僕は松戸市民です」
「へえ。カイ君やアッキーも?」
「そうですよ。門田君達もそうですね、同じ高校に通っていますから」
「そう言えばヨッシー達、最近もと不良グループと仲良いよね」
美幸さんは、クスクスと笑いながら言った。
「はい。特に仲がいいって言えば、和希やメリーもそうですね。皆で、羊の住処エリアでいつもいます」
「やっぱりそうだったんだ。最近、和希君見ないなーって思っていたら、そっちにいたんだね。そうなんだ、年齢もヨッシー達に近いし、気が合うんだね」
「はい、そうですね。最初はスタートエリアで住んでいたみたいですけど、羊の住処エリアに小屋みたいなのを作って、自分の荷物もそこへ運びこんでいますね」
「和希君って、向こうの世界に凄い興味があって、なんかそういうのの本とか読んでて、あと自分で何かこの世界で見つけたものとか記録しているノートを山ほど沢山持っていたでしょ」
「はい、凄い持っていました。だから僕達、スタートエリアから羊の住処エリアまで引っ越しを手伝ったんですよ」
「うんうん、皆友達思いなんだね」
「仲間ですから。も、もちろん、美幸さんも大切な仲間です」
「えーー、ありがとう! 私もヨッシーの事を大切に思ってるよ!」
そう言って腕に抱き着かれた。心臓が爆発しそうになった。美幸さんの今言った意味は、仲間とか友人とかそういう意味でいったはず。だけどまるで告白でもされたかのように、僕の心臓はドクドクと鼓動していた。だって仕方がないじゃないか。今まで、女の子とこういう会話をした事なんてないんだから。小早川やカイだって、きっとこうなる。ミケさん相手に緊張しまくっていたのを、見たし……まあ、それについては僕も同じなんだけど……
美幸さんとなんでもない会話を続けながらも商店街へと向かっていると、いつの間にメイドカフェのある場所に辿り着いていた。ここの2階に、ミケさんのいるお店がある。
「到着。それじゃ、中に入ろうか」
「は、はい!」
カランカランッ
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「お帰りなさいませ、お嬢様ー」
「お帰りなさいま……ニャッ、ニャーーー!! これは珍しい組み合わせだーーー!! に、にせんまんストロングパワーズだにゃ!!」
入店すると一斉にこちらを見て、お帰りなさいませご主人様と声をかけてくれるメイドさん達。その中で唯一1人だけ、僕らの姿を目で捉えるなり、物凄い勢いでこちらに駆けてきたメイドさんがいた。それはミケさんだった。ミケさんは凄い勢いでこちらに迫ってくると、なんとそのまま美幸さんに抱き着いた。
「美幸ーー!! いらっしゃーーーい!! それに良継君も、よく来てくれたねー」
「あははは、凄い勢いで抱き着いてくるね、ミケさん。それじゃ、こちらも遠慮しないでー。ガシッ!」
抱き合う2人。周囲にいるお客さん達が、抱き合う美女2人を見て、デレデレになっている。もちろん僕も例外ではなかった。2人の気が済むと、美幸さんから言った。
「今日は、ちょっとミケさんに会いに来たんだ」
「ふえーーそうなんだ! 美幸が大谷君とお友達だったことにも驚きだけど、このミケさんにも会いにきてくれたなんて、驚き展開満載だね。うんうん。それじゃ、奥の方の席が空いているから、そちらへご案内するね」
「よろしくお願いしまーーす」
「よ、よろしくお願いします」
ミケさんは、今度は僕の方を見た。とてもにこやかな笑顔。僕らは、ミケさんが案内してくれた席についた。




