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Phase.430 『ストロングバイソンの事』



 そう言えば、大谷君達と北上さん、大井さんは同じ千葉の松戸にあるお店で、転移アプリを入れていた。


 偶然にも同じ街の同じ店、しかも担当者まで同じでミケという名前の店員だったようだ。なので小早川君や有明君、モンタ達まで揃って大人数で行く必要もなく、大谷君と北上さんを代表として頼んだ。


 埼玉の大宮店の方は、成田さんと松倉君が担当。秋葉原は言うまでもなく俺と翔太で、トモマサは東京都中野店。ここに来て初めて皆が、転移アプリを利用するきっかけとなった店を知る事になったが、関東圏ばかりで、関西とか九州とか四国とかはいないのかと思った。


「おいらも、今日はもとの世界に戻って皆と同じように店に行って、何か有益な情報を手に入れられないか探ってくればいいかな?」

「いや、全員で行く事はないと思う。本当の事を言うと、あの『アストリア』ってメイドカフェのメイドさんが、これ以上何かサービス休止について、俺達が求めているような情報を教えてくれるとは思えないんだよな。それでも一応できる事はな」

「確かにその間は、会費無料とか言って物凄く誘ってきている反面、転移サービスは使えなくなるから気が進まなければ、『異世界(アストリア)』へ残らない方がいいって言ってんだもんなー。おいらには、運営の真意って奴が解らねーわ」


 誘っている? 言われてみれば、確かに運営の感じ……そういう風にもとれるなと思った。それならこの世界へ残ってやるとか、俺達みたいな連中は、他にもいるだろう。安藤さんに言われて初めて気づいた事。


「じゃあ、今日はおいらは何をすればいい?」

「そうだな。日曜からは、いよいよ完全にこっち一本の生活だ。だからもとの世界で何かやり残しがあるなら、それを済ませてきてもいい」

「やり残しって縁起でもない。でもそうだな。今日は別にいいかな」

「それじゃ、安藤さんに頼みたい事がある」

「ははは、あるんじゃないか。まて、解った。リバーサイドだな。昨日は小雪姫に会えなかったから、会いに行きたいって話か」

「それもそうなんだけど、俺はこれからもとの世界へ戻り、秋葉原に行ってくる。小雪姫の所へは、その後に行こう。それで安藤さんに頼みたい事っていうのはだな、馬車とそれを引くストロングバイソンの事だ」


 安藤さんは、驚いた顔をした。


「もしかして、あの馬車と牛を貸してくれって話か? それなら別に……」

「いや、そうじゃない。借りたいんじゃなくて、増やしたいんだ」

「増やす」

「ああ。馬車を……そうだな、あと2台くらいあるといいかもな。それとストロングバイソンは、念の為10頭位は手に入れたいな。幸い、草原エリアとか羊の住処エリアとか、牛を放牧したり飼う場所には困っていないしな」

「なるほど、いい考えだな。馬車を増やせば、それだけ移動や物資の運搬が便利になるし、牛を増やしておけばゾンビや魔物に襲われて喰われたりして失っても、代わりあるって事か」


 そういう事だった。馬車に乗って移動をした時、とても楽しかった。そして複数台あれば、それぞれで北の廃村やリバーサイドなんかへも徒歩よりかは遥かに安全に、しかも時間も短縮して移動できる。一度に大人数で移動する時も、馬車が複数台連ねて行けばそれだけで移動できる人数も増える訳だ。


 ストロングバイソンもそうだ。農耕用の牛とか、馬車を引く以外にも使える。力の強いがっしりした牛だし、数がいても困らないはず。


 安藤さんは、腕を組んで唸った。


「それじゃーー、どうするかなー」

「馬車は兎も角、ストロングバイソンを安藤さんは何処で手に入れたんだ?」

「行商」

「行商?」

「ああ、そういう牛とか馬とか、捕まえて売っている奴らがいるんだ。おいらも今は、椎名さんのクランメンバーだが、仲間になる前はそんな行商の一人だった。この世界の武器や珍しいアイテムを集めて売る。そいつらとの違いは、牛か武器かの違いだな。それでおいらは、リバーサイドでたまたまストロングバイソンを引き連れている奴を見つけて、交渉して買ったんだ」

「なるほど。じゃあ、ストロングバイソンを入手するには、再びリバーサイドみたいな人の集まる拠点に行って、そこで探して買うか、もしくはそういう行商みたいに野生のストロングバイソンを見つけて捕まえるかという訳か」

「ストロングバイソンは、それほど狂暴ではないからな。気は優しいほうだ。生息場所さえみつければ、おいら達でもきっと捕まえられるな」

「どちらにするかだが……それは、安藤さんに任せてもいいかな?」

「おいらに? 解った。任せてくれ」


 馬車とそれを引く牛を増やす。これはもう、昨日馬車に乗っていた時にそうできたらいいなって閃いていた事。でも俺は、これから秋葉原に行ったりしなければならない。だからこの件を安藤さんに任せる事ができて良かったと思った。


 今日の予定が決まると、早速行動する為に一旦解散した。


 今からもとの世界へ戻る者や、もう少しここで何かしてそれから向かう者もいると思う。俺は前者で考えていたが、そう言えばと思って大井さんを呼び留めた。


「ちょっといいかな、大井さん」

「ユキ君」


 大井さんは、北上さんと一緒だったけれど、俺が大井さんを呼び留めると、北上さんは何かを察して先に行った。これから一緒に松戸にある店を訪ねるからか、大谷君に何か話しかけている。


「尾形さんの事は、凄くショックな出来事だった」

「ええ、そうね。残念だった」

「この世界はかなり危険で残酷だ。俺も皆もこの世界は、極めて危険だって解っていても一方で魅了されている。この世界を中心に、生きていきたいとまで思っている」

「私もそうだし、美幸もそう思っているわ」

「ああ、皆思いは同じ。でも死にたくはない。だから、今日は皆にちょっとでも何か他に見落としがないか、情報を集めに行ってもらった」


 大井さんは俺の目をじっと見た。


「解ったわ」

「え?」

「私にも何処かへ行って、情報を集めてきてほしいのね。それなら別に望むところよ。喜んで行く。でも松戸のミケさんの所には、美幸と良継君が行くって言っていたけれど」


 俺は大井さんの反応を目にして、クスっと笑ってしまった。流石は大井さんだなって。この人は、俺よりも年下だけど、俺なんかよりも遥かに頼りになる人だ。

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