Phase.43 『魔法の粉末』
昨日は、焼き魚に鹿の肉で焼肉と、豪勢に肉肉肉だったので、朝食は何かすっきりしたもので済ませたかった。もしくは蕎麦かうどん。でもそれだと今は、カップ麺しか持ってきていない。
どうしたものか……考えていると、昨日未玖と一緒に森に入って採取してきたものの事を思い出した。そう言えば、ベリーなど採ったけど魚にしか目がいっていなかった。
早速未玖に言って沢山採ってきたこの異世界の枇杷、ログアップの実とレッドベリー、水キノコをそれぞれ器に乗せて並べた。
それを見た長野さんは、声をあげる。それらが全て食べられる事は知っていたみたいだけれど、大量に採ってきていた事に対して驚いていた。
「ログアップの実は、儂も好物じゃ。しかし沢山採ってきたのお」
長野さんに経緯を話すと、長野さんは何やらくっくっくと笑い出した。
「え、どうしたんですか? 何か面白い事でもありました?」
長野さんの様子に俺と未玖が目を丸くしていると、長野さんは「すまんすまん」と言っておもむろに立ち上がると、自分のテントの方へ行き、荷物からペットボトルを取り出して戻ってきた。
「な、なんですか、それ?」
ペットボトルの中には、何か白い粉末が入れられている。何処かで集めた白い砂?
「いや、なに。そういえばいい事を思い出したから、教えてやろうと思ってな。今から椎名君と未玖ちゃんに魔法を見せてやろう」
『ま、魔法!!』
未玖と同時にハモってしまった! 未玖までもが魔法という言葉を聞いて身を乗り出した事に驚く。そう言えば、未玖ぐらいの女の子って魔法少女とか魔法が大好きな気がする。パリキュアとかセーラーサンシャインとか……未玖も例外ではないんだな。
「二人とも魔法の存在を信じるかの?」
未玖は何度も頷いている。
「もちろん信じますよ。だって転移してこの夢のような異世界を目にしていますからね。ゴブリンとか、スライムのようなファンタジーものの定番モンスターにも遭遇しましたし、魔法はまだ見た事はないですけど、あるというのなら今ならすんなりと信じられますし見たいです」
「はっはっは、そうかそうか。それじゃあ見せてやろう……っと言っても、別に儂が魔法使いという訳ではないんだがな。じゃがこれを見れば、魔法としか思えないだろう」
長野さんはそう言うといきなりなぜか、ログアップの実をムシャムシャと食べ始めた。いったいこれから長野さんは何を見せてくれようとしているのだろうか。そう思っていると、長野さんは口から何かを吐き出してそれを自分の手で受けた。
――ログアップの実の種。枇杷と同じような黒くて大きな種。
「それじゃ、何処がいいかな? よしあそこにしようかの。二人ともこっちへきてくれ」
長野さんは、自分の設営しているテントの直ぐ傍の地面をサイバイバルナイフで穴を掘り、そこへログアップの種を中へコロンと入れて土を被せた。そしてさっきの白い粉末の入ったペットボトルを手に持つと、種を植えた辺りにサラサラと粉を蒔いて水をかけた。
「え? これが魔法?」
「いいから、もう少し見ておれ」
ポコッ
長野さんがそう言って間もなく、地面から芽が元気よく飛び出してきた。しかも動画の早送りをしているみたいにぐんぐんと成長していく。その光景に俺も未玖も言葉を失いただただ凝視する。
するとその芽はどんどん急成長していき木になってしまった。木になった所で成長がピタリと止まった。
「え、え? ええええ!! こ、これは凄い!!」
「す、凄いです! 確かに魔法です!!」
「はっはっは、結構たっぷりと粉を使ったからの。一気に木にまで成長しよったわい。はっはっは」
「こ、この木はログアップの木ですよね! その粉末で急成長した……その粉末ってなんなんですか?」
まさに魔法の粉だと思った。長野さんは、にこりと笑うと未玖の方を指さした。未玖の服のポケット。
「え? なに?」
長野さんに指をさされた未玖。指のさした先の服のポケットからは白い角が見えていた。あれは未玖がこの異世界で手に入れたっていうアルミラージの角。まさか……
「そうじゃ。この粉はアルミラージの角を砕いて粉末状にしてペットボトルに入れておるものじゃ。アルミラージの角には、こういう【鑑定】では表記されておらぬ隠れた効果があるんじゃ」
アルミラージの角。そんなに凄い物だったとは……まさしく魔法だと思った。
「アルミラージは、草原で見かける事がある。儂もこの効果を発見した時に、もっと欲しくなっての。アルミラージを探して狩ろうとしたが……一度、反撃を喰らって死ぬと思った。この鋭利に尖った角で突進されて太腿を突かれ、もう少しで動脈をやられる所だったんじゃ。じゃから、もし見かけて狩るにしろ、十分に注意しないと命を失いかねんから気を付けてのう。ほら、これは君達にやろう」
長野さんはペットボトルに入ったアルミラージの角の粉末を俺にくれた。
「こんな貴重なもの、頂いても本当にいいんですか?」
「いいとも、いいとも。まだもう一つ持っておる。儂は今日、ここを旅立つ。それはまあ餞別じゃ」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
これがあれば、この拡大した土地に自分達の森を作る事だってできるし畑も容易にできるだろう。いや、正確にいうと畑自体を作る事は、容易ではないかもしれない。だけど場所を決めて石を取り除き土を耕して畑のベースさえ作ってしまえば、簡単に作物を作って収穫する事ができるなと思った。
アルミラージの角の粉末が入ったペットボトルを未玖に手渡すと、未玖は興味津々と言った感じで見つめていた。




