表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
427/466

Phase.427 『鋏 その2』



 もう少しであのデカい鋏に、片足を切断されるところだった。


 挟まれると思って、素早く足を引いたのだ。間一髪、ギャギンという、嫌な鋏の閉じる音。剣をしっかり握ると、ハサミムシの大きな鋏目がけて何度も振り下ろした。


 ガンガンガン!! ガン!!


 ギチギチ……キシャア!!


「今だ!! 大井さん!!」


 一瞬、何か言いかけたようだけど、俺の必死さがちゃんと伝わったのか、彼女は俺とこのデカいハサミムシの怪物を避けて、出口へと走った。よし、これで大井さんは無事だ。次は俺の番だな。


 キシャアアアア!!


 こんな金属製の本物の剣で、何度も上から思い切り叩かれたからか、ハサミムシは怒りを見せた。震えあがりそうになる程、気持ち悪い声で鳴き叫ぶ。俺を睨みつけた。俺は、持っていた剣を素早く鞘にしまうと、今度はすかさず腰に差していた銃を取り出してハサミムシに向けた。狙って撃つ。


 ダンダンダーーーン!!


 キシャアアアア!!


 こんなデカい虫なんて、もとの世界には何処を探したって存在しない。硬い外骨格を持つ虫に、銃弾が効くか不安だったけれど、少なくとも痛みは感じているらしい。


「うおおおお!!」


 相手が怯んだその隙に、俺も大井さんのようにハサミムシの横を走り抜けた。刹那、脹脛にピリリとした痛み。しかし今はそんなのを気にしている暇はなく、そのまま一度も振り返らずに出口まで走り抜けた。


 光。もうかれこれ、外の光を見ていないような……ずっとダンジョンの中、暗闇で暮らしていたような感覚に襲われる。外に飛び出すと、転んでひっくり返った。俺が生還するのを待っていてくれた大井さんが、駆け寄ってきてくれた。


「あいたたた……」

「ユキ君!! 良かった!! もしもあの魔物にユキ君がやられたら、どうしようって……どうしようって思って……うっ……」

「はあーー、なんとか生き延びた。やっぱり、危険な場所に足を踏み入れるなら、武器とか準備は怠れないな。銃も持ってきておいて良かったよ。無かったら、危なかった……ってもしかして、泣いてる?」


 そう言って笑うと、大井さんは慌てて顔を背ける。


「な、泣いていないです!! ダンジョンは埃っぽかったから、逃げる時に目に入って……」

「そ、そうなんだ」


 ちょっと残念。でも俺には、心配してくれて泣いてくれたように見えたんだけどなー……なんて事も思う。


「さてと、それじゃちょっと一難去って、ゆっくりしたいところだけど、急いで拠点に戻ろうか」

「うん、そうね。尾形さんが魔物に襲わた事を知らせないと」

「弾丸を喰らわせてやったけれど、あのハサミムシをやれたかどうかも解らないし、別のもいるかもしれない。このダンジョンの入口を塞ぐなり、立ち入り禁止にするなりした方がいいと伝えないといけないしな」

「うん」


 尾形さんの拠点……廃村の方へ向かうべく、立ち上がる。するとさっき、あいつにやられてピリリとした方の足に、強烈な痛みが走った。俺は悲鳴をあげて転んだ。


「ぎゃあああっ!!」

「ユ、ユキ君!!」

「あ、ああ、足が……」


 仰向けになり、痛みを感じた方の足、右足に目を向ける。足首からは、かなりの血が滴っていてズボンも濡れていた。頑張ってズボンの裾に手をかけ、めくり上げる。すると鋭い何かで裂かれたように、スパッと脹脛が斬られていた。出血から、傷も深い。


「こ、これって……」

「ああ、弾丸を撃ち込んでやったもんだから、お返しにやられた。脱出する時に、確かにピリリと感じたんだよな。あいつ、顎の他に尻の方にも鋏があったから、それにやられたんだと思う」

「早く手当しないと、かなり深い傷よ」

「はは、逆に考えよう。足を切断されなくて、良かったって」


 大井さんは俺の傷を見て、真っ青になってしまっていた。おまけに俺が死ぬかもしれないと、不安にもさせてしまったみたいで……本当事を言うと、俺の方が泣き叫びたかった。けれど、俺も大人だからな。ぐっと我慢をして笑って、強がった。


「とりあえず、止血をしないと」

「大井さん、やってくれる?」

「ええ、解ったわ。ちょっと待って」


 大井さんはそう言って、タオルを取り出した。そしてそれを俺の右足、出血している箇所に巻き付けて縛った。なんか、前にもこんな事があったなと思い出す。


 大井さんは、辺りで杖代わりになる棒を見つけてきてくれたので、それを支えにして立ち上がった。


「ありがとう、いい杖だ」

「本当に大丈夫なの?」

「これ位なら大丈夫だ。前にゴブリンやウルフの群れに襲われた時も、結構な怪我をしたけど、その時よりは平気かな」


 平気じゃない。叫びたい位、痛む。だけど大井さんに、情けない姿を見られたくはなかった。何より、今はそれどころじゃない。


 辺りを警戒しつつ、廃村まで歩く。怪我した足は痛いけれど、大井さんが支えてくれた上に、杖もあったからそれ程移動に苦労はしなかった。


 拠点に到着すると、俺と大井さんは直ぐに尾形さんの仲間に声をかけて、ダンジョンであった事を話した。


 あのダンジョンには、まだ奥があった事。その奥がどうなっているのか気になって、俺と尾形さんは先へ進んでしまった事。そしてそこには、デカいハサミムシの魔物がいて、尾形さんはそいつに殺されてしまった事――


 尾形さんのクランメンバーにそれを説明すると、その人は直ぐに別の仲間達を呼んだ。俺は尾形さんの死と、他にあった事を全て話して聞かせた。


 足は痛かった。早く治療をしたかったけれど、彼らは自分達のリーダー、そしてかけがえのない仲間を失ったのだ。だからその説明をする事が、なにより先決だと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ