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Phase.425 『廃村近くの小さなダンジョン その6』



「尾形さん!! 尾形さん!!」


 何かが尾形さんの近くにいて、こちらの様子を伺っているかもしれない。近づいた瞬間に、ガブリ――そういう可能性もゼロではない。


 もしも今、尾形さんの身体全体が見えていて、この通路に倒れていたら直ぐに駆け寄ったかもしれない。でも現状は違う。


 おそらくあの角の先に尾形さんはいるが、ここからじゃ右手と服の一部しか見えなくて状況が解らない。行ってこの目で確かめればいい話だが、なぜか足が前へ出ない。こういう時の悪い予感は、かなり当たる。


「尾形さん!! そこにいるんですよね? 

なぜ、倒れているんですか? 大丈夫ですか? 返事をしてください!!」


 …………返事はない。


 もしかして、気を失っている!? だとすれば、真っ先に考えられるのは……通路を歩いていて、何かにびっくりしたとか、何かに蹴躓いて転倒し、頭を打ち付けたかなんかで気絶しているかもしれない。


 そうでないなら、最悪な展開として考えられるのは、このダンジョンに潜んでいた魔物に闇からいきなり襲われて、怪我を負わされて気を失ったとか……


「くそっ! なぜ、尾形さんは返事をしてくれないんだ」


 出血でもして気を失っているのなら、直ぐにでも止血して助けないと最悪の場合、出血多量で死ぬことだってある。やっぱり、このまま様子を見ているのにも限界がある。助けよう。


 気持は決まった。懐中電灯と鉈を手に、前に進んだ。慎重に。尾形さんが倒れている角まで近づいていく。ピチョンピチョンという水の滴る音が、何処から聞こえた。地下に湧水が流れ込んでくる事は、普通にありえることなので気にはしない。


「尾形さん……」


 確認すると決めたのに、足がゆっくりとしか動かない。でもこれはこれでいい。一歩一歩確かめながら、歩くんだ。尾形さんがどうしてここで気を失っているのか、はっきりと原因が解らない今、警戒を怠ってはいけない。


 尾形さん右手。次第に姿が見えてくる。角を曲がる。


「ううう!!!!」


 まるで身体中に電撃が走ったような感覚に襲われた。歩いていた通路の角を曲がり、そこに倒れている尾形さんを確認する。するとそこは、鮮血に染まっていた。


 目の前には、尾形さんの右腕と胴体の一部しかなく、彼の身体はもう少し奥に飛ばされたように転がっている。足は両方とも無い。


「うわああああ!! ひ、ひいいいいい!!」


 恐怖で尻もちをついた。身体中の血液が逆流するような感覚に襲われて、喉の奥から胃液が上にあがってきた。冷や汗がぼたぼたと流れ始める。


「お、尾形さん……尾形さん……どうして……」


 さっきまで一緒に、彼の住む屋敷にいた。彼が集めたこの世界の様々な武器等のコレクションを見せてもらい、話もした。アイスコーヒーをご馳走になって、美味しく飲んだ。それから一緒に……一緒にこの拠点から近いダンジョンにやってきて……


 俺のせいだ。俺が尾形さんを殺した……

 

 俺が今日、彼の拠点にやってこなければ……彼と話をして、ダンジョンを見せてほしいなんて言わなければ……尾形さんは、もうこのダンジョンを調べ尽くしたって満足していたのに……わざわざここへ来る事もなかった。隠し通路を見つけなければ、彼は死ぬことはなかったんだ……


「ううううううあああああああああ!!!!!」


 後悔と恐怖、絶望が溢れて頭がおかしくなる。俺は懐中電灯と鉈をその場に投げ捨てると、両手で頭を掻きむしり蹲って唸った。


 ゴブリンに襲われて殺されそうになった時も、こんな気持ちにはならなかった。確かにあの時、とてつもない恐怖を感じてはいたが、殺されるのは自分自身だったから。でもこれは違う。俺のせいで、尾形さんは死んだんだ。押し潰されそうになる程の後悔――


 目をぎゅっと瞑って、これ以上ない位に丸まって、「申し訳ない、ごめんなさい、許してくれ」と何度も尾形さんに謝罪する。


 ギチギチギチギチ……


「ひ、ひいいいい!!」


 急に近くで変な音がして、我に返った。そして起き上がると、闇。懐中電灯が転がっている所だけ、灯りに照らされている。俺がいるこの場所は、圧倒的な闇だった。


「な、なんだ⁉ 何かいるのか⁉」


 ギチギチギチ……ズズズ……ガサ……


 確実に何かいる。そしてそれが何かは解らないけれど、今この場所にこんな不気味な音をさせる奴がいるとすれば、こいつが尾形さんを殺した奴に違いないと思った。


 俺も殺されるかもしれない。慌てて、音がした方向と別に後ずさる。直ぐに背中に壁が当たった。


「鉈は何処だ? か、懐中電灯!!」


 よろよろと立ち上がり、腰につってある剣を抜いた。目の前の懐中電灯を拾わないと


 ガサガサ……


 暗闇の中で何かが移動している。転がった懐中電灯に、照らされたわずかな光の中に、その何かの一部が一瞬映り込んだ。まだ何かは解らない。でも一瞬見えたそれは、黒っぽくて昆虫の足のようだった。


 そう言えば、さっき尾形さんを見つける前に頭を突っ込んで覗いた天井裏に、ぞろぞろといた蠢く蟲の群れがいた事を鮮明に思い出す。背筋に寒気が走った。


「ちくしょーー!! いったい、このダンジョンに何がいやがるんだ!! くそーー!! なんとか、ここから脱出しないと……」


 尾形さんの腕が転がっていた。向こうにあった尾形さんの半身は、両足が無くその断面はまるでちぎられたというよりは、切断されたように見えた。もう一度確認してみないと断言はできないけれど、そう見えた。


「ぐ……!」


 じっとしていても、俺も尾形さんのように殺される。それは嫌だ、死にたくない。それに俺がこのままここで殺されたら、入口の方で待っている大井さんは、きっと俺を探しにここまで入ってくる。そうしたら、彼女も殺される。


 俺は、覚悟を決めて懐中電灯を拾いに行く。


「うおおおおお!!!!」


 懐中電灯を掴んだ。そしてあの気持ちの悪い音のした辺りを、ライトで照らしつけた。

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