表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
424/466

Phase.424 『廃村近くの小さなダンジョン その5』



「尾形さーーん!! 尾形さーーん!!」


 何度か彼の名を叫んだ。しかし返事は帰ってこない。


 どういう事だ? もしかして奥はかなり深くて、尾形さんはもっと先へ先へと進んでしまっているのだろうか。しかし暗闇と静寂が広がるこのダンジョン、俺の声は届いていると思った。ならなぜ、返事をしない? 敢えて、そうしているのだろうか。


 あれこれ考えながらも、勝手に得体しれないダンジョンの隠し通路の奥へ突き進んで行ってしまった尾形さんに、次第にイラ立ちを感じ始める。


 ガツッ!!


「いって!!」


 何かに足先をぶつけた。とても硬い者で、足指にそれなりの痛みを感じている。


「くっそ! 誰だ、こんな所にこんな硬い物を置きっぱにしている奴は!!」


 誰でもない事は、知っている。イラだっているので、悪態をつきたい気分だった。


 懐中電灯で、足をぶつけたそれを確認すると石だった。レンガのような長方形に近いような形をした石。まじまじともっと観察してみると、自然でこうなった訳ではなく、明らかに人の手が施されてここまでの形になっているように見れた。つまりこれは……


 足元を照らしていたが、灯りを天井部分に移す。すると丁度頭がすっぽり入る位の穴が空いていた。


「なるほど……劣化したか何かで、天井部分が崩れて落ちたものを俺が蹴とばしたのか。しかしこれ、天井に穴が空いているって事は、この向こうにも空洞があるってことなのか?」


 このダンジョンに入ってきた時とは、環境が大きく違っていた。尾形さんはこのダンジョンは小さいと言っていた。確かに小さいとは、俺も思った。だけど最初に入って案内された場所は、何処も立って歩くことができたし天井も高かった。しかしこの崩れた壁の向こう側、そこは狭く天井もかなり低く感じた。両膝をつく程ではないけれど、若干腰や膝を曲げないと頭を天井にぶつける場所もある。


 この今丁度歩いている場所も、天井との高さは低い方でつま先立ちをすれば、天井にぽっかりと空いた穴に顔を突っ込んで、中がどうなっているのか見る事ができると思った。


「最初は何もないって言われた小部屋の壁の向こうに、今歩いている通路があった。それで今度はその通路を歩いていると、天井に穴を見つけた。どうなっているんだ? このダンジョンは広いのか、それとも狭いのか。それに何の目的で、あるものなんだ?」


 目的に関しては、想像できるものは色々とある。偉い人のお墓であったり、財宝の隠し場所。もしくは、ファンタジーものでいえば、これが一番恐ろしいパターンだけど、何か悪しきものを封印した場所とかである。


「ちょっと中を覗いてみるか」


 今回は、少しダンジョンというものを見て知っておきたかっただけだった。本気で攻略するなら、万全の状態で挑みたい。そう思っていたはずなのに、気が付けばこんな得体のしれない場所に1人でいる。なぜだ?


 もちろん、尾形さんを見つけしだい、彼を無理矢理引きずってでも、外へ連れ出して外の世界へ戻りたい。こんな場所、探索するならちゃんと心も含めてすべての準備ができてからだ。


 穴に頭を突っ込む。


「まったく何も見えない」


 何かが顔に触れた。首にも唇にも……ゾクリとする。通路では、聞こえなかった変な音もする。


 ギチギチギチギチ……ガサガサ……


「な、なんだ、真っ暗なんだって」


 何かが頭についた。穴に頭を入れたまま、懐中電灯も入れてそれで中を照らした。すると天井の内側には、びっしりと何か黒い蟲が取り付いていて、ギチギチと蠢いていた。それが俺の顔に触れていたのだ。身体全体の血液が逆流し、鳥肌が立つ。


「ぎゃああああああっ!!!!」


 慌てて穴から頭を抜くと、そのまま尻もちをついた。穴からボソボソと何匹かの蟲が垂れてきたので後ずさる。頭や首、服にも黒い何か気持ちの悪い蟲がついていたので、慌てて手で払った。


 蟻とかではなくて、ムカデとかマイマイカブリのような異色な虫。ゴキブリもいたと思う。とても大きなゴキブリ。


「な、なんて場所だ。ファンタジーの世界だったら、妖精とかそういうのがいたりするんじゃなかったのか……」


 そう言えば、この世界にやってきた時に最初に住んだ丸太小屋。あそこで出くわした虫も、ビッグティックっていう野球のボール位のデカさのダニの魔物だった。今思い出したら、また鳥肌が立ってきた。


「お、大井さんを連れてこなくて良かった。ゴキブリとかは苦手だけど、俺はそれほど虫が駄目って程ではなかったはずなんだが……それを覆される位に、トラウマになるような虫地獄だ。さっさと尾形さんを見つけて、説得して拠点に戻ろう。もうここのダンジョンは、よく解った」


 ガサガサガサガサ……


「な、なんだ、今の音は!! なんか、いるのか⁉」


 今度は明らかに大きな音がした。


 慌てて立ち上がると、懐中電灯を手に辺りを照らしまくる。なんだ! 何処だ! 何処から音がする! もう片方の手では、思い切り力を入れて鉈を握っていた。握ろうとした訳ではなく、無意識に強く握り締めていたのだ。恐怖している。


 ガサガサガサ……


 暗闇で何も見えない。懐中電灯でも発見できなかった、その気持ちの悪い音を立てていた奴は、俺のいる場所からガサガサと何処かへ遠ざかっていった。


 結局解らなかったが、ビッグティックのような昆虫系の魔物かもれない。デカいムカデとか、ゲジゲジのような……


「うう、変な想像したら、なんだか恐怖と気持ち悪さで吐き気がしてきた。早く、自分の拠点に帰りたい。未玖の連れていたあの桃色兎、ラビをこね繰りまわして癒されたい」


 帰りたくとも、尾形さんと一緒でなければならない。


 再び懐中電灯を手に、前へ進む。すると行き止まりが見えた。壁。その手前には、また通路があるのか――もしくは、小部屋があるのか、曲がれる場所があり尾形さんの服の一部が見えた。


「嘘だろ⁉ お、尾形さん!!」


 腕。ここからでは、よく見えない。尾形さんはダンジョン内の隠し通路の最も奥で、倒れているようだった。しかも曲がり角があり、そっちで倒れているらしく腕と服の一部が見えるだけで顔は見えない。


 直ぐにでも彼のもとへ駆けて行きそうになったが、俺は思いとどまってまずは周囲を警戒した。なぜなら、尾形さんが魔物に襲われていた可能性もあると思ったからだった。


  もしもあの角の向こうに何かがいて、知らずに尾形さんに駆け寄ったら、俺もやられるかもしれない。助けるにも、自分の安全を確認してからでないときっと、2人ともやられてしまっては大変だ。こんな時だからこそ、慎重に行動しなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ