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Phase.423 『廃村近くの小さなダンジョン その4』



 懐中電灯で、崩れた壁の向こうを照らすも何も見えない。っというか壁の向こう側、中に入らないとどういう状況になっているのか、知る事はできなかった。


「どうする? 尾形さん。誰か呼んできた方がいいかもしれない」

「…………ちょっといいか」


 尾形さんは、俺と大井さんにそういうと、崩れた壁の方へ行き、そこへ顔を突っ込んだ。きょろきょと見回して懐中電灯であちらこちら照らす。


 俺だったら、確実にまず誰か呼ぶなと思った。大井さんはここにいるとして、翔太か北上さんか堅吾かトモマサか小貫さんか……兎に角5人位は集めて対処すると思う。だけど尾形さんは1人で中を確かめようとしていた。人それぞれやり方が違うのは当たり前だけど、俺とは違うと思った。だからなのか、一抹の不安を感じる。


「これは何も見えんなー。だが、結構奥まで続いている感じだ」

「ここがダンジョンっていうなら、魔物とか罠とか呪いとか、何が待っているか解らない。やっぱり一度引き返して、仲間を呼んでもっと多い人数で対処した方がいいんじゃないか?」

「なるほど、椎名さんならそうするって事か」


 別に否定する理由はない。


「ああ、うちならそうするかな。なんせ、リーダーがかなりのビビリだからな」

「本物のビビリに魔物は倒せないよ。まあでもこのダンジョンは、小ぶりだ。奥に部屋があったとしても、それほど大きくは広がっていないだろう」

「どうしてこのダンジョンが小ぶりだと言えるんだ?」

「俺は、ここと別に他のダンジョンを3つ見つけて入った。そのうち2つは、結構大きなダンジョンだったんだが、その感じからなんとなくそう思ったんだけどな」


 なんだそれ? 憶測で言っている? この人は、大丈夫なのか? 急に更なる不安に襲われる。


「まあ、大丈夫だろう。俺の直感がそういっている」

「えーーー……」

「まあ、そんなに心配しなさんなって。ここで待っていてくれ。ちょっと俺一人で中に入って見てくる」

「そんな……ちょっと待ってくれ尾形さん。本当に誰かを呼んで……というか、ちゃんと中に入る為の準備をしてからの方がいい!! 何が潜んでいるかも解らないんだぞ」

「椎名さんは、慎重と聞いていたけど、本当にそうなんだな。まあ、大丈夫だよ。先に言ったように俺は、既にこの世界で他のダンジョンも経験しているからな。そこでは罠もあったし、魔物にだって遭遇した。だからだいたいどういうものが、待ち受けているかを解っているんだよ」


 やめさせようとしても、もう止まらない。尾形さんは、崩れた壁の中に入り込んだ。こうなってしまったら、仕方がない。ここまで俺と尾形さんのやり取りを聞いていた大井さんだったが、流石に彼女も不安な顔を見せ始めた。


「ユキ君、私……拠点まで戻って誰か呼んでこようと思う」

「ああ、それがいい。頼む」

「おおーーい!! 誰も必要ないって!! だから呼ばなくていいからな!! もし必要だと判断したら、この俺が人を手配する!! ここは、俺のテリトリーだし俺に任せてくれりゃいい。ダンジョンの経験も、椎名さんや……おそらく海ちゃんよりも俺の方があるだろう。な、信用しろ」


 聞こえていた。ダンジョンの中は、暗闇と静けさが広がっている。だから会話は筒抜けだ。そうこうしているうちに、尾形さんは完全に崩れた壁の向こう側に行ってしまった。


「入口を俺サイズにもう少し大きくしてもいいかもしれないが、これ以上壊すと別の余計な部分も崩れえるかもしれないしな。このダンジョンの築年数だって解んねーし、もしかしたらぞっとする年数かもしれねーし。落盤なんて、洒落になんねーぞ。まあ、余計な事はしねーようにしねーとなー」

「じゃあ、引き返せばいいのに……」

「俺も大井さんと同じ気持ちだけど、もうどうあっても行くつもりだろ。それで、どうだ? 奥は見えるのか?」

「ふーーむ……見えん。もしかして、思っていたよりも深いか? だとしたら……よし、もう少し進んで見てみる」

「お、尾形さん!」

「解ってるって。何かあったら叫ぶから、そしたら助けてくれよな、アハハハ!!」


 助けるって……もし危険な魔物が潜んでいて、襲ってきたらこんな暗闇の中、どうにもならない。しかも狭いダンジョン内で大井さんはまともに弓矢を使えないだろうし、俺だって戦えない。大井さんと2人だけだったら、間違えなく引き返す。


 仕方がないので、大井さんに周囲の警戒を頼み、あんまりやりたくはないけれど、俺は尾形さんが入り込んだ崩れた壁の向こう側へと足を踏み入れた。いや、横になって頭から入らないといけないので、踏み入れたというのは間違いか。


「ユキ君、気をつけてね。もしもの時は、あなただけでも……」

「ああ、でもこのまま尾形さんを一人放っておけないから。魔物がいる気配がしたり、危険を感じたら、尾形さんの腕を掴んで無理矢理にでも直ぐに引き返すから」

「うん、無理は絶対しないで」


 尾形さんは先に行ってしまった。聞こえていた足音も、もう聞こえない。


 尾形さんは、このダンジョンは小ぶりだって言っていたし、この奥も大した事がないような事を予想していたけれど、壁の向こうにあった通路は、何処までも遥か先へと続いているように見えた。


 くそーー。ダンジョンはまだ経験がないから、まずは少し見るだけで良かったのに……思ってもみない展開になってしまった。いつもは、翔太や北上さん、トモマサや鈴森なんかいてくれるから、それほど恐怖も感じないけれど、今はかなり闇が怖い。


 ここを進み続けると、もう大井さんがいる場所まで戻ってこれないような、そんな感覚に襲われる。当たり前と言えば当たり前なんだが、ゲームとかじゃ大抵ダンジョンは明るくて辺りが見えている。でも実際には、真っ暗で灯りを照らして、手探りで進まなくちゃならない訳だ。


「尾形さーーん!! やっぱり心配だから、俺もそっちへ行きまーーす!!」


 聞こえるように大きな声で言った。しかし返事は帰ってこない。いや、遠くの方で「おーーう」って声が聞こえたような気もする。


 懐中電灯と別の手に、鉈を握りしめ先へと進んだ。

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