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Phase.422 『廃村近くの小さなダンジョン その3』



 尾形さんは殺した蛇の胴体を両手で掴むと、腰に下げた。俺はそれを見て、蛇をどうするのかと彼に聞いた。


「尾形さん、その蛇……」

「ああ、蛇は見てくれから想像しづらいが、美味いからな。後で、焼いて食べるのさ。そんな事よりこのダンジョンは、もう宝という宝は、おおかた探り尽くしたと言っていい。けどな、お役目ご苦労さんって訳でもないんだな、これが」

「どういう事だ?」

「この位の大きさの場所ってのは、後でそれなりに役に立つかもしれない」

「例えばシェルターとか?」

「そうだ。流石、椎名さんだな。シェルターにしろ、これくらいの物を自分達で作るって言ったら大変だろ。何も思い付かなければ、ここを徹底的に掃除して俺の別荘にしてもいい」


 廃村を拠点にしようと思った、実に尾形さんらしい考えだと思った。


「だからここに、蛇の死骸を放置はしたくない。そして蛇は喰える。なら、持って帰るしかないだろ?」

「なるほど、理解した」


 蛇を喰うと聞いて、大井さんが嫌な顔をするだろうと、尾形さんが彼女をチラリと見た。怖がらせてしまって申し訳ないという顔ではなく、期待の眼差し。尾形さんは、そういう女の子のリアクションが見たかったんだと解った。


 でも大井さんは、最初に蛇の登場に驚いただけで、首を刎ねる光景や、後でその蛇を食べると聞いてもまったくもって無表情だった。


 そうなんだ、大井さんは実は結構気が強い。もしかしたら、北上さんの方がいいリアクションをして、尾形さんを喜ばせていたかもしれないと思った。


 とりあえず音の正体が解り、また先へ進む。すると、部屋がいくつか現れて行き止まりになっていた。ここがこのダンジョンの最奥になるのだろう。


 確かにこの大きさなら、探索するダンジョンとしての規模はとても小さいけれど、シェルターとか倉庫とか何かとして、この場所を利用するならかなりの優良物件だと思った。


「さあ、椎名さん、海ちゃん。ここがこのダンジョンの最奥だ。見たいところがあれば、自由に見てもらっていいぜ。遠慮せずに、ほら!」


 尾形さんは、そう言って近くに転がっている手頃な石に腰を下ろすと、煙草を取り出して1人休憩し始めた。


「それじゃ、遠慮なく見学さえてもらう。あっちの部屋から見に行こうか、大井さん」

「ええ」

「気が済んだら言ってくれ。俺はここでちょっと一服してるから」


 大井さんと2人で、いくつかある部屋のひとつに足を踏み入れた。床も壁も天井も、石でできていた。遺跡のようにも見えるが、尾形さんはここをダンジョンと呼んでいた。


「ここは、地下って事になるのかな?」

「ええ、そうね。入ってきた場所からここまで、少しずつだけど傾斜になっていたわ。ここはもう、地中に位置する場所だと思う」

「誰が、何のために作ったんだろうな。やっぱり何か重要な宝を隠す為とか、もしくはピラミッドみたいに、誰か偉い人の墓にする為にとか、色々と考えられるけど」

「解らないわね。でも、異世界にもとの世界の常識は当てはまらないわ。ある人は、この『異世界(アストリア)』では自然にダンジョンが誕生するって言っている人もいるし、異世界人によって魔法で作られたとか言っている人もいる。もちろん、ユキ君が思うように、異世界人とか誰か大勢人を集めて、職人技を奮ってピラミッドやマスタバのように造りあげたって言っている人もいるわね」

「どれか……じゃなくて、今言ったこと全部かもしれないし、それは何か証拠を見つけるまで解らないよな。でもこうやってあれこれ考えるのは、正直言って楽しいな」

「ふふふ、確かにそうね。拠点作りと同じかしら」

「ああー、そうだな。確かに俺達の拠点作り。最初は丸太小屋だけだったけれど、成田さんのお陰で物凄く広大になって、皆の努力で色々なものができた。そうやって自分達のホームがどんどん発展していくのは、凄く楽しいな」


 大井さんと笑い合う。そしてふとダンジョン内の壁に視線を戻した時、何かを発見した。くぼみ?


「ん? 何か面白いものでも見つけた?」

「いや、なんかここの石壁……この辺りに窪みがあるんだけど。これ」


 そう言って窪みに手をかける。


 ゴトッ……


 壁面の窪みのあった箇所、その部分にはめ込まれていた長方形に近い石が外れて足元に落ちた。壁を壊してはまずいと思い、その石を拾おうとすると、目の前の窪みのあった壁面がガラガラと音を立てて崩れた。いきなり現れる、壁の穴。


「え? なんだこれは……」

「ユキ君、これって……」


 崩れた壁面に手で触れて調べる。


「これは、あれだな。壁の奥にまだ何かあるんだ。誰かが意図的にここを塞いでいたのか。もしくは、もしもこのダンジョンが魔法とか何か不思議な力で作られていたのだとすれば、その時にそういう風に作っていたのかもしれない」

「どちらにしても、隠れていた部分を見つけたわね」

「そうだな。とりあえず、尾形さんを呼びに行こう」


 俺はこの崩れた壁の向こう側がどうなっているのか、それが気にはなっていたものの、覗き込む前にまずはここの所有者に伝えるべきだと判断をした。尾形さんは、先程からずっと同じ場所で、煙草を吸ってゆったりとしていた。壁が崩れた事を伝える。


「なんだと⁉ もう全部ここは調べ終わったと思っていたが……」

「ここに何があったのか、俺には解らないけれど、それを全部運びだして確認をしただけじゃなかったのか。宝しか見ず、壁は調べていなかったとか」

「言われてみれば、まさしくそうだ。まさか、隠し通路のようなもんがあるとは思っていなかったからな。よし、何処か案内してくれ」


 3人で、崩れた壁の前に移動する。


 ぽっかりと空いた大きな穴。ダンジョンの中は真っ暗で、懐中電灯の灯りだけを頼りにしていたが、崩れた壁の奥を見ると、更に一層深くて沈んだ闇が見えた。

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