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Phase.421 『廃村近くの小さなダンジョン その2』



 ダンジョンの入口には、まるで簾のように何かの植物の蔦が垂れ下がっていた。それを見て躊躇していると、尾形さんは俺の事を笑って先にダンジョンの中へと入った。


 別に意地になって、強がってみせる必要はない。俺は、もともとビビリだって自覚しているし、それで事なきを得たと思う事も何度もあった。だからこれでいいのだ。


 尾形さんが完全にダンジョンの中へ消えると、俺も後へ続く。懐中電灯を取り出して、点灯させるとそれで垂れ下がっている邪魔な蔦を避けて中の方へと進んだ。


「椎名さん。中は、石が転がっていたりとかするから、足元に気をつけて」

「ああ、気をつける……うわああああ!!」

「どうした、椎名さん!?」


 唐突に悲鳴をあげたので、先頭を行く尾形さんが慌てて戻ってきてくれた。辺りを照らすと、俺の後ろに人影。顔にライトを向けて確認すると、なんと大井さんだった。


「お、大井さん!! どうしてここへ!!」

「ご、ごめんなさい。私もついていきたくなっちゃって。それで2人の後を追いかけて……ダンジョンに入って行く姿が見えたから、声をかけようとして……」


 丁度ダンジョンに足を踏み入れた所だったので、注意が完全に前方だけになっていた。そこで大井さんに背中を触れられたので、思わず悲鳴をあげてしまった。みっともないと思うよりも、少し前に河近くで彷徨っていたゾンビを倒したばかりなのだから、驚いて当然だと自分を慰める。


 でも一瞬、本当にゾンビに襲われたと思った。もしもゾンビに襲われて噛みつかれでもしたら、俺はもう助からない。ゾンビに噛まれれば、後に死に至ってゾンビになって復活して人を襲う。だから誰だって恐怖する。


「ごめんなさい」

「ああ、大丈夫、大丈夫。かなりびっくりしたけど、大井さんだと解ってホッとしたよ」

「ううー、ごめんなさい」

 

 落ち着いていて、冷静な判断をする。そしていつも皆より、一歩下がった所から全体を見ている。それが俺の大井さんのイメージだったので、いつもとちょっと違う彼女の顔を見れた事は、ラッキーだったかもしれない。こういう顔もするんだな。


「俺もびっくりした。因みに何にかってーと、椎名さんの悲鳴に対してだけどな」

「ごめん」

「キミ、大井さんだっけ? 椎名さんのクランメンバー」

「はい、大井海です」

「海ちゃんね。椎名さんのクランは、美人ばっかりいるな。もしかして入団審査とかしているんじゃないだろーな。美人しか入れないとか」

「そんな訳ない、人聞きが悪い! うちは、そういうので仲間を選んでないから。信用できる人かどうか、ルールを守れるかどうかが一番重要なんだよ」

「ムキになるな、ムキになるな。冗談で言ってんだよ」


 大井さんがここにいなければ、もっと上手くサラっと返していたかもしれない。チラリと大井さんの顔を覗き込むと、うんうんと頷いてくれていた。そう、大井さんも俺と同じで、信用できる人が一番と思ってくれている。


「まあなんにしても、美人は大歓迎だ。このまま一緒に、中へ進もう」

「ありがとうございます。ご一緒させてください」

「良かったら、こっちへ来るかい海ちゃん。このダンジョンは、極めて小さい規模だけど、中は真っ暗だし何かに足をとられて転ぶかもしれない。俺の隣においで」

「い、いえ、あの……」


 前に進みながらも振り向いて大井さんに声をかける尾形さん。俺は、大井さんの隣に移動すると彼に言った。


「俺の大切な仲間の事を心配は嬉しいけれど、彼女はうちのメンバーだ。だから同じメンバーの俺が、しっかりと見ていないと」

「おおー、そうだったそうだった。海ちゃんは椎名さんのものだったな」

「ものじゃない。仲間だ」


 俺がムキになるのが面白くて、尾形さんはあえて挑発してきている感じだった。でも俺でなくても、きっとここに堅吾がいても、俺と同じ事を言うに決まっている。


 ある程度奥まで進むと、尾形さんが足をピタリと止めた。


「なんだ、どうした?」

「しっ! 何かいるな」

「え?」


 尾形さんがそう言ったので、俺は剣やナイフや銃と一緒に差していた鉈を抜いた。こういう狭い場所では、こういう鉈とかナイフの方が使いやすい。大井さんも自分のナイフを抜いた。


「尾形さん。本当に……」

「なにかいる。ほら、聞こえるだろ? 耳を澄ましてみてくれ」


 シャルルルルル……


 確かに何か聞こえる。


 俺達は手に持っていた懐中電灯で、辺りを照らし出し始めた。すると1匹の蛇を照らし出した。


「尾形さん、蛇だ」

「ああ、こいつだな。間違えない、蛇がダンジョン内に入り込んでいやがったんだな」

「毒がある奴かな」

「解らんなー。【鑑定】で調べてみれば解るかもしれんが、こいつはアレだな。おそらく魔物じゃない。単なるこの世界の普通の蛇だろう」


 大きさも長さ1メートル程といった所。俺の目にも尾形さんと同様に、普通の蛇に見えた。


「どうしようか、一応用心して殺してから先へ進んだ方がいいかな」


 尾形さんはそう言うと、腰に差していた短剣を抜いて、それで蛇の頭に一撃を喰らわせた。蛇が横たわると、そのまま首を刎ねる。


 以前の俺なら、きっとこの光景に顔を背けるだろう。でももう、この程度の事では全くと言っていいほど平気になっていた。

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