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Phase.420 『廃村近くの小さなダンジョン その1』



 廃村――尾形さんの拠点から外へ出る途中で、大井さんと堅吾にあった。大井さんは、プラプラとこの拠点内を見て回っていたみたいで、堅吾はラーメン屋から出てきた所で出くわした。そう、前回来た時に入ったラーメン屋で、竜志と出会った店でもある。


 俺は2人に、これから尾形さんとちょっとこの拠点近くにあるという、既に攻略済みのダンジョンを見学してくる旨を伝えた。


 そして尾形さんと、拠点の外へと出た。尾形さん達が拠点にしているこの場所には、未だに柵とかバリケードが無く、普段ずっとバリケードやらに守られて暮らしている俺にとっては、ちょっと落ち着かない場所だと思った。有刺鉄線だけでも、囲いがあると随分安心できる。


 拠点を出ると、木々が生い茂っている場所が見えた。森。尾形さんはそこに向かって、指をさした。


「あの森だ。あの森の中に、俺が言ったダンジョンがある。歩いても直ぐだから、安心だ。魔物が出たら、直ぐに拠点まで逃げかえればいいからな。それ位の距離なんだよ」

「へえ、楽しみだな」

「先に言っておくが、もうダンジョン内にある目ぼしいものは何もないぞ。全部、取りつくしたからな」

「ああ、聞いたから解っている」

「ならいいけどな」

「でももし、これからそのダンジョンに行って、新たに俺が何か見つけたら、それは俺の物にしていいのかな?」

「だから全部取りつくしたって言っているだろ」

「あったらどうするって、もしもの話だよ」

「それは……俺達のクランのものだな」


 くそー、やっぱりそうか。まあ尾形さん達が見つけたダンジョンだし、拠点からも近い。そりゃそうかと心では解ってはいたけれど、冗談で聞いてみた。僅かな期待があったと言えばあったけど……残念。


「尾形さん。そう言えばなんだけど……」

「ああ、なんだ?」

「不良共は、元気……っていうか、上手くやっているかな?」


 不良共っていうのは、もちろん市原達の事だった。大谷君達を目の敵にしている連中で、他の者とも上手くいかなかった、絵に描いたような問題児だった。


 初めは、モンタ達と共に俺達の拠点にいたが、やはり折り合いがつかなくて尾形さんのクランの仲間になったのだ。つまりあいつらは、この拠点の何処かにいる。


「揉めていたみたいだったが、やっぱり気になるか?」


 うっ……いや、そんな事は断じてないと言い切れる。俺はあいつらが嫌いだ。大谷君達は素直で可愛いと思うし、モンタ達もいい奴らだった。弟のように……っていうと、年齢から言って少しあつかましいかもしれないが、いい意味でそういう風に思っている。


 だがあいつらは最悪だ。どうやっても、変わらない人間がいる事も知っているが、俺はあいつらがそれだと思ってしまっている。だからどうなろうと、知った事じゃない。


 でもあいつらは、大谷君達やモンタの通っている学校の同級生だと聞いたし……陣内や成子の事もあったので、ちょっと聞いてみたのだ。


「仲良くできそうもなかったし、一緒にやってくのは無理だと思ったから気になんてならない。だけどちょっとな」

「ちょっとか」

「そうだ、ちょっとだ」

「なるほど」

「それで?」

「俺が見ている限りでは、まあそれなりにやっている方だと思う。だけど陰ではやはり、他のクランメンバーや拠点に訪れる別の転移者ともめたりはしているみたいだな」

「そうか」

「でも人が2人以上そこに居れば、揉めることだってあるだろ? しかもあいつらは高校生だぞ。最近は、全く不登校らしいがな。まあもとの世界の事は、俺には関係がない」

「確かにそうだ。俺もそう思っている」

「そうだよな。それで何が言いたいかというと、あいつらはまだガキだって事を言いたいんだよ。市原なんか典型的ないちびり野郎だ」


 尾形さんの市原に対するガキとか、いちびり野郎という言葉で笑ってしまった。俺もそう思っていたから。


「だが椎名さんも解っているだろ。奴らは発展途上なんだよ。これから色々と勉強して、大人になっていく。特にこの『異世界(アストリア)』を中心に生きていくなら、もとの世界より厳しいかもしれねえな。なんせ今までのようにいちびって、誰か怖い奴を怒らせたりなんかしたら……なあ」


 尾形さんはそう言ってニタリと笑った。一緒に笑っていた俺だけど、その顔には一瞬ゾクリとしたものを感じた。そうだ、この世界には、警察はおろか国だってない。ルールも自分達で決める。つまり誰かが誰かを傷つけたり、それ以上のことをしたとしても当事者以外はかかわりもしないだろう。


 はっきり言ってしまえば、殺人や強盗などもとの世界で悪とされている事を誰かがしていたとしても、それを取り締まってくれる人はいないという事なのだ。だから市原達も、あまり好き勝手にはできないはず。本当に恐ろしい目にあえば、あるいは変わる可能性があるかもしれない。


 まあ、俺は諦めたけどな。あはは。


 こんな話を続けていると、森の手前まできていた。尾形さんが先頭になり、森に入って俺を案内してくれる。拠点から近いと言っても、ここはもう外の世界なので辺りに危険がないか警戒する。


 森に入って少し歩くと、直ぐにそれは現れた。


 入口は、レンガのような形の石を組み合わせて造っていて、中に続く壁も同じだった。しかし。劣化具合などからかなりの歴史を感じる。壁や床の組み合わせた石の間からは、草が生えていて、天井からは蔦がぶらさがっていた。


 尾形さんから拠点近くにダンジョンがあると聞いてやってきてみたが、ここまでダンジョンらしいダンジョンとは、思ってもみなかった。テンションがあがる。

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