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Phase.415 『河近くの浅瀬で』


 川辺にある浅瀬、そこへ近づくとアイちゃんは自分のあしもとを指さした。そこに何かあるのか? よく見て見ると、大きな貝がゴロゴロと転がっている。俺は思った事を口に出した。


「ジャンボタニシ!!」

「だよねー、私もそう思ったの。でももっと近づいてよく見てみて」


 アイちゃんの言葉を聞いて、浅瀬にいるジャンボタニシを覗き込んだ。するとジャンボタニシの内側から、びっくりするくらいの数の触手が出てきた。ウネウネと動くそれを見て、俺は驚いて尻もちをついた。気持ち悪い!!


「うわあああ!!」

「あはははは!!」


 悲鳴を聞いて未玖と大井さんが、駆け付けてきた。でもアイちゃんの笑い声を聞いて、特に心配はないと思ったらしい。


「な、何かあったんですか?」

「ユキ君の悲鳴を聞いて、何かあったと思ったんだけど……アイちゃんの様子から、彼女に驚かされたって所かしらね」

「あはははは」


 アイちゃんは、まだ笑っている。まったくもー。


 腰に差していたナイフを抜くと、触手のあるジャンボタニシをつついてみた。突いた瞬間、触手が貝の中に引っ込む。こういう貝、いたような気もするけれど面白いな。


「未玖、大井さん。こっちに来てちょっと見て。面白い貝がいるから」

「私が見つけたんだよ」


 アイちゃんは胸を張って、自分の手柄だとアピールした。未玖も大井さんも、そんなアイちゃんに拍手を贈る。


 未玖は、少し怖がっている様子だったので、大井さんが率先してジャンボタニシのいる浅瀬を覗き込んだ。無数のジャンボタニシと触手。


「きゃああ!!」


 今度は大井さんの悲鳴。いても数匹だと思っていたらしい。俺と同じように、大井さんもその場で突き飛ばされたみたいに尻もちをつく。その真後ろにいる未玖までも、驚いて後方へ転がってしまった。


 その光景を見て、俺とアイちゃんは大笑いした。


「もう、ユキ君も愛もーーー!!」


「海を脅かしたのは、私じゃないよー。ジャンボタニシでしょー」


 そう言ってまたケラケラと笑うアイちゃん。俺は、転がった未玖に手を貸して立たせると、一緒にまたジャンボタニシのいる浅瀬に近づいて覗き込んだ。


 無数のジャンボタニシ。それにこんな浅瀬なのに、魚も泳いでいる。蟹。


 最初この河を見た時は、泥水のように濁っていると思った。けれどこんなにも、生物がいる。未玖も、楽しそうに水の中を眺めていた。


「ゆきひろさん、あれ見てください!」

「なんだ? 何かいたか?」

「ほら、あんなに大きな魚がいます」


 未玖が見つけたのは、ナマズみたいな魚だった。でも河の水は泥水のように濁っていて、うっすらとしたシルエットしか見えない。最も深いと思われる中洲というか中央は、更にどうなっているのかも解らない。ただ川辺に隣接している浅瀬は、水の流れも穏やかで、ある程度は水底もどうなっているのか見る事ができた。


「槍かなんかあったら、獲れるかもしれないな。いや、まてよ。魚が相手なんだから、こういう場合は銛とか釣り竿か」


 今日はこれから尾形さんの拠点に行くつもりだけど、自分の拠点に戻ったら早速最上さんに、この話をしなければならないと思った。彼は大の釣り好きだし、拠点でもいつも川エリアの川で、魚釣りをしている。この場所の事を知れば、きっと興味を持つだろう。そうすれば、最上さんは釣りが得意だから、色々な魚を釣り上げてくれるという訳だ。


 淡水だし、水が濁っているから刺身はちょっと怖いけれど、塩をまぶして焼き魚は当然の事ながら、てんぷらや唐揚げ、煮つけなんかもいいかもしれない。あれこれ考えていると、口の中に唾液が溢れてきて無性に腹が減る。


「ゆきひろさん」

「ん?」

「あっちにも蟹がいますよ。しかもとても大きな蟹です」

「嘘だろ? うわっ、ほんとだ、でけーーなあ!! まるで海に生息している蟹のようだな。食えるのかな。でも捕まえるにしても、ちょっとあそこまでは、今はいけないな。水に入らなきゃならないし、今日はその準備をしてきていないからなー」


 水に入らなきゃならない。今日はその準備をしていない。そんな話を未玖にすると、彼女は何かを思い出した様子で、とても嬉しそうな表情を見せる。


「あ、あの……これって……」

「ああ」

「これって、思い出しますね。最初に川エリアで、ゆきひろさんと魚を獲ったりしました」

「おーー、確かにあったなー。俺のが息巻いていたのに、いざ魚を獲る事になったら未玖の方が魚獲りの名人だったんだよな」

「上手く捕まえる事ができた時も、そうでなかった時も楽しかったです」


 確かにそうだった。そんな事があった。楽しかったし、魚を獲るのに夢中になってずっとはしゃいでいた気がする。考えてみれば、あれは川遊びだったよな。


 この大きな河は、まだ得体がしれない。きっと危険な魔物なんかも生息していると俺は思っている。だからちょっとまた、安全な川エリアの方で、川遊びとか計画してもいいかもしれないと思った。よし、成田さんや最上さん、それに翔太にも相談してみよう。


 俺はスマホを取り出すと、ジャンボタニシにカメラを向けた。アプリに入っている、【鑑定】で調べてみる。


「なになに、名前はテンタクラースネイル。川エリアにも似たようなタニシが生息していたけど、あれはマキガイと表示されていた。つまり別物って事か。食用にできるかどうかだけど……できるみたいだな」


 テンタクラースネイル。触手の沢山あるジャンボタニシが食べられると聞いて、大井さんとアイちゃんは、ちょっと引いているようだった。やっぱり、シルエット的に気持ち悪いか。


 和希がここにいれば、何匹か絶対に持って帰るって言いそうだけど、生憎ここにはバケツなど獲って入れる物もない。それに気づいた俺も、なぜか少しほっとした。


 まあ、未玖のさっきみつけた大きな蟹とかは、焼き蟹とか汁物にしたら凄い美味しそうだけど。

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