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Phase.413 『小屋跡で その1』



 大きな河を目にして、未玖やアイちゃんは驚いた声をあげた。


 河の手前に小屋跡がある。そこまで馬車では行けないので、少し離れた場所に停車させた。安藤さんと大井さんと堅吾が馬車に残り、未玖とアイちゃんが俺についてきた。


「それじゃ、ちょっと行ってきます。何かあったら、大声で叫んでくれ」

「ユキ君もね」

「うん、解った」


 大井さんはコンパウンドボウを手に、堅吾と共に馬車の周囲を見張ってくれた。安藤さんは煙草を取り出して、一服し始めている。


 俺は未玖とアイちゃんを連れて、どんどん河の方へと歩いていった。その手前には以前、尾形さんの拠点に行く時に見つけた小屋跡がある。


「すごーーい!! 大きな河!! これ荒川位、大きな河だよ!!」


 荒川って……俺と同じことを思っている。アイちゃんは、はしゃぎながら河の方へと駆けて行った。俺は叫んだ。


「アイちゃん、気をつけて!! 河はそれなりに流れもあるし、深さだってあると思う。それに何がいるかも解らないから、近づかないで!!」

「そんなに気をつけなくても大丈夫だよ。鰐とかいる訳でもないでしょ?」

「言い切れない。鰐みたいな厳つい化物魚ならもう見たよ」

「嘘!!」


 河の水を触ろうと手を伸ばしていたアイちゃんは、俺の話を聞いてすぐに手を引っ込めた。それでなくても、河の水は濁っている。よく触れようとしたなと唖然とする。


「ゆきひろさん」

「ん?」


 未玖が俺の名を呼んだので目をやる。すると前に来た時に、気になっていた小屋跡に未玖は立っていた。


「ここ、廃材みたいなものも落ちてますし、壁の後もあります。僅かですがその壁から、屋根のようなものも残っていますし」

「そうなんだ。ここには、小屋があったみたいなんだ」

「もしかして丸太小屋みたいに、以前からあったものですか?」

「そうだと思う。でも丸太小屋とか、最初はこの世界の異世界人が建てたものだと思っていたんだけど、俺達以外にも沢山もとの世界からこっちへ転移してきている人達がいるだろ?」

「私達以外の転移者が、作った小屋かもしれない……」

「そういうと、ロマンがアレだけど……その可能性も否定はできないなって。でもこれだけ広い世界なんだ。異世界人だって存在するだろうし、丸太小屋や井戸、そしてこの小屋や尾形さんが拠点にしている廃村なんて、絶対作ったのは転移者じゃないと俺は思っているけどな」

「手がかりでもあれば、いいですよね」

「そうか、手がかり! もしかしたら廃村なら、そういう異世界人がそこを作った何か証明するものがあるかもしれないな。あとで尾形さんに会ったから聞いてみようか」

「はい」


 未玖は足元に散乱している廃材を手に取ると、それを小屋跡に残っている壁などに立てかけたりしていた。


「もしかして小屋を修復しようとしている?」

「いえ、なんとなくやってみただけで。でもここに私達の拠点とは別に、小屋があったらちょっとした別荘みたいで楽しいですよね」


 未玖の言葉を聞いて笑った。未玖はなぜ俺が笑ったのか、それが解らなくて動揺している。


「実は、ここの小屋を修復しようと思っていて」

「え? 本当ですか」

「うん。この辺はゴブリンや、ゾンビも徘徊していて危険だ。でも尾形さんとの中間地点に、こういう場所が一つあるのは、何かといいと思うんだ。それで尾形さんにも既にここの小屋跡の事を話して、小屋を修復して使いたいって言って了承もしてもらっている」

「じゃあ、小屋を造るんですね」

「ああ、安藤さんも手伝ってくれるって言ったら、小屋作りの道具や資材なんかも馬車でここまで運べるしな。いいと思わないか」

「いいと思います。小屋を造るってそれは、ゆきひろさんが造るんですよね」

「そうだよ。俺が造る。あと、その後ちょっと住み心地も試してみる計画がある」

「あ、あの……私もその計画に参加していいですか?」

「え? うーーん、でも未玖もここへくる途中に見ただろ? この辺は、ゴブリンやウルフの他にゾンビも徘徊している。それもゾンビに至っては、かなり数が増えているし、もし噛まれでもしたら……」

「一緒に参加させてください!」


 ゾンビが増えたという事は、それだけ俺達のような転移者も、この世界で沢山死んでいるという事。懸賞金のかかった、危険な魔物だって徘徊しているし……っていいかけたけど、未玖は十分にそれらの事を理解していて、一緒に参加したいと言っていた。だからそれ以上は、何も言わなかった。


 危険だからと言って、拠点から一歩も出さないなんて、それはまたどうかと思うし……未玖の気持ちもある。もしも未玖に何かあったら、俺は命をかけても彼女を守る覚悟もできている。家族のような繋がり。未玖とは、そういう一蓮托生みたいな……地を分けた絆のようなものが生まれていた。


「解った。それじゃ、くれぐれも俺の言う事をちゃんと聞いてだな。あと、しっかりと用心すること」

「はい!」


 とても嬉しそうな顔をする未玖。以前は、拠点の外の世界を眺めても、不安な表情ばかりみせていたのに……それだけこの世界に対して、適応能力がついたというか……強くなったという事なのかな。


「あのあのあのーー!! 未玖ちゃん参加するなら、私も絶対参加するから!!」


 大きな声で、俺と未玖の間に割って入って来たのは、さっきまで目の前の大きな河に胸をときめかせていたアイちゃんだった。


 まさかこの調子で、拠点の全員がこの小さな小屋跡に越してきたりしないよな。そんな馬鹿げた事を、一瞬考えてしまった。

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