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Phase.411 『馬車で巡る その3』



「アアアア……」

「ウウウウウ……」


 馬車の行く手を塞いでいるゾンビ共。ざっと数えても10匹以上いる。しかも今、俺達が移動している道になっている両脇には、草木が生い茂っていた。見通しは悪く、この分だと他にもゾンビが隠れている可能性は極めて高い。でも今が、昼間である事が幸いだと思った。この間、襲われた時は夜だった。森や林みたいな場所で、夜にゾンビなどに襲われたら辺りが何も見えずに、かなり危険だ。


「大井さんは馬車の近くにいて、そこから弓で援護を頼む。安藤さんもここから動かず、馬車と皆を守って欲しいんだけど……」

「ああ、解ってるよ」


 安藤さんはそう言って、懐から銃を取り出して俺に見せた。


 そうか、安藤さんも銃を所持していたのか。未玖に視線を向けると、未玖もちゃんとリボルバー銃を持っているよと、俺にチラリと見せた。以前、長野さんが未玖に手渡したもので、そのまま持っていていいと言われた銃。


 本物の銃を見て、逆に安心感が増すなんてと少し笑ってしまいそうになる。それだけ銃は強力な武器で、身を守る事に使えば、心強いアイテムなのだ。


 アイちゃんが、馬車から身を乗り出してきて俺に言った。


「ユキ君、くれぐれも気をつけて!」

「ああ、大丈夫。それよりアイちゃんと三条さんも、馬車からは絶対おりないように」

「う、うん」


 腰にぶら下げている剣を抜いた。


「それじゃ、大井さん頼む。堅吾は、ついてきてくれ」

「りょーかい」


 向こうから、ゾンビがゆっくりとよろよろ向かってくる。身体は腐っていて力は強そうには見えないが、実はかなり強い。組み合ってみれば解るが、それで陣内や成子もやられた。噛まれない事は勿論の事、絶対に組み付かれないようにも気をつけた方がいい。何度も自分に言い聞かせる。


 向かってくる数体のゾンビ共と距離が近くなってきた所で、後方から矢が飛んできた。大井さんの援護だ。俺達の間を矢がすり抜けて、前方から向かってくるゾンビに命中する。身体に突き刺さり、貫通して更に後方へと飛んでいく矢。流石はコンパウンドボウの威力。矢は、次々と放たれて頭部に見事命中したゾンビは、まるで糸が切れた操り人形のようにドサリと倒れた。


「うおおお、幸廣さん、凄いッスよ! 海の奴、やるなー。1人で、どんどん倒していっているよ。もしかして、このまま1人で全部倒しちゃうんじゃないッスか?」

「まあ、そうだな。でもいくら大井さんが強くても、矢には限りがあるからな。ここで全弾撃ち尽くされても、この後心もとなくなるだろうし」

「じゃあ、やっぱり自分らも戦わないとダメッスね」


 堅吾は、手に持っている木製バットを強く握りしめた。


「当たり前だ。あと、頭を矢で射抜かれているからって、倒れているゾンビに油断するなよ。映画とかでもあるけど、倒したと思ったら生きていて、足をガブってやられるパターンがあるから。あと言ってて思ったんだけど、ゾンビに対して生きていてっていうのが、適切な言葉かどうかはちょっとアレだけどな」

「まあ、ゾンビとして生き返った……とか、そういう言い表しもあるし、いいんじゃないっスか。それより、その映画知識、凄く役立ちますね!」


 堅吾が大きくバットを振りかぶった。目前のゾンビの頭部を強打する。ゾンビが倒れると、更にその上から二打加える。そこで他のゾンビが近づいてきたので、そいつらにバットで殴りかかった。


 俺も後方の馬車と隣にいる堅吾を気に駆けながらも、剣を振った。迫ってくるゾンビは、全て転移者だった。だけど俺は何も考えなかった。人と思えば、剣を振れない。だから、ただただ襲ってくるアンデッドをテレビゲームと同じく、やっつけていると自分に言い聞かせていた。


「だああああ!!」

「おりゃあああ!!」


 ゾンビの頭を剣でかち割る。その横で、堅吾は見事な横蹴りで、ゾンビを後退させると間髪入れずに距離を詰めて、またバットで殴り飛ばした。


「ふう、これで最後か。噛まれたりしていないか、堅吾」

「押忍、大丈夫ッス。それにしてもかなりの数ッスよね。モンタやトイチも連れてくれば良かった」

「あいつらは駄目だ。トモマサ達と、来るべき日に備えて、今日はレベリングをすると言っていたから」

「レベリングね……そうか、確かレベル5以上ないと、来るべき日がきたらもとの世界に追い返されるんでしたっけね?」

「ああ、でも堅吾は【喪失者(ロストパーソン)】だからな、心配はいらない。スマホの無い奴は、そもそももとの世界へ戻る事はできないし、対象外だ」

「じゃあ、自分はレベルなんて気にしなくていいんスね」

「気にするも何も、スマホがないから自分の今のレベルも確認できないと思うけどな」

「きゃあああっ!!」


 目の前のゾンビを倒し切ったと思い、少し気楽になって会話をしていた。すると後方から、女の子の叫び声がした。馬車。声の主は、アイちゃんと三条さん。


 俺と堅吾は目を合わせる暇もなく振り返って、馬車に向けて走った。馬車の手前では、ゾンビに大井さんが押し倒されていて、安藤さんも2匹のゾンビに同時に襲われている。もしかして、噛まれたのか⁉ いや、そんな訳はない!! 戦慄が走る。


 ドウンッドウンッ!!


 銃声!! そして大井さんのもとへ駆けつけた俺は、彼女に覆いかぶさっているゾンビに蹴りを入れた。転がるゾンビ。それに追い打ちをかける堅吾。バットで脳天を叩き割る。飛び散る。


「大井さん!!」

「うぐ……」


 まさか……悪い方の事を考えてしまいそうになったので、頭の中からそれを振り払い、安藤さんのもとへ駆け寄った。馬車の中にいた未玖、アイちゃん、三条さんは無事なのか⁉

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