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Phase.407 『異世界の兎』



 未玖が俺に見せたかったものは、小屋だった。その前で未玖と一緒に遊んだ。


 コケトリスの世話をしていたストレイシープ2人と共に、コケトリスを追いかけまわしたり、ピンク色の兎と戯れたり。コケトリスはまあ、あれだけど兎はなぜかひじょうに未玖に懐いていてびっくりした。草の上に転がる俺と未玖と兎。


「ゆきひろさん」

「え? なに?」

「ちょっとこの子の匂い、嗅いでくれませんか?」

「え? この兎の!? って嗅ぐとしても、何処を? 股とか嫌だよ」


 大笑いする未玖。フフフフ、ウケたな。


「もう……ゆきひろさんは……違いますよ。背中でもいいですけど、頭か首の辺りがいいです」

「なるほど。なんでって聞いたら、野暮になるから聞かない。じゃあ、嗅いでみるか」


 未玖は、自分の傍で丸くっていたピンク色の兎を手に取ると、俺に差し出した。未玖でもひょいと持ち上げられる、小さなピンク色の兎。受け取ると、一瞬暴れたので「しゃいしゃいしゃい」と宥めるように声をかけて胸に抱いた。そしてピンク色の兎の首筋へと顔を近づける。


 すんすんすん……


「こ、これは!!」


 未玖はにこりと笑った。


「ほんのりと匂いがしましたよね」

「ああ、した! 匂いがした!」

「それは、どんな匂いでしたか?」

「すんすんすん……こ、これは桃だ!! ほんのりと桃のいい匂いがするぞ!! なんだこりゃ!! この兎、桃の匂いがするんだけど、いったいどうなっているだ⁉」


 まさか、そういう桃の香りのする香水とかをこの兎に……って未玖はそんな事はしないか。っていう事は……


「驚きました? この桃色の兎、桃の匂いがするんです」


 桃色の兎……確かにピンク色の兎って思っていたし、間違ってはいないと思うけど桃色の兎の方がしっくりとくる。そうか、桃の香りのする桃色の兎か。


「これはいい匂いだな。でも不思議だな。なんで桃の香りがするんだろう」

「解りません。でもここは、異世界ですから桃の香りがする兎がいても、別に可笑しくはないですよね」

「まあ、そう言ってしまえば、そうなんだけどね」


 また桃のいい香りが嗅ぎたくなって、兎に手を伸ばすと兎は猛ダッシュで俺から逃げた。そして小屋の裏手に生えている草むらに、跳び込んで隠れてしまった。


「ああ、逃げた!! まずい、未玖!! 兎が!!」


 兎が逃げてしまったのに、笑っている未玖。俺は「捕まえないと!」と言って兎の後を追おうとした。でも未玖が俺の手を掴んで止める。


「ゆきひろさん、大丈夫です。兎は帰ってきますよ」

「え?」

「あの兎ですが、もうここを自分のうちだと思っているみたいで……それにあの小屋の裏にある草の茂みなんですが、あの子のお気に入りの場所なんです」

「え? そうなんだ」

「はい。普段は小屋の中にいたり、この辺りを走り回っていたり、その茂みに潜って遊んでいるみたいで」


 俺の知らないうちに、スタートエリアがそんなメルヘンな事になってしまっていたとは……なんてね。桃色の兎一匹で、メルヘンっていうのは大袈裟すぎるかな。


「未玖は、本当に動物が好きなんだな」

「はい。もとの世界では、今までペットとかそういうのも飼った事がなかったので……自分自身、動物とか好きだったんだなって驚いています」

「未玖にはそういう能力があるのかもしれない」

「能力……ですか?」

「異世界ものの漫画とか小説なんかでビーストテイマーとかあるだろ? 未玖はそういう能力があるのかもしれないなって、ふっと思ったんだ。ストレイシープ達とも、未玖は仲がいいみたいだし、その桃色の兎にも好かれている。コケトリスだって、よく懐いているふうに見えるし」

「も、もしそういう能力が本当にあるのなら、そうだったらいいなって思いますけど……」

「いや、そうだよ。異世界とか関係なしに、未玖はそういう動物とかに好かれる能力があるんだよ。きっと」


 絶対そうだって思って未玖にそう告げると、未玖は顔を赤くして困ったように俯いた。でもこの未玖の表情からは、照れの他に嬉しさも感じる。


「そうだ!」

「え? どうしたのですか、ゆきひろさん?」

「未玖は、もう牛に会った?」

「牛……ですか?」

「そう! 大きくて、立派な牛! ストロングバイソン!!」


 ようやく思い出したのか、別の事だと思ったのか、はっとする未玖。


「もしかして草原エリアにいる2匹のストロングバイソンの事ですか? 安藤さんの馬車を引いている牛ですよね」

「そう、それそれ。ちゃんとまだ見てないだろ? これから見に行かないか?」

「は、はい。ちゃんと見てみたいです」


 未玖は、かなりの人見知りだった。それでもここに拠点を作って仲間が増えて、だいぶ人には慣れてきたとは思う。だけどまだまだ人見知りしてしまう未玖は、新しく俺達の仲間になった安藤さんとは、まだろくに会話もしていない。つまりストロングバイソンの事を知っていても、遠目に見ていても近づいてちゃんと見てはいないのだと思った。


「よーし、ついでだ。まだ午前中だし、これから安藤さんにお願いして、馬車を出してもらおうか」

「え⁉」

「外に出たいって言っていただろ? 尾形さんの拠点なら近いし、これから行ってみようか。でもやはり外は危険だからな。他にも誰か、声をかけよう。それで安藤さんもオッケーしてくれたら、馬車でドライブだ。もちろん、行くだろ?」

「い、行きます!! 行きたいです!!」


 未玖も喜んでくれるし、周辺の偵察にもなる。尾形さんとも今日また会って話をしたいと思っていたし、何より俺もまた安藤さんの馬車に乗りたいなと思っていた。


 さて、とりあえず外へ出るなら、俺と未玖と安藤さんだけって訳にはいかないし、誰に声をかけようか。

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