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Phase.405 『未玖の頼み』



「そう言えば、最近は未玖とこうやって2人だけで、ゆっくりと話しをしてなかったよな」


 少し怯えていた未玖だったけど、そう言うと少し楽になったのか照れた顔を見せた。


「考えてみれば、俺のこの世界の出来事は、未玖との出会いから大きく広がったんだよな」

「わ、わたしもです……ゆきひろさんが、いてくれたから……わたし……」

「よし、これから未玖が何処に連れて行ってくれて、俺に何を見せてくれるのか楽しみだ。だけどそういう楽しみは、もうちょいとっておこうか」

「え?」


 森路エリア――木々が多く生えているエリアで、所々に苔むした岩などもゴロゴロと転がっていたりする。この世界へ来た頃は、その岩の中に岩の魔物が混じっていて驚いたっけ。探せば、その辺にいるかもしれないけれど、とりあえず今は必要ないな。


 ゴロゴロっと岩が転がる場所を指さした。


「ちょっとそこに座って休憩していこうか。たまには、いいだろ」

「はい! いいですね」


 未玖はとても嬉しそうな顔をした。そして、てててと俺が指した岩へ駆けて行くとその岩の1つに飛び乗った。俺も同じところへ近づいて行くと、岩に背を向けて座った。


 辺りから、鳥の囀りや虫の鳴き声が聞こえてくる。木漏れ日と、草と木の香り。少し深呼吸してみる。


「ゆきひろさんは、これからどうするんですか?」

「そうだな。とりあえず、この異世界を冒険をしたいと思っている。実は誰もこの『異世界(アストリア)』の事を深く知る人は、未だいないんだよな。長野さんでさえ、エルフとかドワーフとかっていう異世界定番の異世界人に会った事もないという」

「はい、わたしも誰かが会ったという話自体、聞いた事がありません」

「ああいうのなら、いるけどな」


 そう言って、木々の生える隙間、更にその向こうを指さした。何かあるのかと、未玖が目で追う。すると指したその先、森路エリアの中をモコモコした白い小さな二足歩行の生物が、2匹仲良く歩いていた。ストレイシープだ。


「ぷっ!」


 未玖が笑った。よし、ウケたぞ。


 2匹のストレイシープは、こちらに気づいた。俺は大きく手を振る。未玖にも振ってみろと促すと、ストレイシープもこちらに向かって手を振り返してくれた。とても短い手で一生懸命振っている姿は、とても可愛かった。


「メリー達は、この世界の生物で初めて友好関係を築けた者達だな」

「はい。ゆきひろさん達が、大谷君達をゴブリンの巣から助け出しに行って、帰ってきた時は驚きました。メリーのお友達も沢山いたし……その、可愛くて」

「そうだな。でも今は皆、俺達の仲間だし、羊の住処エリアに行けばいつだって会える。今も、ここで会ったしな」

「あはは、そうですね」


 来るべき日。それに何か恐ろしいものを感じる俺と未玖。その話を一旦遠ざけたくて、メリー達に話を移した。それから他愛のない話をいくつかする。


「それじゃ、そろそろその未玖が俺に見せたいってものを、見に行こうか」

「あの……」

「なんだ?」

「あの……ゆきひろさんは、また他の拠点……他の転移者の方が作っている拠点に行ったりしますよね」

「ああ、そのつもりだ。来たるべき日、つまり日曜までに尾形さんの廃村や、小雪姫にもまた会っておくつもりだ。あと、まだ行った事のない拠点もあるし、行ってそこのリーダーと話をしてみるつもりだ。協力できないかってね。そうすれば、俺達のこの異世界ライフは、もっと安全で確実なものになるはずだし」

「あの……」

「うん?」


 未玖は、何か言い出しにくい事を言おうとしているようだった。両手で自分のスカートを強く掴んでいる。


「あの……その時は、わたしも一緒に行ってもいいですか?」

「え? 未玖も」

「はい。ゆきひろさんと一緒に……」


 未玖がこんな事を言うとは、正直意外だった。なぜなら、未玖はとても怖がりだから。だから安全な拠点の内側にいる事を、いつも望んでいると思ったから。


 しかも俺達の拠点は、スタートエリアに加えて、ここ森路エリア、草原エリア、パブリックエリア、羊の住処エリア、川エリア、南エリアと、今や領地も広大になっている。拠点から全くでないからといっても、それ程窮屈な思いもしないと思っていた。


「で、でも外は魔物がいるし、危険だぞ」

「怪我したり、死ぬのは怖いです」

「なら……」

「でも覚悟はできています。この『異世界(アストリア)』に来た時から、この世界は幻想世界のように美しくて不思議に満ち溢れていますが、同時に直ぐわたしの近くに死もあるんだって。とても身近な存在なんだって。でもわたしも、ゆきひろさんがしたいって言っている冒険をしてみたい。一緒に感動をしたいです」

「か、感動をしたいって……」


 未玖の顔を見ると、今にも泣き出しそうになっていた。つまり、それを意味するのは、必死で言っているということ。


 うーーん。こういうのには、弱い。未玖の事は、本当に妹みたいに思っている。だけど確かに未玖の気持ちも尊重しないといけない。


「解った、じゃあ次に行動する時には声をかける」


 未玖の安全の為には、拠点から出ないほうが一番いい。あえて、そんな事は言わなかった。それでいいと思った。パアアッと未玖の表情が明るくなると、俺の手を掴んで引っ張った。


「約束ですよ」

「ああ、約束だ。でも外に出るなら、それ相応の準備と注意が必要だぞ」

「はい!」


 俺は未玖に腕を引っ張られて、また森路エリアを歩き出した。そう、未玖が俺に見せたいものっていうのは、スタートエリアにあるんだっけ。

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