Phase.403 『軽量鉄骨』
ジャングルの中に、家があった。俺達の小屋とは比べ物にならない。高さも三階建て。嘘だろ、まさかこんな短時間で、家を建てたっていうのか……
呆然としていると、誰かの声が聞こえてきた。
「オーライ! オーライ! そうそう、こっちこっちー!!」
見ると三階建ての立派な家の前に、誰かがいた。更によく見ると、何十人もいる。
「そうだーー! こっちに運んでくれ!!」
「これはこっちでいいのかーー!!」
「いいぞ、やってくれーー!!」
皆、作業着のような服を着ている。専務が連れてきた人達。
「ユキー、こ、これって……」
「家を建てている。いや、もう立派な三階建ての家ができているけど、まだ何かここに建設しようとしているんだろう」
「専務がか」
「他に誰がいるんだよ」
「だよなー」
もう少し近づいて行くと、作業をしていた人達は、俺と翔太がいる事に気づいた。皆、俺達を見ると軽く頭を下げてくれたの、で俺達も返した。そして何もなかったかのように、再び作業が再開される。
「いやー、やっぱりマンパワーだよね。あと、軍資金」
「え? せ、専務!」
急に後ろから声をかけられて、跳び上がる俺と翔太。振り返るとそこには専務がいて、フレンドリーに翔太の肩をポンと叩いた。
「椎名君に秋山君。いらっしゃい、って言ってもここは君達の拠点で、僕達はその一部を借りているだけだったね」
「は、はあ」
「なのにこんな三階建ての家が建っていて驚いたかな?」
「これはいったい、なんなのですか?」
「建てちゃ駄目だったかな? 僕らは暫くここに居ていいんだろ?」
「もちろんいいですよ。でもこんな短時間で、この規模の家が建つなんて驚きを隠せなくて」
笑う専務。翔太は、戸惑っている。
「さっき言った通りだよ。マンパワー、そして軍資金で家は建つ。多少の御礼をして、パブリックエリアにいた他の転移者にも昨日から声をかけて、手伝ってもらったからこそ短時間で不可能を可能にした訳だね。因みにこの建物は軽量鉄骨という奴だよ」
「け、軽量鉄骨!?」
新しい賃貸物件を借りる為に、不動産会社などに行くと結構目にする事がある。鉄筋コンクリートとか木造とか、そして軽量鉄骨と。でもいくら人数を動員したからって、そんな簡単にできるものなのだろうか。
明らかに動揺している俺を見て専務は、また楽し気に笑った。そして説明してくれた。
「軽量鉄骨って言ってもね、ピンキリで色々あるからね。因みにこれは、組立式のものだよ。物置とか……あのー、そうプレハブ。簡単に言えばあれだ。パーツを選んで、それを組み立てる。そういうの、子供のオモチャでもあるだろ」
プレハブか。前に成田さんがプレハブを設置したいって言っていた。それと同じだと考えれば、しっくりくる。だけどやはりこの規模のものを、いくら人数がいるからって建ててしまうのは驚きを隠せない。でもこれだけの建物があれば、かなりいい。居住性もテントや見様見真似で建てた小屋なんかより、遥かにいいだろう。
翔太が突っ込んだ話を専務にした。
「あ、あの専務」
「ああ、何かな」
「これ、建てるのに、いくらぐらいしたんですか? もしかして、1000万とか……」
「アハハハ、そこまではしないよ。ツテを頼って手に入れたものだしね。しめて200万でおつりがくる程度だよ」
「に、200万……」
「多少チープでも、それで三階建ての一軒家が手に入るんだ。安いもんだろ? でも水道設備や電気設備は通ってはないし、とうぜんガスやトイレもない。キャンプ場とかで、バンガローってあるだろ。例えるなら、あれの更に大きいのを想像してもらえればいいかな。でも部屋数はあるんだ」
「中とか見せて欲しいですけど、まだ作業中ですよね」
「いや、かまわんだろう。実はもうほぼ完成しているんだ」
専務の言葉に、翔太が首を傾げて聞いた。
「え? でもまだこんなに皆、作業していますけど……」
「今、表にいる連中は、更にここにプレハブを建てる為に作業しているんだ。全部で5つ6つ位あればいいかなって思っているんだけどね」
専務達は、全員で30人位の人数がいる。加えて、人を雇っている。ならこのペースで建てる事も、家の必要数もそれ位あっても、普通だと思った。
でもこんな短時間で、プレハブとはいえ建ててしまうなんて……南エリアは、まだ未開拓だし、危険性もうちの拠点の中では一番ある場所だ。確かにこれ位、頑丈でしっかりした家があるなら安心だろう。
翔太が近づいてきて、俺の耳元で囁くように言った。きっと俺と同じ事を思っている。
「ユキー」
「ああ、解ってるよ。あとで成田さんにも声をかけて、ここの事を話しておこう」
「今の所、俺達の住処ってあの丸太小屋が一番防御力高くて、他は手作り感満載の小屋とテントだもんな」
「成田さんもプレハブとか言っていたし、これを見たら草原エリアとかスタートエリアに、ここにあるのと同じような俺達の家を作ってくれるよ」
俺達がコソコソと会話しているのをよそに、専務は仲間達が作業をしている方へと歩いていく。見渡す。そして三階建ての建物の前まで行くと、俺達の方を振り返り手招きした。案内してくれるらしい。
俺と翔太は、専務のもとへ駆けていくと彼の案内に従って、建物の中へと入った。
中へ入ると、驚くべき事に玄関、そして廊下があった。もちろん何かあった時には、素早く行動をしなければならない世界なので、基本的には土足オーケー。
奥まで進んでいくと、沢山の小部屋の他に上階へ行く階段も目に入った。翔太は、ずっと「おおーー、おおーー」って感動と興奮の声をあげている。俺はこの際、思い切って専務に聞いてみた。
「専務」
「なにかな」
「あの……俺達も、こういう家が欲しいんですけど……どうにかなりませんか? 俺達の仲間には、女の子もいますし、もう少し安全な住まいがあるといいなってずっと考えていたのですが」
「確かにそれはそうだね。うん、僕で良ければ協力しよう」
「え? いいんですか?」
「もちろん、今は僕ら、協力関係にあるだろ。手伝いは、惜しまないよ。でも先に、僕らの住処を作り上げてからだ。それからでいいかな」
「はい、ありがとうございます。それじゃ、俺達も微力ながら専務のお手伝いをさせてください。そうすれば、俺達の家も早く建つでしょうし」
専務は俺の顔を指して、「ちゃっかりしている」とばかりに大笑いした。そして、うんうんと頷いてくれた。




