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Phase.402 『専務 その1』



 ――――暫く来る事がなかった南エリアに到着すると、俺も翔太もまず驚いた。


 南エリアはジャングルのようになってしまっていて、誰も手を付けていない場所になってしまっていた。たまに大谷君達や和希が入り込んでいたり、鈴森がここで住まうって聞いたりはしていたけど……暫くこっちへは来ていなかったからこそ、現状に驚いてしまった。


 でも今驚いている理由は、それだけではなかった。ジャングルの中に、道が出来ていたのだ。草木が切り開かれて、普通に歩ける道。結構危ないけれど、台車を転がしてもいける位の道。


「ユキー、これって……」

「ああ、専務だな。でも解りやすい。南エリアも他のエリアと同様に、広いからな。道があるって事はここを歩いていけば、専務達がいる場所に辿り着けるって訳だ」

「でもこれ程、南エリアがジャングル化しているなんて、思ってもみなかった。植物が急成長したあの日以来、他も結構緑が多くなったけど……」

「邪魔な木は伐採して、増えまくった草は刈ったり引き抜いて除去したからな。だけどこの南エリアだけは、例外だった。手付かずのままだったからな」


 おそらくは、成田さんや松倉君が定期的に入っては、エリアを囲っている有刺鉄線やワイヤーをチェックしてくれているとは、思う。でもはっきり言って、未開の地に等しい。


「そんじゃまあ、こうしていてもなんだし……中へ入ろうか、ユキー」

「そうだな。一応鉈か剣を抜いて、手に持って用心しながら進もう」

「りょーかい。見るからに、外とあんまり変わらねーもんな」


 俺と翔太は、腰に吊ってある剣を抜いた。この世界で手に入れた剣。鉄の剣だと思っているけれど、ひょっとしたらこの世界の特別な金属でできた剣かもしれない。だけど俺も翔太も鉱石には詳しくないし、重さもそれ位なので鉄の剣だと勝手に思い込んで使っている。今では、この手にもすっかり馴染んだ剣。


 南エリアに入ると、道なりに翔太と進んだ。あちらこちらから、虫や鳥の鳴き声が聞こえてくる。あの異常事態の時から放置していたからなんだけど、本当にアマゾンみたいなジャングルになってしまっている。って言っても、アマゾンには行った事はないんだけれど。


「翔太」

「おう」

「これだけ草木が生えていると、エリア内に魔物が侵入しているかもしれない」

「これだけ草が生えまっくていたら、ありえるな。ってなんか、そんな事を考えると専務達が心配になってきたな」

「専務の仲間は30人位いるし、何かあったら誰かが俺達のいる場所まで助けを求めて駆けてくるだろう。それがないって事は大丈夫だと思う。でも用心はしないとな。蛇とかはいるだろうし、もしもアルミラージが入り込んでいたら大変だ。俺達目がけてあの角で、突進してきたら足やら貫かれるぞ」

「だな」


 2人してキョロキョロ辺りを見回して警戒しながらも進む。すると何処かで草の音がした。


 ガサガサッ


 身構える俺と翔太。


「ユキー! 今のは風とかそんなのじゃないぞ!!」

「ああ。でもここは、一応俺達の拠点内だから」


 そう言って、息を吸い込むと音がした方へ向かって叫んだ。


「椎名だ!! この拠点のリーダーの椎名だ!! そこに誰かいるのか⁉」


 ガサガサガサガサ!!


 伸びきって俺達の背丈位になった草の茂みの中を、何かが近づいてくる。姿勢をやや低くすると、剣の柄を強く握った。


「翔太。一応、左右どちらにでも避けれるようにしておけ」

「解っているって」


 ガサガサ!!


 一応、ゴブリンでも何が飛び出してきても、避けて攻撃できるように、その段取りを心の中でどうするか繰り返していた。余計な事は考えない。一瞬の恐怖で身体が固まる事もあるし、それで致命傷を負う事だってあるから。だから、ただ何が出てきても対処できるようにという事だけ考えた。


 すると草中から、男が2人飛び出してきた。いや、飛び出したというか普通に姿を現したと言った方が正解か。


「おお! 驚いた!!」

「こ、こっちも驚いたって!!」


 男のセリフに対抗する翔太。この2人は、見覚えがあるかもしれない。専務の仲間にいたような気がする。


「俺は、椎名だ。この拠点のリーダーをやらせてもらっているもので……あと、専務の……」

「専務? もしかしてトヨさんの?」


 トヨさん……豊橋専務……やっぱり、この2人は専務の仲間で間違いなかった。俺も翔太も、それで間違いないと思っていたとしても、そうと聞いて少し安心する。


「そうだ。それでちょっと専務の様子を見に来てみたんだけど……」

「ああ、それならこの先。直ぐの所にいるよ」

「そうなんだ。ありがとう」

「いえいえ」


 専務はやはり、南エリアのこの道の先にいるらしい。俺はついでにちょっと気になった事を2人の男に聞いた。


「えっと、それはそうとこんな草むらで君らは何をしていたんだ?」

「え?」

「いや、深い意味はないんだ。拠点の中ならまあ、自由に行動してもらっていいし。でもちょっと気になって」

「あー。この辺、ジャングルみたいになっているから、ちょっと探検しておこうと思ってね。何か食糧になる獲物がいるかもしれないし」

「そうそう。あと、さっきこいつが言ったけど、この近くに住処を作らせてもらったから、その周囲がどうなっているのか、知っていないとアレだろ。もしもの時とか困るだろ」

「あー、なるほど。解った、答えてくれてありがとう。でもこのエリアは、うちの拠点内だけどずっと手付かずだった場所だから、何がどうなっているかもあまり解らない。池だってあるし、くれぐれも気をつけてくれ」

「池か。ああ、解った。ご忠告、ありがとう。気をつける」


 男2人とそう言って別れると、2人は道を使わずにまた草むらの中へ消えて行った。


 この近くに、専務達がいる。住処って言っていたけど、おそらくはキャンプ。俺の翔太は、先へ進んだ。

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