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Phase.400 『捜索者 その5』



 ――――俺達の拠点にあるエリアの1つ、森路エリア。名前の通り、丸太小屋とか井戸とかあるスタートエリアと、女神像や畑などある草原エリアを繋ぐエリアで、沢山の木々に覆われている場所。


 以前、まだ俺がこの『異世界(アストリア)』に1人でやってきていたころ、未玖や長野さんにも会う前の事だった。今のスタートエリア……丸太小屋を拠点とすることに決めて、草原エリアにある女神像から移動をしていた時に、いつも小走りになっていた気がする。


 だってこの森は、昼間でも鬱蒼としているし、とても不気味だったから。近くで虫や鳥の鳴き声、聞いた事もない獣らしき声が聞こえた。だから俺はおっかなくて、この場所を振り切るようにして、丸太小屋まで駆け抜けていた事を今も思い出す。


 だけど今は、この場所も有刺鉄線やワイヤー、バリケード等で囲まれていて外の世界と一応は遮断さえている。完全に安全な場所かと聞かれたら、そうではないけれど、それでも安心感を得られる守られた場所になった。それがまた不思議でならなかった。


「ユキー、あの3人、何話してんのかなー?」


 結構離れた場所で、小貫さんと佐竹兄、岩城さんが会話をしている。眺めていると、また佐竹兄がまた興奮し始めて小貫さんに迫っているようだった。


「ユキー。まずくないか?」

「え? 何が?」

「え? 何が? って、なんだよそれ! ほらまた佐竹さんの兄貴が、暴れ出しそうになってんじゃねーか。すぐ止めないと、今度は危ないかもしれないぞ。そうだ、俺と岩城さんでなんとか止めているから、ユキーはトモマサとケンゴを連れてきてくれ。トモマサなら、佐竹兄貴といい勝負しそうだし」


 そう言って立ち上がろうとした翔太の身体を軽く押して、また座らせた。


「なんだよ、おい! 助けなくていいのか?」

「いいよ。ここで話が終わるのを待っていよう」

「だから、そしたら小貫さんが殺されるって! あのデカい男にな!!」

「殺されないから、大丈夫だよ」

「ええーー、本当かよ!?」


 実は根拠はなかった。だけど俺は、大丈夫だと解っていた。佐竹兄に対して、俺が約束を守らなかった事を責めた時の彼のあの顔。あれで確信できた。


 別に俺が人を見る目があるという訳でもないし、自信がある訳じゃない。洞察力がどうのっていうのも、そんな力は俺には何もない。だけどなぜか、大丈夫だと思えた。佐竹兄や岩城さんの表情や反応。彼らとは、確かにまだ知り合って間もないかもしないけれど……


 なにより小貫さんも、佐竹兄とは話をつけたい。そんな感じに見えたし……


 3人は、長く話し込んでいた。俺と翔太は、その話が終わるまでここで見守っている。


「そういや、ユキー。専務だけどな。南エリアにいるんだよな」

「そうだな。俺達は、もう会社に出ないで大丈夫だと言われたけど、専務はそうはいかないかもしれない。でも専務の他の仲間達は、あそこで何かやっているかもしれないな」

「そうかもしれないけど、ひょっとしたら専務……今、いるんじゃないかと俺は、思っているんだけど」

「根拠は?」

「だって、次の日曜日。来たるべき日がやってきたら、専務も俺達と一緒にここに残るんだろ? って事は、専務だって一ヶ月位、会社を休むって事じゃないか。なら、今日だってこっちに来ていても、その都合がついているんじゃないか」


 確かにそうだった。やっぱり、こいつは核をついてくるな。


「じゃあ、後で南エリアに見に行ってみようか」

「だな。南エリアは、ずっと手付かずなエリアだけど、一応俺達の領地だしな。専務たちがいったいそこで、何をやっているのかっていうのも気になるし」

「そうだな。一ヶ月……もとの世界に戻れないなら、案外自分ら用の大きな家を建てていたりして……」

「ははは、いくらなんでもそれは……」


 翔太と2人、はっとして暫し沈黙する。その可能性はありうる。


 専務は、正式に俺達の仲間になった訳じゃない。俺達は俺達のクランがあって、専務もクランを作って仲間がいる。来たるべき日がやってきて、乗り切るまではお互いに協力しようという、いわば同盟関係にある訳だ。


 だからこれは、一時的なものであって、暫く俺達の拠点にいるだけなのかもしれないのに、そんな別のクランの拠点に自分達の家を作るだろうか……


 いや、そう言えば成田さんがプレハブを建てないかとかなんとか言っていたけど……簡易的な組み立て式のそういうのを、ここへ運んできて一時的に建てるっていうのなら……ありかもしれない。


 現に専務はお金持ちみたいだし、そういう金の使い方もできるんじゃないか。


 翔太と目を合わせると、俺は「これは確認するしかないな」と言った。翔太も大きく頷いた。


 そこで、岩城さんが俺達を呼ぶ声が聞こえた。どうやら、話はついたようだ。


 翔太が3人に向かって大きな声で言った。


「おおーー、もう終わったかーーー?」

「終わったーー!! ありがとう、もう話はついたーー!!」


 岩城さんがこっちに手を振ってそう言ったので、俺と翔太は3人のもとへと戻った。そして小貫さんと、佐竹兄の顔を見つめる。


 すると佐竹兄は、俺と翔太に頭を下げて叫ぶように言った。


「さっきは、椎名君と秋山君の信頼を裏切ってすまなかった!! 許して欲しい。小貫とは話もついて、俺は納得した。でもいくらどうかしてたとはいえ、俺は約束を破った。今すぐこれからここを出ていくから、それで許して欲しい」

「出て行ってどうする?」

「そんなの決まっている!! 弟を殺したブルボアを探して、血祭りにあげる」


 俺は翔太と顔を合わせると、再び佐竹兄の方を向いて握手を求めた。


「佐竹さん、戸村さん、須田さんは、俺達にとっても友人だ。だから彼らの命を奪ったブルボアは、俺達にとっても憎い相手だ。ならさ……ここは、もう一度俺達の関係をやりなおしてみないか?」


 佐竹兄と岩城さんは、驚いた顔をした。だがすぐに、笑顔を見せてくれた。それは初めて見る彼らの本物の笑顔だった。

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