Phase.397 『捜索者 その2』
秋葉原にある、マドカさんのいるメイド喫茶『アストリア』。そこで俺と翔太が出会ったのは、なんと佐竹さんの実のお兄さんだった。
名前は、佐竹義徳さん。そして隣にいるのは、佐竹兄の友人で岩城隆さん。
俺と翔太はそれを知って、自分達の事をまず話した。名前など自己紹介はもちろんだけど、『異世界』でどのような活動をしているか。
そして佐竹さんと、どうやって出会ったのか。佐竹さんと最初に出会った時に、他に戸村さん、須田さん、小貫さんという仲間がいたこと。仲良くなって、うちの拠点作りを手伝ってもらった事や、近くの森に木を伐採しに行って、ウルフの群れに襲われて共に戦った事など。色々話した。
「それで、弟は何処にいるんだ? 教えてくれ、頼む!! 椎名君の仲間になっていないという事は、別の何処かにいるのか? たまに椎名君の拠点にやってくる事はあるのか? なぜ、もとの世界に戻ってこない。もしかして、戻ってくる手段……スマホを紛失したとかそういう事なのか!!」
「落ち着け、落ち着けって佐竹! お前、デカいんだからそんな感じに迫ったら、椎名君も秋山君もビビって話を続けられないだろ!! 落ち着け!!」
俺は翔太と顔を見合わせた。
佐竹さんは……
「すまない、つい興奮しちまって。悪かった、必死なんだよ。弟の行方を捜して必死なんだよ。両親もいねえ。肉親はあいつだけなんだ。だから……教えて欲しい。あいつが何処にいるのかをよ」
佐竹兄は、そう言って俺達に深々と頭をさげた。そして再び俺達の顔を見つめる。その目には、涙が浮かんでいた。
「ユ、ユキー……」
まるで、縋るような情けない声を出す翔太。
「解っている。俺が話す」
佐竹兄と向かい直した。そして俺は注文したアイスコーヒーをグイっと飲むと、佐竹兄に全てを話した。
佐竹さん達は、俺達の拠点で少し一緒に過ごしたを後、出発して『異世界』で冒険を続けた。そしてその途中で、命を落としたと。とうぜんながら、佐竹兄は暫く呆然とした後、大声で泣き始めた。
店員が心配して様子を見にきたので、翔太と岩城さんが何度も頭を下げて謝ってくれた。そして岩城さんが佐竹兄を落ち着かせると、彼は何度も頷いてようやく落ち着きを取り戻した。
「……そうか、弟は死んだのか」
「ああ……佐竹さんは、とてもいい人だった。それに気もあって友達にもなった。だから凄く……凄く残念だった」
「すまん、取り乱して」
「いや……そんなの当然だろ」
「だけど、椎名君……」
「ああ」
「茂が死んだのを、君はどうして知った? 茂の死体を見たのか?」
頷く。
「そうだ。見に行ったんだ。ブルボアという魔物に襲われて、殺されていた」
「ブルボアという魔物は知っている。凶暴な猪だ。だが茂は、君の拠点を出て行ったんだろ? なぜ君は茂の後を追い、茂のいる場所が解ったんだ? 誰かに聞いた?」
「ああ。佐竹さん達は、ブルボアに襲われて殺された。でもその時に、小貫さんだけは生き延びて俺達のいる拠点へ戻って来たんだ」
「なるほど……それで、茂のいた場所を椎名君は解ったのか……」
一瞬、ちょっと佐竹兄の俺を見る目が怖かった。だけどそれもそのはず。大切な弟を失った。正気でいられる訳がない。
佐竹兄は、ブツブツと何か呟くと俺と翔太の顔を交互に見て言った。
「こんな親切な人を相手に、俺は喧嘩ごしに絡んでしまった」
「いやいや」
「その上で、頼みごとをするなんてどうかしていると思う。だが、椎名君と秋山君にはどうしても頼みたい事があるんだ!!」
岩城さんは、これから佐竹兄が何を言うか察したみたいだった。腕を組んで、彼がこれから言う事に対して注目している。それは翔太もだった。
「な、なにかな?」
「俺を仲間に……椎名君の仲間にして欲しい」
「それなら、俺も一緒に」
佐竹兄に続いて、岩城さんも言った。
「いや、ちょっと待って。俺達の仲間になりたい? それは本気で言っている事なのか?」
「そうだ、本気だ」
「俺達の仲間になるっていうのは、俺達のクランになるという事だ」
「そうだ、それでいい。仲間になる為には、どうすればいい? テストか何かを受ければいいのか? それとも金か。それならいくらか払えるぞ」
「おいおいおい、佐竹!! ちょっと待て!! またお前、熱くなっているぞ!! そういうのは良くないだろ? 椎名君にそういう当たり方をしていいと思っているのか? 茂が世話になった人だぞ! お前は弟を悲しませるのか!!」
岩城さんにどやされて、俯く佐竹兄。そしてこちらを見て、申し訳なさそうに謝った。
「すまん……またやってしまった。俺の悪い癖だ。普段から熱くなりやすい。おまけに弟を失った。許して欲しい」
こんなふうに言われたら、許すもなにも……
「佐竹さん。岩城さんもちゃんとよく聞いて欲しい。2人は俺達の仲間になりたいと言ってくれた。仲間になるのは、別にいい。佐竹さんにはよくしてもらったし、そのお兄さんとお兄さんの友人なら大歓迎だ」
「なら!」
「でも、俺達には他にも仲間がいる。幸い俺は、クランリーダーをやらしてもらっているし、この場で佐竹さんと岩城さんを仲間にする事もできる。だけど、ちゃんと仲間になる為の条件を2人が守れるかどうかだ」
「条件?」
「そう、条件。ルールとも言うけど、仲間にはこれを守るようにしてもらっている」
「なんだ、それは?」
俺は2人に、その仲間になる為の条件を話した。
その内容とは、仲間同士で諍いが起きてもちゃんと話し合いで解決するとか、仲間同士仲良く手を取り合って協力しなければならないとか、拠点の外に出る時は他の皆が心配しないためにもちゃんと予め誰かに伝えておく事とか、そういう集団行動において当たり前の事だった。




