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Phase.395 『迷惑な客』



 店内にいた客の中で2人組の男が、特に目についた。理由は、2つある。


 まずは、その2人組は他の3人組の客と何やら揉めていた。最初は、2人組の男のうちの1人が何か3人組に必死になって色々と何か話しかけていた……っというか、なんとなく雰囲気的に、何かを聞き出している感じだった。だけど次第にそれがエスカレートしていき、今は揉めている。


 そして目を引いたもう1つの理由。それは2人組の方の、片方の男……今、相手に掴みかかりそうな位に興奮している男が、大男だったこと。単なる体格のいい男という訳ではなくて、服の上からでも解る筋肉質な感じ。例えるなら中国拳法の使い手のような、しゅっとした感じじゃなくてアメフト選手のようなデカい感じ。


 うちのトモマサとやりあったら、互角の勝負をしそう……って、今はそんなふざけた事を考えている場合じゃないか。


「おい、ユキー? どうしたんだ?」


 マドカさんとの話に夢中になっていた翔太も、席から急に立ち上がった俺を見てそう言った。俺は翔太に「ちょっとここで待っていてくれ」と言って、揉めている男達の方へ歩いて行って間に入った。


 そして気づく。どえらい行動をしている自分に――


 まいった。完全にまいった。こんな行動、以前の俺なら絶対にしない。なんかヤバい雰囲気だなーって思っても、そしたらそれとなく店員に伝えるし、それ以上の事態になるならお巡りさんに連絡する。


 今、俺がやっているようなありえない行動は、完全に『異世界(アストリア)』へ転移するようになり、向こうでの暮らしがメインになってきてからこうなったに違いない。


「ちょっと、ここはお店だから抑えて。メイドさんにも迷惑がかかるだろ? だから落ち着いて」


 予期せぬ急な俺の飛び入りで、怪訝な顔をする男達。だけどメイドさんというワードで男達は、マドカさんや他のメイドさんの方へ眼をやった。するとマドカさんは、笑顔でこちらに手を振る。すると3人組の方は頷いて、この2人組がいる席から離れた席へ行き、こちらに背を向けて座ってくれた。


 でも気持ちが収まらないのは、2人組の男……っていうか、大男の方。そいつは、なんと俺の胸倉を掴んできた。


「おい、なんだお前? 偉そうに人の間に入ってきやがって……もしかして、女の前で格好をつけたいのか?」

「おい、こらてめえ!! ユキーに何しやがる!!」


 慌ててこっちへきそうになった翔太に、手を向けて「来るな」と止める。店の中にいる客達、メイドさん達はこの騒動で驚いて固まっている。


「ちょっと落ち着けって。そんな誰が見ても機嫌の悪そうな感じ……もしかして、なにかのっぴきならない事情でもあったのか? それとも他に何か気に入らない事でもあって……」

「うるさい、黙れ!!」


 男はそう言って、俺の胸倉から手を離すと向こうを向いた。すぐさまもう1人の男が割って入った。


「そうだぞ、やめろ。お前の気持ちは解るが、これはやり方がまずい! 恨みもない相手にお前は何をするんだよ!!」

「うるさい!! それで律儀に行儀良くして、無駄な時間がかかって助かるものも助からない!! そんな事になってもいいのか!!」

「落ち着け!! 確かにそりゃそうだが、皆それを知らない。だろ? それに敵を作りまくってどうするんだ? それこそ、回り道。余計に時間がかかるんじゃないのか?」

「うぐ……」


 俺の胸倉を掴んだ男は、相方に言い負かされていた。でも言い負かされるって事は、話のできる相手だという事だ。あと、やはりなにか事情があるようだな。


「ユキー、俺もそっちに」

「いや、ちょっと待って」


 またこっちに来そうになる翔太を止める。折角大人しくなり始めた男の気持ちを、無駄に逆なでしなくない。翔太は女の子大好きだし、一見ヘタレそうにも見えたりするかもだけど、結構言う時は言うし、怒りがあれば自分より大きな相手に向かっていく性格をしている。だからこそ、ここは止めた。


 俺は2人組の男、それぞれの顔を見て言った。


「何か訳ありか」

「…………」


 さっき、あんな事があったばかり。気まずい空気が漂う。


「この店に来ているって事は、2人も冒険者なんだろ? 俺とそっちに座っているツレもそうなんだ」


 ここはあえて、転移者という言葉は使わなかった。深い意味はなかったけれど、その方が少しでも和むと思ったからだった。


「ツレが興奮して済まなかったな」


 そう言ったのは、俺の胸倉を掴んだ男のツレの男。


「いや、こちらこそ騒ぎを大きくしてはいけないと思っての行動だったんだけど、偉そうに見えたんだったらすまなかった」


 そう言って翔太がいる席へと戻った。


「お疲れさんー。大丈夫だったか、ユキー」

「ああ、別に大丈夫だろ。でもこれ以上の騒ぎにならなくて、良かった。それじゃ、そろそろ行くか」

「ええ―!? もう?」

「そりゃそうだ。未玖達もあっちで待っているし、他にも色々とやる事がある」

「ううーー、未玖ちゃんの名前を出されるとなー。仕方ない。それじゃ、マドカさん。また」

「ご主人様、いってらっしゃいませ」


 出口まで送ってくれるマドカさん。何か知っている感じはするけれど……聞き出せなかったという事は、はぐらかされたって事だろうか。


 まあいいだろう。焦ってもいい事ないだろうし、今日はまだ火曜日だ。日曜まではまだ日にちもある。


 翔太と2人、店を出ると駅へと向かった。久々にここへは来たので、電気街を通る。するとたまによるゲーセン近くまで差し掛かった時、後ろから誰かに呼び止められた。男の声。


「すまない。ちょっといいかな」


 翔太と共に振り返ると、そこにはさっきマドカさんの店で問題を起こしそうになっていた2人組が立っていて、俺達の方を見つめていた。

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